6F 問題児が認めた舌の力 ④

6F-④


その頃、2階にいる拓也たちは、まつばが依頼を受けた、

ネットで話題になっているお店の羊羹を、それぞれが味わい、

取り扱ってみるのかどうかの会議中だった。


「ネットでは本当に注文が多く入っています。
形はこんなふうにキューブになっていて、昔から変化のない、
羊羹のイメージを覆しますし。
なんといっても『和三盆』を材料に利用しているにもかかわらず、
価格はそれほど高級ではないですし」

「へぇ……おもしろいなぁ、これ。これだったら確かにカゴにでも入れてさ、
一口で食べられるし」

「そうそう」


武もまつばの意見に賛同し、同僚の荒木寛太もまたひとつ口に入れる。


「ネットの盛り上がりは、気をつけないと結構色々あるわよ」


エリカは、確かに味も悪くないけれどと、言葉を濁す。


「広瀬さんはどう思います?」


和菓子売り場は、どうしても年配客向けの商品が多いので、

ここは他の店舗と差をつけるためにも、新しいものを入れたいというまつばの推しも、

間違いだとは思えなかった。拓也は小さな羊羹を口に入れる。

何度か噛むと、飲み込んだ。


「これ、うまいのか?」


拓也の問いかけに、武はどうしたのですかという顔をする。


「いや、広瀬さん、『和三盆』ですよ。あずきだって十勝産だし」

「あぁ、それは書いてあるからわかる」

「だったら」

「そうじゃなくてさ……」


拓也が意見を述べようとしたとき、入り口のところに立つ彩希が目に入った。

また誰かを探しているのだろうか。目が右に左に動く。


「ちょっと待て」


拓也は彩希を見つめたまま、まっすぐに歩く。

彩希は、歩いてくる拓也に気付き、とりあえず頭を下げた。

しかし、他のメンバーから来る視線と、雰囲気に飲まれ、

自分が来るべきところではなかったのかもと、少しずつ後ずさりをする。


「江畑さん、だったよね」

「はい」

「いいところに来た、ちょっと頼みがある」

「エ……あ、いや、あの……」


拓也は彩希の手をつかむと、メンバーの前につれて来た。

『KISE』の食料品売り場で働く制服を着た、見ず知らずの女性が登場したことで、

まつばも武も目を丸くする。


「これ、食べてみてくれ」

「広瀬さん」

「いいから」


まつばの声に、拓也はストップをかけ、自分の席に彩希を座らせた。

そして、飴のようにパッケージされた羊羹を、彩希の前に置く。


「とりあえず食べてみてくれ」

「……はい」


彩希は包装紙を取り、羊羹を口に入れた。

何度か噛むと、飲み込んでいく。


「どうだ」


彩希がこれから言うだろうセリフに、中にいたメンバーたちが注目する。


「美味しいです」


まつばはよかったと安堵の表情を浮かべる。

武や寛太も、緊張した表情が一瞬でゆるんだ。


「そんな上っ面な言葉ならいらないんだ。君は、そんなものじゃないだろう」


拓也は同じものをまた、彩希の前に置く。


「広瀬さん、あなたいったい……」

「いいから、きちんと言ってくれ」


拓也は、横にいるエリカの発言も止め、もう一度と彩希に迫った。

彩希はキューブの包みを手に持つが、それを前に押し出す。


「もう……いいです」


拓也は黙ったまま、彩希を見続ける。


「もういいと言うのは、どういうことかな?」


メンバーが声に振り返ると、そこには部長の益子が立っていた。

彩希は後味の残る口を、少しだけ動かす。


「美味しいと言ったのはウソではありません。形もおもしろいですし、
目を引くと思います。でも、今ここでみなさんが試食していたのだとすると、
『KISE』に並ぶ可能性があるということですよね」


彩希はそういうと、拓也の顔を確認する。


「そうだ……と言ったら」


益子も後ろで腕を組む。


「これを……『千波庵』や『竹ノ堂』と並べるのは……難しいと思います」


彩希はそう言うと、ふぅと息を吐き出した。



『木瀬百貨店が、味を保証しているものと一緒に並べ、販売するのは無理』



言い方は違っていたが、彩希の言葉の中身を探るのならこうだろうと、

拓也は聞きながら頷いた。エリカは隣に座ったままで腕を組み、

武たちは、この人はどういうつもりでそんなことを言うのだろうと、

不思議そうな顔をする。


「そんなこと……どうして言えるのですか」


ネットで探し、それなりに気持ちを入れてきたまつばとしては、

全否定されてしまったことがショックで、彩希は何者なのかと、指摘する。

その瞬間、彩希は余計なことをしたのかもしれないと、すぐ椅子から立ち上がる。


「ごめんなさい、あの」

「江畑さんが謝ることではないと思うな。味がまずいと言っているわけじゃないんだし。
ただ、和菓子の老舗たちと並ぶ場所に置くには、レベルが違う……そういうことだろ」

「でも……」


まつばは、相手企業と連絡を取ったとき、

実は、他にも誘われている店があることを教えてくれたと続けていく。


「他の店とは」

「『伊丹屋』です」


その言葉に、エリカの眉がピクリと動く。


「『伊丹屋』がこれを?」

「はい。従来から取り扱っているお店とは別に、新しい分野のものも取り入れると、
言われたそうです。今ならうちと先に交渉してくれるそうですが、
『伊丹屋』が本当に動いた後では、難しくなりますし……」


まつばは、会社のパンフレットをデスクに置く。


「難しいとは、どういうこと」

「以前、うちが新規でお願いした店への返事が遅れて、
『伊丹屋』に先を越されたそうです。その後、納品する約束を取り付けたら、
忙しくなるのでと、取り分を上げられたって」


大手百貨店が味方に着いたとなると、途端に態度が変わる店があると、

まつばは一口羊羹のカゴを持つ。


「もう少し検討しようだと、結局、乗り遅れます。羊羹だからといって、
全てが同じランクに揃う必要もないですよね」

「でも、どこに置く? 正直、ご近所スーパーに卸されるものを置くスペースは、
今のうちにはないだろう」


そこまで聞いていた益子は、両方の意見はわかったと前に出る。


「まぁ、少し落ち着こう。長岡の言うことも一理ある。
相手も、自分たち自身を評価していると思い、商品を納めてくるのと、
どこかの評判から遅れて顔を見せるところとで、同じ気持ちになるわけがないからな」


益子は、『食料品』は『生き物』と同じだと言い始め、

ここはあえて冷静に分析しようと言い出した。




【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【6】山形   のし梅  (すり潰した梅を寒天に練りこみ、薄くのばして竹皮に挟む)



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