12F 挑発からの挑戦状 ④

12F-④


『拓也が来てくれたら、教えちゃう』

『私にも楽しい時間をくれないと。社長さんから情報、お酒で流しちゃうぞ!』



その日の仕事を終え、販売企画部のメンバーは、拓也以外席を立った。

拓也は一人になり、部屋の窓を開ける。

駅のホームには、2台の電車が入っていて、それぞれにたくさんの客が、

乗り込み始める。



拓也の『お姉ちゃん作戦』は、華やかな街で舞っている蝶たちの協力もあり、

この2日間で、結構な数の情報を得ることが出来た。

店に出入りする社長、先生、町内会長など、

そうだよねという面々から聞いたと書いてあったが、

実際に調べてみると、ほとんどが全く違うものか、似ているけれど違うものだった。


「あぁ……これも違うな」


自動販売機で購入した缶コーヒーを横に置き、とりあえずもらった情報は全て確認する。

そして、最後に残っていたのが、『リカ』こと、『鈴木梨花』からのものだった。



『たくや……イラストだけ送るね。知りたかったらリカのところに、お・い・で』



甘えたようなメールを打つのは、リカのいつものやりかただった。

拓也はイラストとはどんなものだと思い、添付されたファイルを見る。


「ん?」


拓也がリカに送ったメールを見ながら、書き写すことも出来なくはないが、

イラストに添えてある説明の文字は、リカがオーダーの用紙に記入する、

丸文字ではないことがわかる。

その絵は確かに写真のものと似ていて、予約制のため、

すぐには買うことが出来ないのだと、追加情報も入っていた。


「予約制かぁ……」


拓也の中にある『勘』とでもいうものだろうか、

このまま素通りできない気がして、店の名前はどこなのか教えて欲しいと、

『鈴木梨花』にメールを送った。

ホームでは発車のベルが鳴り、車両はゆっくりと前に進みだす。


「広瀬、まだ残っていたのか」

「あ、お疲れ様です」


そこに戻ってきたのは、益子だった。

益子はメンバーとは違い、春から動きを見せるブースのために、

それぞれの店舗と、先回りの交渉を始めている。


「どうでしたか、『リリアーナ』は」

「まぁ、すぐに頷くとは思っていなかったからな。ある程度渋るのは想定内だ」

「そうですか」


『チルル』の復活を願う現場の意見を持ち上げたため、

それをよく思わない『リリアーナ』の機嫌は、自然に悪くなる。


「自分たちの作品に自信があるのなら、それで勝負すればいいことなのに」


拓也は、力でねじ伏せようとするのは、一番汚いやり方だと、そうつぶやく。

益子は自分の席に戻り、その通りだがと、苦笑した。


「最終的には、売り場を決めるのはこちら側だ。
いくら『リリアーナ』が嫌な顔をしても、その決定を覆す権限はない。
挨拶はしておかないとならないから、こうして何度か出向いているが……」

「はい」

「ただ、決まったブースに、どういう形で店を出すのかは、
今度、向こうの決め事だからな」

「そうですね」


『KISE』が『木瀬百貨店』の頃から付き合いがある企業だけに、

ヘソを曲げてしまったあとの対応には、確かに苦労しそうだと、拓也も考える。

ポケットに入れた携帯が揺れたため、すぐに開いた。

相手は、リカになる。



『お店に来てくれたら、教えるよん……』



リカは、待っているというメッセージをつけてきたが、

拓也の問いには、一切触れることなく、はぐらかすだけになる。


「ふぅ……」


実際、東京都内にあるお菓子を探すという課題をもらった時、

拓也はもっと楽に探し出せると思っていた。

ネットの環境は、数年前と比べ物にならないくらい進歩しているし、

会わなくても、情報だけをやり取りするアプリも色々あり、

知らない人たちとの輪も、あっという間に出来るほどだった。

しかし、メンバーにも頼みはしたが、目ぼしいものや場所もわからないまま、

トライアル2日が終わってしまう。

6日目の朝、彩希の前に出るため、動ける日はあと3日しかない。

そうなると、情報の出所をあれこれ思い悩んでいる時間はないと考え出す。


「よし……」


拓也は、リカにこれから店に向かうと送信し、携帯を閉じた。





「ただいま」

「おかえり」


『あゆみの丘』から戻った彩希は、祖父母が元気だったと佐保に報告した。

佐保は、それはよかったと言いながらも、彩希のことを気にする素振りを見せる。


「何?」

「エ……うん。彩希、近頃、よくおじいちゃんたちのところに行くでしょ。
何かあるのかなと思って」


佐保は、仕事の悩みでもあるのかと、食事の支度をしながら尋ねた。

彩希はそんなことはないよと言いながら、上着を脱ぎ始める。


「そう……」


佐保はそれならばいいけれどと、話を終わらせようとした。

彩希は、佐保に余計な心配をかけまいと、ごまかすつもりだったが、

寂しそうな表情を見てしまい、黙っているのはよくないのではと思い出す。


「お母さん」

「何?」

「着替えてきたら、話すよ」


彩希は、素早く2階の部屋へ向かい、楽な洋服に着替えると下へ降りる。


「実はね、本部の販売企画を担当している……あ、そうそう、ほら。
冬馬のことでお世話になった、広瀬さん。
あの人から仕事を手伝ってくれないかって言われたの」


彩希は、『抹茶味』を探した客の話し、そしてキューブ型の羊羹を食べた話を、

佐保に語った。彩希は、自分の中にある『味覚』に関する鋭さを認め、

その特技生かして、仕事の協力をしてくれないかと拓也が頼んできたのだと話をする。

佐保は、お茶碗にご飯をよそると、頷きながら聞き続けた。


「それで、どうしたの?」

「確かにお菓子は好きだけれど、そういった堅苦しい仕事はイヤだって、断ったの」

「うん」

「そうしたら、いくらあなたがお菓子が好きで、お店をよくしようとしても、
結局、決定できるのは自分たちなんだって、そう言われて」


彩希は佐保から茶碗を受け取り、箸を持つと、手を合わせる。


「まぁ、そうよね。売り場を作るのは社員の方だから」

「うん……。広瀬さん、企画を作る、売り上げをあげる。
そういうことには自信があるんだって。本当に堂々と言われたの、『俺は出来る』って。
あんなに自信家の人も、珍しいと思えるけれど……」

「そりゃ、『KISE』に勤めているエリートさんなんでしょ」

「……なのかな」


彩希は、お椀を持ち、味噌汁を飲む。


「ただ、自分の舌に自信がないんだって。だから手伝ってくれって……」

「へぇ……」


佐保は、確かに彩希の舌はすごいわよねと、同じようにお椀を持つ。


「でもさ、彼以外の販売企画の人たちは、私が動くことをよく思っていないはずなの」

「あら、どうして?」

「それはそうよ。今お母さん言ったでしょ。『エリート』って。
彼らにしてみたら、売り場で働いている私に、あれこれ言われたくないと、
思っているはずだもの。私だって、そんな気をつかうところに入るのは嫌だし」


彩希は、お菓子を買いに来ている人たちの笑顔が楽しみなのにと、

ご飯を口に運びながら、そうつぶやいた。


「それでも、納得してくれなくて。
だったら、広瀬さんが、舌以外のことにそれだけ自信があるというのなら、
お菓子を探してくれって、そう挑戦状を出したの。で、『夢最中』の写真を送った」


彩希は、この間もらったとき、写真に撮っていたので、

拓也にはそれを渡したと、説明する。


「『ひふみや』を探してってこと?」

「そう。5日間でね。で、最終日に私がこれですって実物を出すために、
おじいちゃんに予約を入れてもらったの。
『夢最中』、前日には、持ち帰らないとならないから」


彩希は煮物の里芋を箸で取り、半分に割っていく。

佐保は、彩希の姿を見ながら、『そう……』と軽く言葉を乗せた。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【12】茨城   吉原殿中  (餅米から作ったあられを水飴で固め丸い棒にし、きな粉をまぶす)



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