13F 『夢』を探し求める人たち ③

13F-③


「『国最中』? それは鹿野川の近く?」

「ううん、これは八王子の方」


エリカは、少し写真のものより小振りだけれどと説明する。


「あぁ……うん、そうだな。似ているけれど、違う」

「違う?」


エリカは『難しいわね』と言いながらちらしをしまう。

エリカの情報は、当然、純からのものなので、間違いないだろうと思ったが、

そうではないと言われてしまい、首を傾げる。


「実は、おそらくこれだろうというものは目星がついた」

「わかったの?」


エリカは、純さえもわからない商品を、拓也が先に見つけたことに、驚かされる。


「うん……。どうも『夢最中』というらしい」

「『夢最中』」

「そう。『ひふみや』って店で、場所も鹿野川辺りだって事まではつかんだのだけれど」

「鹿野川……って、『キセテツ』の?」

「あぁ」

「そうなんだ……」

「細かい場所が、まだわからなくて……あ、そうだった」


拓也は何か思いついたのか、席を立ち販売企画部を出て行ってしまう。

エリカは携帯を広げ、純のアドレスを呼び出した。

純からは、渡した情報が正解でも不正解でも、

すぐに連絡を取って欲しいと言われていたため、

エリカは、拓也から聞いた話を全て、文章に押し込み送信した。



エリカと純のやりとりなど知らない拓也が、階段を駆け上がり扉を叩いたのは、

以前まで仕事をしていた3階だった。

いきなり開いた扉から、誰かを探すような拓也が登場したことに、

一番驚き焦りだしたのは、以前の上司、小川になる。


「な……なんだ、あいつ。急に……」


首を動かし、明らかに誰かを探していると思った小川は、

とっさに席を立ち、避難訓練のように机の下にもぐりこむ。

今更、寝具担当を外した『お礼参り』ではないだろうと思いつつ、

小川は拓也の動きを、机の下からじっと見た。


「……ったく、こういう大事な時に、どうしてあいつはいないんだよ」


拓也が探していたのは、小川ではなく芳樹だった。

仕方なく出直そうかと思ったとき、芳樹が拓也を見つけて肩を叩く。


「お!」


その瞬間、昼の休みを告げる鐘の音が鳴り、ランチタイムがスタートした。

仕事をしていた社員たちは、財布を持ち、それぞれが立ち上がっていく。

机のしたから出た小川は、拓也のターゲットが自分ではなかったことに気付き、

何気なく席に戻る。


「課長、何か落としましたか?」


急にしゃがみこんだ小川の行動を見た社員は、そう尋ね、

一緒に探しましょうかと声をかけた。


「いいんだ、気にするな」


小川は、すぐに立ち上がると、拓也のいる場所とは離れた扉を使い出て行った。





人の少なくなった販売企画部内で、

拓也は芳樹に、『ひふみや』について尋ねた。


「『ひふみや』?」

「あぁ……鹿野川の近くだって聞いたんだ。お前、鹿野川だよな。
知らないかそういう店。いや、店はないけれど、お菓子を作っていて」

「お菓子? あぁ、あの……例のですよね」

「そうだ。名前は『ひふみや』。場所が鹿野川の近く。で、商品名が……」

「『夢最中』!」


拓也に言われまいと、芳樹は得意げに商品名を発表する。

予想外の展開に、拓也は一回り目が大きく開く。


「どうしてお前、その商品名を知っているんだ」

「昨日……ほら、前に食堂で話しましたよね。習い事を始めた話。
あの、書道の年末会に出かけまして。そこでいただいたお菓子が、『夢最中』で。
形からしてもしかしたらと……今日……」

「持ってきたのか」


拓也は期待を込めて、そう問いかける。


「はい……包み紙を」


芳樹は楽しそうに自分の席に戻ると、バッグからファイルを取り出した。

そこには確かに、白い和紙で作られた包み紙が挟まっている。


「中身はどうした」

「食べました。美味しかったです……」


芳樹は、餡の甘さが上品だったと、感想を口にする。


「おい! 大林、出せ! 今すぐここで出せ!」


拓也はそういうと、芳樹の背中を叩き始める。


「バカなことを言わないでくださいよ、無理ですから……」

「どうして包み紙しか持ってこないんだよ、お前」

「どうしてって、中身は普通食べますよ」


芳樹は、見るからに残念そうな拓也に向かってそういうと、

時間だから、ランチに行って話しましょうと誘い出す。


「包み紙って……」

「ほら、行きますよ」


それぞれからバラバラに伝わった情報だが、なんとか形になるところまでたどり着いた。



「はい。大林です。昨日はありがとうございました」


芳樹と拓也は、ランチに向かうことにしたが、

その前に、芳樹は昨日、『夢最中』をお茶菓子に持ってきた男性と、

連絡を取ることになった。


「はい……いえいえ、僕はまだ本当に書き始めなので、
筆も強く落とせないですし」


拓也は、どうでもいい話しはしなくていいから、

まだ商品が残っていないのか聞けと、受話器のそばで芳樹をせかす。

芳樹は受話器に手を当てる。


「広瀬さん、横でゴチャゴチャ言わないでくださいよ、向こうに聞こえます」

「お前が関係ない話をしているからだ」

「関係なくないですよ。話には流れというものがありますから」

「ズバッと行け」

「あぁ……もう」


芳樹は、拓也に背を向けて、また話をし始める。


「早くしろって!」


拓也は、芳樹の前に顔を出すと、指をクルクル回し、

無駄話は必要ないと、何度も合図した。





「あれって、予約制だったのですね」

「あぁ……3日前に予約しないと、無理だそうだ」

「はい、今聞きました」


拓也は『A定食』、芳樹は『醤油ラーメン』を注文し、空いている席に腰かけた。

一番聞きたかった『夢最中』の残りについてだが、

今から30分ほど前、残った2つは、

奥さんと美味しく食べてしまったという話しを、最終的には聞くことになった。

期待を込めていた拓也は、がっくりと肩を落とし、

テーブルの上にあったドレッシングを、小鉢のサラダにかける。


「そうだよな……普通、食べるよな」

「はい。午前中に聞いていたら残していたのにと、言われましたけどね」


芳樹も、内心、もったいなかったと思いながらも、

悔しさから、朝、同じ電車に乗らなかったのが悪いと言い始める。

割り箸を割ると、『醤油ラーメン』を食べ始めた。


「朝、通勤電車で会えるだろうと思っていたから、
僕、車内で広瀬さんを探したんですよ」


芳樹の麺をすする音が、拓也の耳に届く。

ズルズルという当たり前の音が、

イラついているからか、拓也にはやけに大きく聞こえた。


「あのなぁ、そういう大事なことなら、
メールでさっさと知らせてくれたらよかったんだ」


拓也はそう言い返すと、同じように割り箸を割り、まずは味噌汁を飲む。


「メールって。これはもしかしたら、僕はすごい情報を手にしたのかもしれないと、
そう思ったんですよ。そんなすごいことをメールで呆気なく教えるのが、
惜しくなったんです」

「惜しい?」

「はい。どうせなら、広瀬さんが喜ぶ顔を見たいじゃないですか、この目で」


芳樹はそういうと、自分の両目を目の前でパチパチする。

拓也はその仕草を見た後、今度はご飯を口に運ぶ。


「あれ? 笑ってくれないんですね、広瀬さん」

「笑える話がどこにあったんだ」

「今でしょ!」


芳樹は、どこかの予備校講師が取るポーズをその場でしてみせる。

拓也は全く反応しないため、芳樹は、そこからしばらくラーメンを食べ進めた。



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