2F 意地っ張りで身勝手な男たち ④

2F-④


「あぁいう女は、苦手だ」

「苦手? あれ? そうでしたっけ?」

「どういうことだよ」


拓也は空になった缶を、芳樹に押し付ける。


「自分で捨ててくださいよ、おごらせたくせに」


芳樹はそう強気に出たものの、拓也の腕が1ミリも動くことはなかった。

数秒後には、動かない状態に芳樹が耐えられず、立ち上がるとゴミ箱に缶を入れる。


「ほら、前に飲み屋で知らない女性と仲良くなって、
広瀬さん、二人で消えたじゃないですか。あの人も、横山さんみたいに、
こう……スタイルよくて……」

「お持ち帰りのお姉さんは、色気のある女がいいだろうが。
その後、楽しい時間を迎えないとならないし。でもここは職場だろ。
そんな余分な色気は、邪魔なだけだ」


芳樹はそうなのかと、軽く頷く。


「仕事をしようとしているんだ、その判断ポイントは別にある……俺の中にはね」


拓也はそう言いながら立ち上がると、軽く背伸びをする。


「さて、出し直すぞ」

「出し直す? 何をですか」

「いちいちうるさいな、お前に話してない」

「もしかして企画書ですか」

「わかっているなら、聞くな」


拓也は、このくらいの時間になると肩が凝ると言いながら、腕を軽く回す。


「肩は凝るけれど、気持ちは懲りませんね……」


芳樹はうまいことを言ったのではないかと、拓也を見る。


「うるさいな、ストーカー!」


拓也は芳樹に向かってそういうと、戻っていった。





上司ともめっぱなしの拓也と違い、彩希はマイペースに仕事を続けていた。

商品の補充をこなしながら、客の対応に追われていると、交代の時間が迫ってくる。


「バタちゃん、お先に」

「お疲れ様です、竹下さん」


竹下は仲のいい店員に声をかけながら、売り場から出て行った。

彩希は竹下の抜けた場所に立つ。


「あの……」

「はい」


彩希がその声に振り返ると、数ヶ月前まで、よく聞いていた声の主が立っていた。


「よぉ……」

「冬馬」


『河西冬馬(とうま)』。彩希とは高校時代の先輩と後輩になる。

一つ年上の冬馬は、大学に進学したものの、二度の留年で結局中退し、

そこから、『夢』を追う日々を送っている。



と、本人は語っているが、いまだに仕事が定まってはいない。

それでも、どこか人を惹きつける魅力と話術があり、

彩希との付き合いも先輩後輩から、一時は恋愛関係に発展したが、

とある事件があり、しばらく音信不通になっていた。


「ごめんな職場に来て。でもさぁ、彩希を確実に掴まえるにはここだと思って」


冬馬は、楽しそうに笑顔を見せる。


「彩希、仕事何時に終わる?」

「どうして? 冬馬に話すことではないと思うけど」


彩希は久しぶりの再会に、一瞬驚きの顔を見せたが、すぐ冷静に戻り、

冬馬の誘いを突っぱねた。冬馬はそういう態度に出るのもわかると言いながら、

スーツの胸部分を軽く叩く。


「俺が、何もなくここへ来られると思うか。待たせたけれど、ちゃんと準備した。
まさかここで返すわけにはいかないだろう」


冬馬の言葉に、彩希は顔だけを動かす。


「なぁ、何時だよ」


彩希は7時には終わると冬馬に告げ、待っている客の元に動いた。





『木瀬百貨店』のある駅、その1階。

拓也や芳樹が、毎朝立ち寄る『コーヒーショップ』で、

彩希と冬馬は数ヶ月ぶりに向かい合った。

冬馬はお盆に2つのカップを乗せ、先に席についた彩希の前に座る。


「ほら、カフェオレ」

「うん」

「砂糖はいらないって言ったぞ」

「……うん」


自分勝手な冬馬の行動に、冷静な態度を取ろうと思うのに、

彩希は久しぶりの会話に、楽しかった日々を思い返してしまう。

懐かしそうな顔をしてしまうのが嫌で、彩希は下を向き、カップを持つ。


「彩希……」


冬馬は彩希の前に、茶色の封筒を置いた。

封筒は薄めの紙で作られていたので、中に入っている物がどういうものなのか、

彩希にもすぐにわかる。


「借りた10万。一気にと言いたかったけれど、ごめん。
とりあえず、半額の5万ですが返します」

「うん……」


彩希はカップを戻すと、封筒の中身を確認した。

今から半年前、冬馬はガソリンスタンドで働いていた。

接客業は向いている性格のため、

働き続けていたら正社員への道も開けると言われていたのに、

それが突然叶わなくなったと、夜、電話がかかってきた。



『先輩のバイク……傷つけた』



バイクが大好きで自慢をしていた先輩が、冬馬のガソリンスタンドに働いていて、

ちょっとまたがせてもらっていたら、バランスを崩して倒してしまったと話された。

修理の費用を一部負担しろと言われたけれど、

冬馬は仕事を始めたばかりで『10万』は用意が出来ないと、そう泣きつかれ、

彩希は、自分にとっても軽い金額ではないのでと、はじめは断った。

しかし、冬馬の『チャンスが消えてしまう』という嘆きを聞き、

結局断りきれずお金を貸した。

だが、それから2ヶ月経っても、一向に返済してくれないため、

彩希はどういうことだと問い詰め、冬馬は『わかったから』という言葉を残し、

携帯の番号を変えてしまった。

彩希は、その後、職場だと聞いていたガソリンスタンドに向かったが、

そこで、もう2ヶ月前にやめていたという事実を知る。

そして、先輩のバイクを傷つけたという話も、作り話だったことを聞いた。

それ以来の再会が、今日になる。


「確かに5万受け取りました。でも、あと5万……それにさ、冬馬」

「わかってる。彩希の言いたいことは……。あの時は本当に悪かった。
でもさ、ほらみろ。今の俺の姿。ちゃんとスーツだろ」

「まぁ、そうだけれど」


彩希は、言葉を付け足したくなる気がして、

それを押さえるためカフェオレに口をつける。


「あの時はさ、先輩に誘われて競馬に行って、ちょっと調子に乗ってお金を損したんだ。
でもさ、正直にギャンブルだって言って、彩希にお金を貸してくれなんて、
それはおかしいだろ」

「お金を借りたのは一緒でしょ」


自分のしたことなのに、まるで他人が起こした出来事のように語り、

どこか焦点をごまかすのは、冬馬の得意技だった。

彩希は、言いくるめられはしないと口を結ぶ。


「まぁ、そうかもしれないけどさ。俺なりに、なんだろうな……
互いに傷つきにくい理由を、考えたわけだよ」


冬馬はとにかく飲めよと、カフェオレを勧める。


「電話の番号を変えたのは、自分を変えたかったからだ」

「自分を?」

「そう。一度全てを断ち切って、それで生まれ変わるつもりで……」


冬馬は、今はこういう仕事をしているんだと言いながら、

バッグからパンフレットを取り出した。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【2】青森   気になるリンゴ  (青森リンゴをまるごと包んで焼いたアップルパイ)



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