13F 『夢』を探し求める人たち ②

13F-②


「ねぇ……拓也。私さ、もうずいぶん、抱っこしてもらってないよ」


リカはそういうと、照れたように舌を出す。

拓也は、またリカの思うままになってはならないと、その誘いを断るつもりで、

首にまとわりついたリカを外していく。


「何よ、冷たいな。独占欲の強い、彼女出来ちゃったの?」

「どういう質問だ」

「それとも……男に走ったの?」

「さらにどういう質問だ」


リカは胸元の開いたドレスの真ん中を、拓也に見せるように引っ張った。

拓也の視線が、その場所に動く。


「あ……見た。エッチ!」


リカは、よかったと笑いながら、拓也の方へ体を寄せ、

残ったお酒を飲み干していく。


「なぁ、今日はどういう目的で来たのか、話したよな。その店の場所」

「だから……ここにある」


リカは、もう一度、胸元をわざと開いてみせる。

リカの左胸に、1枚の絆創膏が貼り付けてあった。


「ここ……抱っこしてくれたら、取っていいよ」


リカは、これで決定ねと楽しそうに腕を組む。

拓也は、この時間を用意周到に迎えたリカの得意げな顔を見た後、

周りの目を気にしながら、体を少しだけ近付ける。


「この前……会っただろ」

「この前?」

「そう……確か、2ヶ月くらい前か?」


梨花は目の前にある拓也のおでこを、軽くはたいた。

拓也は何をするんだと、言い返す。


「誰のことを言っているの? 私は半年くらい、ごぶさた……」


拓也は、リカの口を塞ぐと、わかったという目で頷いた。





梨花と久しぶりに抱き合っていると、確かに半年くらい経ったなと、

拓也も自然と理解が出来た。

お酒を飲んでいるときには、生意気な口を聞く梨花だったが、

ベッドに入ってしまうと、とげとげしいところなどどこにもないくらい素直で、

その反応のよさに、拓也自身も気持ちが高まっていく。

左胸についた絆創膏の存在はわかっていたけれど、扉を開けてしまえば、

そこは男女の時間でしかなく、互いの吐息に包まれながら、

ただ、思いの中に沈んでいく。

梨花のすがりつくような手をつかみ、さらに自分自身を押し付けると、

吐き出される泣き出しそうな声が届き、指に力が入った。

梨花は自分の指を軽くかみながら、頬を赤らめた顔で、その刺激を受け止め続ける。

二人は互いの熱を感じ、ただ押し寄せる感覚に揺れていく。

梨花は、自分の脚を拓也の脚に絡め、深い息を吐き、

髪から届く梨花の香りに、拓也は抱きしめている手をさらに深い場所へ向けた。

梨花は、両手で拓也の頬に触れ、小刻みに震える唇をしっかりと重ねてくる。

互いにその時が来るのを感じ、拓也はどこまでも続くような時間に、ピリオドを打った。


「はぁ……」


ベッドの上で寝転ぶと、自然と壁にかかる時計が見える。

最終列車は、すでに出てしまっていて、拓也は、家に戻ろうかどうか考えた。


「絆創膏、取らないの?」

「取らなくてもいいよ。答えだけ教えてくれ」

「ねぇ……ひとつだけ聞いてもいい?」

「いいけれど、これ以上の条件は、なしだぞ」


梨花は、体を横に向け、拓也の耳元に口づける。


「大丈夫。とっても満足してますから」


そういうと、クスクス笑い出した。


「えっとね……『ひふみや』の住所は、『キセテツ』の……鹿野川行きに乗って……」


出だしは普通の声だったが、梨花の言葉は最後まで続かなくなる。


「で?」

「……ここまでなの」

「は?」


拓也は、どういうことだと、横になっていた体を、一気に起こす。

梨花は、ベッドの上にあったケットを、自分で巻き取った。


「ここまでなの。ここまでしか社長も覚えていないって、そう言っていたの」

「おい、梨花。お前、知っているって言っただろう」

「他の人から、情報ないの? 住所の細かいところは、調べればわかるでしょ」


足をバタバタさせた後、梨花は静かになる。


「怒った? 拓也」


顔までケットに隠し、梨花はそう聞いてくる。

拓也は鹿野川方面だと聞き、ある男の顔を思い出した。


「本当に鹿野川方面なんだな」

「うん……予約しないと買えないんだって。本当に知っている人しか知らなくて。
まず、お店もないし」

「店がない?」

「そう……お店では売っていないの。3日前に予約しないと、買えないって」

「3日前なのか」

「うん……そう聞いたけれど」


拓也は、たとえば明日、店を探せたとしても、3日後では間に合わないとそう思う。


「『夢最中』って言うらしいよ」

「『夢最中』」

「そう……その社長さんは、元々和菓子屋さんじゃないの。
和菓子が大好きで、ご贔屓にしているお店があったんだって。
で、何度も通って、味を知って、自分でもチャレンジして……で、出来たのが、
『夢最中』らしいの」


拓也の様子を見ていた梨花は、あまり怒っている様子が見えないので、

ケットから少しずつ顔と体を出し始める。


「ごめんね、拓也」

「ん?」

「そこまでしか知らないのに……知っているふりして、わがまま言って」


梨花の謝罪を聞き、拓也は、ふと我に返った。

隣で申し訳なさそうにしている梨花の頭に、軽く触れる。


「いや……ありがとうな。梨花が教えてくれなかったら、ゼロのままだった。
鹿野川、『ひふみや』、『夢最中』。ここまでくればどうにかなるよ」

「うん」


梨花は、嬉しそうに拓也によりかかると、またお店に来てねと、そう言った。





トライアル4日目。

拓也は結局、朝まで梨花と眠り、始発で家に戻ると、熱いシャワーを浴びた。

昨日、飲んだお酒も、抱き合った感覚も全てリセットするように着替えて、

昼前に出社した。


「あ、おはようございます。大丈夫ですか」

「う……うん。悪いな、大山達がクリスマスイベントの追い込みなのに」

「いえ、もう形は完成していますので」

「うん」


さすがにホステスとホテルで抱き合っていて、最終電車に乗れなかったとは言えず、

拓也は『体調不良』という便利な言い訳を使い、なんとかその場をごまかした。

営業企画部に入ると、エリカがすぐに気付き近寄ってくる。


「おはようございます、体調……」

「もう、大丈夫だから」

「そうですか、それなら」


同僚の声かけは当然のことなのだが、真実をわかっている拓也にしてみると

言われるたびにどこか気恥ずかしく、席に着くと、すぐに仕事モードに入れるよう、

素早くPCを立ち上げる。


「広瀬さん。探して欲しいと言われていたお菓子のことだけど」


エリカは、白黒のちらしを見せると、

『国最中』という商品ではないかと、そう言った。

拓也は、そのちらしを受け取り、映っている写真を見た。



13F-③




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