13F 『夢』を探し求める人たち ①

13 『夢』を探し求める人たち

13F-①


「今日の段階で、予約は入っていなかったみたい。
ということは、当日持ってくることが出来ないでしょ。
まぁ、そもそも探すこと自体、難しいだろうし」


彩希は、自信満々の広瀬さんに、一撃加えることが出来たらそれでいいと、

また茶碗を持つ。


「一撃って……彩希」

「だって、本当に自分に『自信』があるって、偉そうに言うのよ」


彩希は、箸を止めて、そう強く佐保に言った。

頭の中では、冬馬にネックレスを勧められた日のことがよみがえる。


「冬馬がね……この間、またお店に顔を出していたらしいの。
私自身は、来ていたことを知らなくて。だからもちろん会っていないよ。
もしかしたら、仕事をしていたし、思いとどまって帰ったのかもしれない。
その時、広瀬さんが冬馬とすれ違って……で、顔をあわせたのに逃げたって」

「逃げた」

「そう……」


彩希は、ネックレスを買うと言った時の、冬馬のすがるような目を思い出し、

茶碗をテーブルに置く。


「色々あったけれど、冬馬のいいところも知っていると思っているから。
だから、再出発、今度こそうまくいって欲しくて。
あれから、どうなのって聞きたいけれど、友達もね、連絡を取ってしまったら、
冬馬がひとり立ちにならないから辞めた方がいいって言うし、
そうだ、ここは気持ちをしっかり持ってって、私も断ち切っているのに。
広瀬さん、冬馬が落としたらしいチケット拾って」


彩希は、冬馬の会社が『新作発表会』を開くちらしが、

『KISE』の中に落ちていたことを話す。


「そのちらしだって、冬馬が絶対に落としたかどうかもわからないのに、
会ったのかどうなのかしつこく聞くし。会ってないって言ったら、
会うな、連絡するな、関わるなみたいなことを、上から目線でガンガン言ってきて……」


彩希は両手を広げ、顔は明らかに嫌そうな表情を作る。

佐保は、その仕草を見ると、楽しそうに笑い出す。

彩希は、佐保の反応が、思っているものと違うことに気付き話が止まる。


「お母さん、どうして笑うの?」

「あら、おかしい? だって楽しいじゃない、そんなふうに言ってくれて」

「どこが?」

「どこがって、彩希がどこか『ふわん』としたところがあるってこと、
広瀬さんだっけ? その人はきっと、見抜いているのよ」

「ふわん?」


佐保は、拓也がガミガミ言わなければ、

どこかで冬馬に連絡を取ったのではないかと、彩希の顔を見る。


「エ……」

「広瀬さんに言われたから、意地でも取るものかって、今、思っているでしょ」


佐保は、たくあんを箸で取り、口に入れる。

ポリポリという音が、食卓に響く。


「会えば、話を聞けば、親しいからなんとか助けたくなるし……
でも、それがいけないことは、互いにわかっているし……」


佐保の言葉に、彩希は心の奥を読まれた気がしてしまう。


「あぁ、もう。お母さんには、
広瀬さんのこう……上からの態度がどうも伝わっていない。
言い方があるの。あんなふうに言われたらね、結構腹を立てると思うよ」


彩希は焼き魚を箸でほぐしながら、ブツブツ文句を言い続けた。





「もう一杯、くださぁ~い」


拓也は約束どおり、仕事の後でリカの店に向かい、

それからしばらくは、同じ席でお酒を飲んだ。

リカはあらためて、贔屓の社長さんが描いてくれたというイラストの紙を拓也に見せる。


「ねぇ、どう? 上手でしょ、社長さん」

「あぁ……確かに」


彩希からもらった写真と比べても、線の入り方はほぼ同じだった。

リカは、社長にもらった写真は絶対に見せていないからねと念を押し、

そのイラストの上に、お酒の入ったグラスを置く。


「おい……」

「はい、報告はおしまい。飲もうよ、拓也」

「飲んでいる」

「ダメ、ダメ……全然、ダメ」


リカはそういうと、拓也にグラスを渡す。

互いに腕をからめ、相手の動きを制限しながら、お酒を口に運ぼうとする。


「なぁ、この店……」

「ほら、拓也、集中して。こぼれちゃうぞ」


リカは楽しそうに笑い、グラスに口をつける。

腕をひっぱられている拓也も、それに合わせて動かないとならなくなる。


「拓也、次の情報は、これを一緒に飲んでくれたら、教えて……あ・げ・る」


リカは、唇に指をつけると、それを拓也の両頬と鼻の頭につける。


「ねっ……」


艶やかなぷっくりとした唇を目の前にして、拓也はリカの言うとおり、

腕をからめたまま、グラスに口をつけた。

そんな情報交換を条件にしていると、拓也のお酒は増える一方で、

互いに陽気な部分だけが、浮き彫りになっていく。


「まだ! まだまだ飲めるってば、拓也!」

「あぁもう、いいよ……だんだん疲れてきた」


拓也は、あらためて携帯に入っている、彩希の寄こした写真を見る。


「なぁ、リカ。これ、ネコの手じゃないのか」

「ネコの手? 違うよ、ないない。ニャンコじゃありません。
これは『グローブ』なのです」

「『グローブ』?」

「そう、野球のグローブ」


リカは社長から聞いた話だけれどと言いながら、

これを作った『ひふみや』のご主人に、何か思い出があるらしいよと、

拓也のグラスにまた、お酒を注いでいく。


「グローブ? これがか?」


拓也は、ピッチをあげて飲み続けたせいで、どこかボーッとし始めた。

そんなことも気にせず楽しそうにお酒を作るリカに、

拓也はだんだん乗らされていて、

細かい情報を教えるつもりがないのではないかと考え始める。

リカのそばにある自分の左手で、ふとももをつねろうとする。


「あ……やだ、何するの」

「お前、人をこうして弄んで、適当なこと言ってないだろうな」

「適当なこと? やだ、そんなこと言っていません」


リカは、そのお菓子を作った職人は、大好きだった野球が幼い頃に出来なくて、

寂しかった思い出があったこと。

別仕事を持った男性が、趣味としてお店を始めるとき、

幼い頃のことを思い出し、最中の形を『グローブ』にしたと説明した。


「趣味?」

「そう……実は趣味なんだって」


リカは、そろそろお店が終わりますと、拓也の耳にささやきだした。

言葉の最後に、軽く息を吹きかけ、耳を軽くかむ。

拓也はリカが触れた場所を、指でぬぐうようにする。


「終わり? いや、まだだろ」

「私の時間が終わりなの……」


梨花は、拓也の左手をそっと包み、手のひらに指で何やら書き始める。

くすぐったいような刺激が、拓也自身に別の感覚を呼び起こさせる。

隣を見ると、自然と視線はうなじに向かった。


「ねぇ、拓也……このまま一緒にいようよ。久しぶりでしょ」


リカは、お店を出て、もう少し一緒にいようとそう言いだした。

拓也は、リカが触れていた手のひらを見る。

自分のアプローチに対して、拓也の態度が、拒絶ではないと思い、

リカは、もたれかかるようにしながら、拓也の首に手を回した。



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