7F フリをするのは無責任 ④

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『伊丹屋 伝統のイベントをさらなる高みに』



経済誌にも、大きく取り扱われた『伊丹屋』のイベントは、

10日間の日程を、明日で終えるというところまで進んだ。


「新原店で同じようなパートをしている人が言っていたわよ。
まぁ、『伊丹屋』の袋を持ったまま来る客が結構いて、そのすごさを思い知ったって」

「へぇ……そうなの」


仕事前にかわされるパートたちの話題も、『伊丹屋』のものが多かった。

彩希も恵那もその話を耳に入れる。


「あのサラリーマンさんが、イベントの仕掛け人だったとは、驚いたわ」

「うん」


栗原純は、『伊丹屋』に向かう前、

毎朝のように『KISE』に訪れ、買い物をしていた。

恵那は、もう来なくなるかもしれないねと、制服の襟を直す。


「どうして?」

「どうしてって、だって、顔を知られてしまったら、
今度は何か探っているのかと思われるでしょ」

「探る?」

「そう。『伊丹屋』の人が来ていると思えば、こっちのスタッフだってさ」


同業者の様子見というのは、当然行われているものだが、

堂々と『私が……』と姿を見せるものはいない。


「あぁ……もう、会えないのかぁ」


恵那はロッカーを閉じると鍵をかけ、貴重品袋に入れる。


「会いたければ『伊丹屋』に行けば? 買い物に」


彩希は、今度はこちらが様子を見に行ったらどうだと、恵那に提案した。


「何を言っているんだか、彩希は。
いいの、いいの、どうせ目の保養くらいに思っていただけだからさ。
さて、次はうちだね。いいイベントになるといいけれど」

「うん」


彩希も着替えを終えて、少し遅れてロッカーをしめると、朝礼に向かった。



『秋のごっつあん祭』



今回のイベントは、レストラン街を巻き込んでのもので、

しかも、計画は『第1ライン』が建てたものとなりメインになる。

地下食料品売り場を担当する『第3ライン』は、まだ作られたばかりなので、

あくまでも手伝いなのだが、

関連部署の上司が病気で異動になってしまったアクシデントもあり、

武は、その中にほぼ入り込んで仕事をしていた。

目の前のイベントを組み立てているメンバーは、次々に送られてくるデータを整理し、

当日を迎えようと張り切っている。

拓也も手伝いをしながら、『伊丹屋』のイベントと重なっている店に印をつけた。

売り場全体の面積としては、『KISE 久山坂店』は、

『伊丹屋』の3分の2ほどになる。

買った商品を持ち帰るお客様を重要視するのは当然だが、

その場で食べられる場所を広く取り、

旅に出ている雰囲気を味わってもらいたいという、

『鉄道会社』を親に持つ、諸事情もそこにあった。


「大山」

「はい」

「ブースが狭いという注文は、出てこないのか」

「何度か出店してくれているところは、わかっているみたいです。
でも、初参加のところや、その場で調理をして出すような店からは、毎年言われています。
もう少しどうにかできないかと」

「そうか」

「僕も、イートインに広さを取り過ぎていると、
以前、提案したことがありましたけれど、この割合に関しては、
どうしても親が譲らないと」

「親ねぇ」

「はい」


『親』というのは、もちろん『木瀬電鉄』を示していた。

美味しい物を買ってもらい、その場で食べてもらいながら、

『キセテツ』自体のイメージアップを図り、備え付けられたパンフレットなどから、

旅に興味を持ってもらいたいという、別の思惑も存在していたため、

イベントは自由な部分が思っているよりも少なく、結構、決められている。


「よし、後は手分けでお願いします」


武のかけ声で、全員が『了解』の合図をする。

集中して仕事をしていると、昼間が来るのはあっという間だった。





『今日は、どう? 仕事、何時になる?』



先日、連絡を取った冬馬から、返事が届いた。

彩希は少しは早めに更衣室へ戻り、

今日は早番だったから、6時をすぎれば大丈夫だと返信する。

待ち合わせは、以前も利用した駅のコーヒーショップに決め、

彩希は電話をバッグにしまった。





彩希が仕事を終え、待ち合わせ場所の店に向かうと、冬馬の姿はまだなかった。

先に飲み物を購入し、席を取る。

窓側の席に座ると、横を歩き駅の中に向かう人たちの姿が、よく見えた。

『KISE』の紙袋を持ち、なにやら楽しそうに話している女性二人や、

同じ『KISE』のマークでも、仕事用の袋を持ち、時間を気にする社員。

彩希は、駅に向かう人の理由はそれぞれだと思いながら、カップに口をつける。

5分ほど景色を眺めていると、少し小走りに店の中へ入ってくる冬馬が見えた。

彩希はその姿をとらえ、タイミングよく手を上げる。

冬馬はすぐに気づき、右手をあげて応えた。


「ごめんな、彩希。待たせて」

「うん」


冬馬は、この前にいた場所で、思ったよりも時間を取られてしまったと笑い、

コーヒーカップをテーブルに置く。


「まずは、色々と心配かけて悪かった」


冬馬は両手をテーブルに置き、申し訳ないと頭を下げた。

彩希は、数ヶ月前にも、同じようなことがあったと思いながら、軽く頷く。


「『ADB』がさ、警察に目をつけられているとは、俺も思っていなかったんだ。
商品が出来てくる工程を、見ていたわけではないしね。
下の人間たちは、ただ、動き回されていたから」

「うん」

「あっちで販売会、こっちで販売会ってさ」


冬馬は、最初からわかっていたら、勤めたりしないよなと、茶化してみせる。

冬馬の明るい表情を見ながら、彩希は、どこかひとごとのように語るのは、

変わっていないのだとそう思う。


「私、住所の場所に行って、初めて知ったの。
あの場所、『ADB』だけではなくて、わからない会社の名前も書いてあって」

「行ったの? 彩希、会社に」


冬馬は、彩希が行動に移したことを知り、一瞬驚いた顔をする。


「会社の中には行けなかった。ポストのところまで」

「あぁ……うん。そっか、そうだよな。閉まっていただろうし」


冬馬は、前の会社の社長は、色々な顔を持っている人だからとそう話すだけで、

細かいことはわからないと、話題を切った。


「冬馬……」

「もう、辞めた会社の話しはやめておこうよ。俺が逮捕されたわけじゃないし、
あ、これからもないし」


まだ、納得し切れていない彩希に対し、話を前進させようと、

冬馬はポケットから封筒を出す。


「はい……借金をお返しする続き」


冬馬は、今回は5万ではなく3万だと、頭を下げた。

彩希は封筒を開き、中を確認する。

確かに新札の『福沢諭吉』が3人、収まっていた。


「10万円借りていたから、あと2万だけれど、でも、ずいぶん待たせているから、
また3万を返すよ。利子だと思ってくれたら、それでいいから」

「いいよ、そんなの。貸したものだけ帰れば」

「まぁ、そういうなって。気持ちだからさ、気持ち」


そう言うと、冬馬は、自分のカップと彩希のカップをテーブルの端にずらす。

そこに、1辺が30センチほどの黒い四角い箱を乗せた。

彩希はすぐに冬馬を見る。


「ちょっと見てくれないかな、これなんだ、今、俺が扱っているのは」


その黒い箱には、2つのネックレスと、3つの指輪が入っていた。

それぞれに小さな値札が取り付けられている。


「本社は、青山にある。『city eyes』という名前で、もちろん店も構えているんだ。
ただ、一番メインに売っているのは……」


冬馬は、そばに置いたバッグから封筒を取り出すと、

さらにその中から紙の束を出した。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【7】福島   ままどおる  (バターを加えたミルク味の餡を、生地で包み焼き上げた菓子)



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