12F 挑発からの挑戦状 ③

12F-③


「僕も、あたってみます」

「お姉ちゃんか」

「違いますよ。僕にはそんな取り巻きいませんから。
同級生とか、あとちょっと習い事を始めたので、その線で」


芳樹はそういうと、携帯を横に置く。


「習い事? お前、仕事だけでも忙しいだろうに、何を始めたんだ」

「……『書道』です。姿勢がよくなるらしくて」


芳樹は、『あ、そうだ』と言いながら、少し背筋を伸ばす。

姿勢をよくするには、日々の努力が大切だと、芳樹は拓也に語る。


「ほぉ……」


拓也は、芳樹を見ながら、そばにあった湯飲みを持った。


「大林君、その集まりは、どれくらいの人数で?」

「えっと、まだスタートしたばかりで、先生を入れて5人ですが」

「5?」

「はい」


芳樹は、一人の男性は、筆が作れそうな髭を蓄えているのだと、

話題からずれた情報を提供する。


「みなさんに、聞いてみます」

「……うん」


拓也は、そうか、期待しているよと芳樹に気の抜けた声をかけ、

食堂のライトを見つめながら、残りのお茶を飲み干した。





トライアル2日目。

拓也は、芳樹のつぶやきから、最中に絞らず、

パイやシュークリームにまで範囲を広げてみたが、似たようなものはたくさんあった。

そこから、絞ってお店のホームページに飛んだり、数店は実際に訪れてみる。

しかし、同じものは見つからなかった。


「いやぁ……知りませんね」


和菓子店には、同じ業界の人間ならと思い、写真を見せることもしたが、

首を横に振られるばかりで、進展はない。


「ということで、個人的な話しになって申し訳ないのだけれど、
知り合いなどに拡散してもらって、何か情報があったら教えて欲しい」


背に腹は変えられないと、拓也は『食料品第3ライン』のメンバーにも、

彩希からの写真を送信した。武は見たことがないと首をかしげ、

寛太は、芳樹がしていたように、携帯の角度を変えながら、写真を見続ける。


「広瀬さん」

「何?」

「これ、本当に東京都にあるお店なのね」

「本人はそう言っていた。まぁ、それがウソなら、そもそもかけにならないから、
そこは信用しているけどね」


エリカは、それもそうよねと頷きながら、純に対してメールを打ち込んだ。

『伊丹屋』の企画部で力を発揮している純なら、知らないことはないだろうと思い、

すぐに答えを教えて欲しいと、文章を入れる。


「広瀬チーフ」


そこで手をあげたのは、まつばだった。

拓也は何か意見があるのなら、言って欲しいと声をかける。


「そもそも、どうして江畑さんの力を借りないとならないのですか」


まつばは、クリスマスイベントも、バレンタインのイベントも、

自分たちでしっかり出来ていると、そう言い返した。

拓也も、ここにいるメンバーの力は、信用しているとそうフォローする。


「それなら」

「いや、それでも、俺は彼女の力が、これからの『KISE』には必要だと思っている」


拓也は、百貨店という大きな箱の中にも、『専門性』をしっかり持てた売り場がないと、

そこに来る価値がなくなるのだと、まつばに説明する。


「どこにでもあるものではなくて、ここにいけばあるものを作りたい。
今は、ワインでも専門のアドバイザーがいる店があるだろう。
彼女の味を見る力があれば、業者の言うことをそのまま鵜呑みにすることなく、
こちらの意思を入れていける。俺はそう思っているから」


拓也は、不満そうなまつばにそう自分の思いを伝えた。

まつばは、それでも下を向いたままで、頷こうとはしない。

その会話を聞いていたエリカの携帯が揺れ、視線を下に動かすと、

相手が純であることがわかった。エリカは、さすがに純だと思い、

席を立つと販売企画部を出る。廊下を喫煙所に向かって歩きながら、

携帯の通話ボタンを押した。


「もしもし……」

『もしもし……俺』

「うん……ねぇ、メール見てくれた?」

『あぁ……』


エリカは、以前話をした江畑彩希が、拓也から言われた条件を飲むために、

このお菓子を探して欲しいという挑戦状を叩き付けたのだと語る。


『江畑さんが』

「そうなの。ネットとかで調べても、全然わからなくて。いささか広瀬さんも……」

『俺もわからない……』

「エ?」

『俺も、この最中は、見たことがない』


純の答えに、エリカの足が止まった。

『伊丹屋』の食料品部門を取り仕切る『栗原純』。

その純にとっても、彩希が拓也につきつけたお菓子の存在は、『初』といえるものだった。


『なぁ、本当に東京にある店なのか』

「店なのかって、広瀬さんは彼女からそう言われたらしいわよ。
やだ、純がわからないのなら、本当に街中の小さな店ってこと?」

『いや……そんなに小さな店なら、逆に地域情報で、ネットにあがりやすいだろ』

「なら、どういうこと?」

『エリカ、江畑彩希って女性は、どういう人なんだ』


純の問いかけに、エリカは何もいえないまま、販売企画部の方を見た。





拓也たちが、純も巻き込んで『お菓子』を探している頃、

彩希は祖父母のいる『あゆみの丘』に顔を出していた。


「彩希、喜助さんに、話をしておいたぞ」

「ありがとう」

「3日後に取りに行くってことで、いいんだな」

「うん」


『ひふみや』の『夢最中』。

完全予約制であり、しかも3日前に予約をしなければ、作りおきをしないため、

買うことが出来ない。


「私の他に予約、入ったとか言っていた?」

「あぁ……」


新之助の言葉に、彩希は拓也が突き止めたのだろうかと考える。


「ウソ……」

「ウソって、それはないだろう。知っている人間は知っているからな。
あの『最中』の魅力は」

「そうだけれど」

「昔から利用してくれる男性だそうだ。
お茶会に持って行きたいと、頼まれたらしい」

「あ……そうなんだ」


彩希は、拓也ではなかったことにほっとしながらも、

心のどこかで、やはり難しかったのかと、そう思えてしまう。


「『ひふみや』さん、すごいよね、これだけ長く愛されるって」

「本物だからな」


新之助は、テレビのチャンネルを変えながら、そうつぶやいた。

彩希は、『福々』があった頃、祖父と父が毎日二人で餡を作り、

ひとつずつ丁寧に『どら焼き』を作っていた姿を思い出す。

店番に立つ母の目を盗み、学校から戻ると、みたらしだんごをこっそり盗んで、

部屋に戻ったこともあった。

ここにいて、祖父母の顔を見ていると、思い出すと寂しくなるような光景が、

どんどん浮かんでしまう。


「さて、帰るね」

「気をつけなよ、彩希」

「うん……」


彩希はまた来るよと二人に挨拶をし、『あゆみの丘』を出た。





12F-④




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