12F 挑発からの挑戦状 ②

12F-②


彩希は、拓也が何を言っても、絶対にと自信を持つことに対し、

反発する気持ちと、心の奥底にある本音が、複雑に絡み始める。


「ずいぶん、自分に自信があるのですね」

「自分に自信ではなくて、やってきたことに自信を持っている。
なかったらこういった仕事は出来ない。自分には出来ると思わなければ、
客のためにもならないだろう」


拓也は、彩希を見たまま、気持ちを曲げることはないと次のセリフを待っている。


「君に何もかもをやれと言っているわけじゃない。あとは俺がフォローする。
ただ、味覚というものに関しては、意地や根性で対応できるものではないと、
そう実感した」

「それなら……」


彩希の口から、話を進める言葉が漏れていく。


「それなら?」

「ひとつだけ……いいですか」

「なんだろう」

「はい。それだけ広瀬さんが、行動力に自信があると言われるのなら、
私が提示するものを、探してきてほしいのです」


自分にはない、『実践力』、『行動力』、『判断力』。

彩希は、拓也の中にある、その部分を知ってみたいと思い始める。


「何を探すんだ」

「仕事が終わったら、メールさせてもらいます。探していただくのは、お菓子です」

「お菓子?」

「はい。現在もある商品、それを探してください」


拓也は少し考えた後、口元をゆるめる。


「場所は……日本全国か?」

「いえ、そんな無謀なことはしません。『東京』です」

「東京? 東京都ということか……」

「はい」


拓也は範囲が『東京都』だと聞き、正直、彩希になめられた気分だった。

しかし、それならば完璧に挑戦状をクリアしてみようと考える。


「よし、その挑戦受けてやる。その代わり、俺がその菓子を探し出せたら、
こちらの頼みどおり、動いてもらいたい」


彩希は、捜索期間は5日。次の6日目の朝、

開店時間前に、『KISE』の更衣室前にある広場にきて欲しいとそう告げる。


「6日後の開店前ということだな」

「はい」

「わかった」


彩希は、それなら仕事の後でメールをしますと頭を下げ、

もう一度『KISE』の売り場に向かった。





その日の仕事を7時で終了した彩希は、着替えを済ませると、

携帯に入れてあった『ひふみや 夢最中』の写真を呼び出した。

包み紙や箱の映っているものは避け、最中本体だけのものを選び、

拓也のアドレスを呼び出す。



『俺なら……出来る』



どこから、どういう自信が生まれるのかわからないが、

彩希は、この最中を探し出すのは不可能に近いと思い、メールを送信した。



それと同時に、もし、拓也に力があるのなら……

この『夢最中』を探し出すことが出来るのなら……



その人の力を利用させてもらうことで、3年前に突然、行方をくらませてしまった父、

晶に近付くことが出来ないかと考え出す。


「よし……」


彩希は携帯を閉じると、ロッカーを開けて着替え始めた。





彩希からのメールを受け取った拓也は、すぐに添付されていた写真を見た。

写真の雰囲気からすると、『最中』に見える。


「どこの最中だ、このネコの手みたいなのは……」


楕円に近い形の皮に、線が入っている。ネコの手を意識して作ったのだと思い、

まずはネットを開け、『ネコの手 最中』で検索する。

色々な記事にそれなりの最中が出ているが、彩希の送って来た写真のものとは、

違うものばかりだった。

拓也は、ネットで調べてしまえば、いくら人気があって買えないようなものでも、

すぐに調べられると思っていたが、あてが外れてしまう。


「うーん……」


『東京都』

和菓子を扱う店を全て洗い出し、5日間で歩き回るという作戦は、

他の仕事もある拓也からすると、無理だった。

最後は電話番号を調べ、特徴の似たものがある店を足でつぶしていくしかないが、

とりあえず、情報をひとりで抱えている必要はないと考える。


「なぁ……」

「何?」

「これ、どこかで見たことがある?」


拓也は、隣に座るエリカに、彩希からの写真を見せた。

エリカは、首をかしげ、見たことがないと携帯を戻す。


「そうか」

「これが何?」

「いや、ちょっとした挑戦状を受けて」

「挑戦状?」


拓也は、まず裾を広げていくしかないと、電話帳のある『グループ』の番号を

全て呼び出した。





「お姉ちゃん、戦略?」

「あぁ、そうだ。ホステスたちに片っ端から連絡して、
写真つきのメールを送った。あぁいった店には、社長とか出入りするだろ。
高級なお菓子とか、お土産に寄こす男とかもいると思ってさ」


トライアル1日目。

拓也は昨夜の間に、付き合いのあるホステルたち全員に、写真つきメールを送った。


「で、お姉さんたちは」

「すぐに数人、返事をよこしたけれど、そんなに簡単なはずがない。
全然まとはずれだった。まぁ、付き合いの幅にもいろいろあるからな、
全員から全力の答えが返ってくるとは、俺も思っていないよ」

「全力ですか」

「あぁ……今来ているメールは、ほとんどが店に来い! の誘いばっかりだ」

「それは当然ですよ」


芳樹は、自分の携帯に拓也から送ってもらった写真を見た。

確かに『ネコの手』に見える。


「ネコの手には見えますね、確かに」

「だろ。だからネコの手の最中だって、そう」

「最中なんですかね、これ」

「ん?」


芳樹は、そう見せておいて、実は違う可能性はないかと、言い始めた。

角度を変えても写真うつりは変わらないが、

携帯を横にしたり斜めにしたりして、何かを探ろうとする。


「最中じゃないとなると、なんだよ」

「いや、それはわからないですけど……」


芳樹の背中越しに、お盆を持った彩希と恵那が歩く。

拓也は、何気なく彩希の姿を見た後、視線を芳樹に戻した。


「そうか……そうだよな、向こうが正統な路線で来ると思っていたのが
間違っていたのかもな」


拓也は、彩希は自分の提案を受け入れたくないのだから、

素直に、見た目でわかるものを出すことはないだろうと考え出す。


「でも、お菓子ですよね」

「あぁ……」

「だとすると、この中にカレーとかシチューが入っていることはないだろうし。
うわ……何するんですか」


拓也は芳樹の携帯を取り上げ、もう一度写真を見る。


「カレーにシチューか。ありえなくもないな。ほら、パイとか」


拓也は横にあった自分のスマートフォンを持ち、『東京 ネコの手 パイ』と検索する。


「どうですか?」

「すごいぞ、大林」

「見つかりましたか」

「……いや、135もヒットした。探せるか、こんなんで」


拓也はまたスマートフォンを横に置いた。





12F-③




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント