11F 新しいことをするために ④

11F-④


「大林、お前は、売り場のお荷物じゃないだろう。
福袋のアイデアも自分のものが入ったと、前に嬉しそうに話をしたじゃないか」

「いや、そうですけれど。あの頃、僕が広瀬さんと仕事をした頃は、
本当にお荷物で、ご迷惑ばかりかけました。でも今なら、そう、今なら……」

「ダメだ」

「どうしてですか」


スカッシュのボールが、跳ね返ってくるように、芳樹の意見は、思い切り否定される。


「理由は……」

「大林だからだよ」


拓也はそういうと、トマトを食べた。

芳樹は、跳ね返ってきたボールを無理に打ち返さず、拓也の口が動かなくなるまで、

黙っている。

拓也の口は何度か動き、そして飲み込んだのか止まった。


「小林なら、よかったんですか」

「……あぁ、そうだ」

「は?」

「……なわけないだろうが」


芳樹は、それならどうしてなのかと、必死に食い下がる。


「お前は、俺に優しいからだ」

「優しい?」

「そう。大林が入ったら、絶対に俺に逆らわないだろう。それじゃダメなんだ」


芳樹は、納得していない顔をする。


「お前は、俺がやることを、疑うことなく受け入れてくれるだろう。
でも、それだと俺がお前に甘えてしまう。『違う』ところは違うと言って欲しいし、
ぶつからないと、進歩しない」

「広瀬さん」

「大林。お前の仕事を評価していないわけじゃないんだ。それは勘違いするな」


拓也は、この話しはここまでだとばかり、また食事をし始める。

芳樹も、これ以上言っても、拓也が意見を変えることがないとわかっているので、

一度置いた箸を持った。


「広瀬さんとぶつかるって……あ!」


芳樹は、箸を持ったまま拓也を見る。


「広瀬さんとぶつかるといったら、ひとりしか浮かびませんでした」

「ほぉ……誰だと思う?」

「そんなことに、従ってくれますかね」


芳樹の言葉に、拓也は本当に誰に声をかけようとしているのか、

わかっているのだろうかと、思い始める。


「従うか従わないかは、これからだよ。まだ話をしていない」

「でしょうね……」


芳樹は、そういうと、難しいのではないかと首を傾げる。

拓也は、湯飲みを持ち、お茶を飲もうとする。


「小川課長かぁ……」


拓也は、口に中身を入れようとした間一髪のタイミングで、湯飲みを外す。

拓也の咄嗟の動きで、芳樹の顔がお茶だらけにならずに済むことになった。



拓也の驚いた顔の前で、芳樹は頷き、

その向こうを、受付担当の女性が二人通り過ぎる。

拓也と視線が重なったことに気付いた、右側の女性社員は、

『また飲みにいきましょう』という合図を、左手でしてみせた。


「小川課長……そう、そう、そうなんですよ。あれだけ毎日ガミガミ言っていたのに、
確かに広瀬さんがいなくなって、実は寂しそうなんです」


拓也の反応を待つ女子社員は、かすかに微笑み、

拓也もその笑みに合わせて、軽く頭を下げる。


「そうか……小川課長か」

「大林」

「はい」

「お前、ふざけて言っているのか。今、口に何か入っていたら、
完全にお前の顔が水浸しだったぞ」


拓也は、どうして小川課長なんだと、呆れた顔をした後、あらためてお茶を飲む。


「どうして僕がふざけていると。ふざけてなんていませんよ。
だって、広瀬さんとぶつかる人って言ったら、小川課長でしょう」


拓也は湯飲みをテーブルに置き、真面目な顔で悩む芳樹を見る。

芳樹は、拓也の態度に、予想が外れていることだけは受け入れるが、

話を終わらせるわけにはいかないと、少し周りを見た後、前を向く。


「だったら……誰なんです」

「さっさと食べて、仕事に戻れ」

「誰なんですか」


芳樹は、その後も『誰なのか』と聞き続けたが、

拓也は答えを言うことなく、マイペースにランチを口にした。





午後、3時を過ぎる頃から、地下食料品売り場は、さらなる活気を生み出す。

買い物帰りの女性客が、いつも楽しみにしているという惣菜を購入し、

予定よりも袋を多く持ち帰った。

さらに、別の目的で外出した人たちも、

せっかく『キセテツ』に乗っていたのだから買い物をしていこうと、

お目当ての菓子類に、目をキラキラさせ始める。

彩希は包装紙に菓子の箱を入れ、丁寧に折り目を入れた。


「どちらですか?」

「これです」


竹下に、お菓子の味を尋ねた女性客は、以前購入したこちらの商品と、

どちらの甘みが少ないのかと、比べ始めた。


「どちらも甘さは同じだと思いますよ。同じ会社の商品ですし。
ただ、こちらはつぶあんで、こちらはこしあんです」

「うーん……」


結局、数分ケースの前に立ち、女性客は『こしあん』のものを選び、帰っていった。

竹下は、時間がかかった客がいなくなり、ほっと一息つく。


「ケースに色々と入っているのも、いいことばかりじゃないわよね」

「そうね。これだと思って来ているくせに、あれ、こっちは……
いや、こっちもって悩みだすでしょう」

「そうそう」


彩希は竹下と高橋の愚痴を聞きながら、箱詰めを作る。


「江畑さん」

「はい」


ケースの前に立ったのは、チーフだった。

彩希は、また何か頼まれごとかと思い、顔をあげる。


「ちょっと来てくれないか」

「はい」


彩希は、高橋に箱を渡すと、とりあえずブースの中から出た。


「あの、何か」

「まぁ、いいから、いいから。私も江畑さんを呼んで欲しいと頼まれただけなので」

「はぁ……」


よくわからないまま、彩希はチーフから拓也に会いに行くようにと告げられた。

どういう理由なのかと尋ねても、

チーフは何も聞いていないと言うだけで解決にならない。

彩希は、また『あの男』なのかと、一瞬で気が重くなった。

それとは逆に、拓也がからむと知った竹下と高橋の顔色が変わり出す。

彩希は、下を向いたまま、売り場から離れていった。


「チーフ」

「はい」

「バタちゃんを呼んだのは、あの人ですか? ほら、えっと……」

「広瀬さん」

「そうそう」


竹下は、この間も彩希に仕事を頼みにきたけれど、今回もそうなのかと、

チーフにこっそりと尋ねた。


「さぁ……どういう内容なのか、知りませんので」

「知らない?」

「知りませんよ。ただ、呼んで欲しいと言われただけですから」


チーフは、二人につかまるとろくなことにならないと思い、

時計を見るふりをして、別売り場の方へ歩き出す。


「仕事って、一覧表の次は、何かしら」


高橋は、実は二人がこっそり交際をしているのではないかと、ウキウキ話しだす。


「それはないわね」

「あら、ないかしら」

「だったら、バタちゃんはもっと、ニコニコしていくでしょう」


竹下は、恋する女なら、もっと違う顔を見せるはずだと、そう分析する。


「若い頃の恋って、止められても向かってしまうような、
こうあふれていくものを感じるのに、今のバタちゃんには、
そういう雰囲気、なかったもの」

「あふれていく……ねぇ……」


高橋は、包装紙に折り目をつけながら、それもそうねと頷いた。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【11】埼玉   草加煎餅  (草加市で作られている煎餅)



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