4F とんでもない依頼主 ③

4F-③


「なんだよ、その態度」

「いや、広瀬さんのやっていることは間違っていないと思いますけれど、
あまりにもこう、バッサリじゃないかと」

「バッサリ? それは悪いことか」

「いや……」

「まどろっこしいことしていられるか、忙しいのに」


拓也はしょうが焼きの肉を口に入れ、何度も噛んでいく。


「可能性がないのだから、バッサリいかないとダメだろう。それにしても、
途中で切るっていうのは、向こうも十分失礼なヤツだから、おあいこだ」


拓也はそういうと、小鉢のほうれん草に醤油をかける。


「そうだ、僕、今日、大山武と会います」

「大山武?」

「はい」

「誰だよ、有名な歌手か?」


3点リーダーを並べたような時間が、拓也と芳樹の間に流れる。


「何を言っているんですか。前に言いましたよね、『食料品エリア』に同期がいるって」


芳樹も、拓也と同じように醤油をほうれん草にかけた。


「そうだったか?」


拓也はそれはよかったなと、また不完全な返事をする。


「聞いてきますから、現状」

「現状?」

「そうですよ、広瀬さんが異動することになったら……」

「それはないって言っただろう。俺は動かない」

「わからないですよ、念には念です」


芳樹は、人生には予習と復習が大事だと、また箸を進めていく。


「お前も暇だな……」


拓也はそういうと、同じように箸を進めた。





拓也は昼食を終えると、地下の通路を通り、彩希のところへ向かった。

仕事をしながら、気にしているのではかわいそうだという思いもあったからだ。

天気があまりよくなかったからなのか、客足はそれほどでもなく、

店内をうろつけばすぐに会えると思っていた彩希の姿は、どこにも見当たらない。


「あの……」

「はい」


拓也に声をかけたのは、竹下だった。

先日はどうもと、挨拶をする。


「あぁ……こちらこそ」


竹下は、何かをお探しですかと、問いかける。


「あの……江畑さんは」

「江畑? あら、バタちゃんですか」

「バタ……あぁ、はい、そうです」


竹下はちょっとお待ちくださいとその場を離れ、少し先にいた高橋を捕まえる。


「どうしたの?」

「ほら、この間、抹茶のことを言われた本部の社員さん。
背が高くて、素敵だったって言ったでしょ」

「あぁ、うん」

「あの人なんだけど」


竹下は背を向けた状態で、指だけを拓也に向ける。

高橋はちらりと顔だけ動かし、そうねと頷いた。


「バタちゃんはどこですか……だって」


竹下は明らかに残念そうに言うと、『どこにいる?』と高橋に尋ねる。


「さぁ……どこだろう」


そんな二人の目の前を、台車にたくさんの箱を乗せ、押して歩く彩希が通った。


「あ、バタちゃん」

「はい」

「ねぇ、あの人……ほら、知ってるの?」


彩希は、台車に乗せた荷物の後ろから顔を出す。

その瞬間、拓也と視線が合ったので、互いに頭を下げた。





彩希は、台車を邪魔にならない場所へ移し、拓也の前に出た。

今朝はありがとうございましたと、まず挨拶をする。


「いえ、早速『ADB』に連絡をしてみました」

「エ……本当ですか?」

「はい。河西さんが電話に出てくれたので、色々と聞きたいことを聞いて、
で、その答えをお待ちしている状態です。手順としては先ほど説明した通りですので」


拓也は内心、もう二度とかかってこないだろうと思いながら、

彩希にパンフレットを戻す。


「あの」

「はい」

「冬馬、張り切っていませんでしたか?」

「……は?」

「チャンスだって、張り切っていましたから、きっと今頃……あ、いえいえ、
すみません」


彩希は、拓也の言葉を、最上級に成功した状態だと思っているらしく、

朝の緊張していた顔から、嬉しそうなものに変わっていた。

拓也は、『バッサリ切った』と言えず、とりあえず顔に笑みを無理やり浮かべてみる。


「本当にありがとうございました」


曲げすぎるくらい腰を曲げた挨拶に、拓也は軽く返礼をし、

二人の短い会話はそこで終了した。彩希はすぐに台車の場所に戻るが、

竹下と高橋に動きを止められる。


「バタちゃん、何よ、どういうご関係?」

「どういう?」

「そうよ。今の方……今朝はありがとうございましたとか、チャンスだとか、
相当親しそうでしたけれど」


竹下は、いつの間に社員と仲良くなったのかと、彩希のことを肘でつつく。


「違いますよ、友達に頼まれたことを、お願いしただけです。
広瀬さんの方が、私のことを覚えていてくださって……」

「覚えていた? あら、何を」


高橋は、何をどう覚えていたのかと、さらに問いかける。


「あの、『抹茶味』のお菓子を探していたお客様の時です。広瀬さんが元々、
竹下さんに仕事を振ったって」

「あぁ、そうそう。あら、あの後、見ていたってこと?」

「広瀬さん? ねぇ、今の人、広瀬さんって言うの?」


竹下と高橋は、それぞれ自分の言いたいことを、言いたい方面から、

彩希にぶつけ続ける。


「寝具担当の広瀬拓也さんだそうです」

「まぁ……」


高橋は、うちの旦那様の若い頃に似ていると言いながら、両手で頬を軽く押さえる。


「あら、あなたのご主人、もっとまんまるでしょう」

「だから若い頃だって」


彩希は、ここにいると、さらに深みにはまる気がして、

二人の会話から抜け出すと、キャスターを押し始めた。





彩希は、拓也から話を聞き、

トイレに行くときにでも携帯を鳴らしてみたい衝動はあったが、

冬馬と長い話になってもまずいと思い、仕事終了まで頑張った。

冬馬がきっと、嬉しそうな声を出してくれるだろうと思い、着替えもせずに携帯を持つ。

仕事を終えた同僚たちに挨拶をしながら、電波の届く場所で、電話をかけてみた。

しかし、1分ほど待っても、呼び出し音が鳴るだけで、冬馬は出ない。

彩希は早速、打ち合わせでも始まったのだろうと思い、受話器を閉じた。



4F-④




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