13F 『夢』を探し求める人たち ④

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「まぁ、ラインに行って、午前中『体調不良』で午後から出社だと聞いた時、
わかりましたけどね。作戦協力をしたお姉ちゃんと、色々お忙しかったのかと」


芳樹の目が、『どうせそうですよね』という無言の言葉を送り出す。


「なんだよ」

「別に、いいですよ。広瀬さんのプライベートですから」


芳樹はチャーシューを箸で横によける。

拓也はそのチャーシューを自分の箸で掴み、口に入れた。

芳樹は、突然の出来事に、驚いた顔をする。


「どうして食べたのですか、僕のですよ」

「避けただろ。チャーシューがかわいそうだったから、俺が食べてやった」

「よけたのは、後から食べようと思っただけで……あぁ、もう」


拓也は、自分の定食に入っていたから揚げをひとつつかむと、

芳樹の醤油ラーメンにダイブさせる。

当然だが、醤油味の汁が、そこらあたりに飛び散った。


「うわ……何をするんですか」


芳樹は、ネクタイやスーツに飛び跳ねたのではないかと、

ポケットからハンカチを出し、拭きはじめる。


「同じ肉だろが。ガタガタうるさいな」


拓也は、ブタでも鳥でも肉は肉だと、またご飯を口に入れる。


「肉は肉って……。食料品担当者のいうセリフだとは思えませんね、
子供ですよ、やることが」

「チャーシューを後からにしようとしたお前も、十分ガキだ」

「また強引な屁理屈だ」

「……そもそも、お前がああだこうだ言うからだろうが。
俺が、お姉ちゃんと遊んでも、お前に非難されることじゃないだろう」

「非難なんてしてませんよ」

「はい、はい、確かに遊んでいました。でもな、そのおかげで、
全然動かなかった情報が一気に聞けた。それは間違いない。
俺には、店の名前も場所も、聞きだすにはそれしかなかった。
まさか、お前の5人しかいない書道の会で、実物が出されているなんて、
考えもしなかったしな」

「そりゃ、まぁ……そうでしょうけれど」


芳樹は、視線の先に入ってきた彩希と恵那を見る。


「あ……」

「なんだ」

「ほら、広瀬さん、挑戦状の人が来ましたよ。
包み紙まで見つかったからこれでどうだって、聞いてみたらどうですか」


芳樹の言葉に、拓也も視線を軽く上に向ける。

何にするのかメニュー前に立ち、笑っている二人を見た。


「どうしてそんなことをいう必要があるんだ。住所もわかったとはいえ、
まだ、最終的に、店の場所を確認できていないんだぞ。
それに、どうしてこっちが頭を下げるんだ」


拓也は、定食についていた小鉢の酢の物を口に入れ、噛んでいく。

彩希も拓也たちに気付き、一度視線を向けたが、すぐにそらした。


「見てろ。絶対に『うん』と言わせてやるからな……」


その時、拓也の携帯に、梨花からメールが届く。

拓也は、ひざの上に携帯を置き、そっとメールを確認した。



『拓也……昨日はとっても素敵な日でした。やっぱり拓也の抱っこは最高!
今も、夢のような時間の余韻に、浸りながら過ごしているよ。
次のデートまで、あんまり日を開けないでね』



梨花からの、キスマークのイラストがたくさんつけられたメールを閉じ、

拓也は息を吐く。芳樹は、拓也の表情がおかしくて、笑いそうになった。

ここで笑ったら、また何かをされると思い下を向き、

ラーメンに入ったから揚げを食べる。


「……あれ? うまいかも」


芳樹は、ペラペラのチャーシューより美味しかったと笑い、

拓也は、肉は肉だからだと、強引な屁理屈を押し通した。





拓也が芳樹から聞いた住所を尋ねる少し前に、

エリカから部分的な情報を受け取った純が、その場所を特定し店を訪れた。

今日は、別の会議を予定していたが、エリカがおもしろいと語る広瀬拓也と、

以前、町で出会った江畑彩希の『戦い』が、この商品だと思うと、

どうしても確かめずにはいられず、予定を変更してここまでやってきた。

駅からも距離もそれなりにある住宅街の一角に、小さなプレハブ小屋があり、

そこで何やら機械が動いている音がする。

しかし、それほど甘い香りがしているわけでもないし、

『ひふみや』という看板もどこにもないため、知らずに歩いていれば、

ここで予約制の和菓子が作られているなど、誰も気付かないだろうとそう思う。

そこにあるのは『大谷』という表札と、荷物が詰めるようになっている古い自転車が、

1台あるだけだった。

純がインターフォンを鳴らすと、中から人の声がした。


「突然で申しわけありません。『伊丹屋』で商品企画をしております。
栗原と申します。少しお時間をいただけますでしょうか」


純の名乗りに、30秒ほどした後、ガラガラと扉が開いた。


「はい」


出てきたのは、白髪の男性で、不思議そうに純を見ている。


「突然申しわけありません。栗原と申します」


純は、ポケットから名刺を取り出すと、扉から少し顔を出す男性に名刺を手渡した。





そして、拓也が『ひふみや』の場所を特定し、訪れたのは、

純が帰ってから1時間後のことだった。

同じようにインターフォンを鳴らし、玄関に出てきた男性に挨拶をする。


「はぁ……今度は『木瀬百貨店』さんですか」


『大谷喜助』は拓也の名刺を受け取り、笑い出す。


「今度……って、どこか」

「はい。1時間前に、『伊丹屋』さんが」

「『伊丹屋』が?」

「えぇ。栗原さんという男性でしたよ。あなたと同じくらいお若い」


拓也は、自分が知らなかった店を、『伊丹屋』は知っていたのかと、

その情報量の違いを痛感した。



もちろん、エリカが間に入っていることも、

純が知らなかったことも、拓也は気付いていないのだが……



拓也と喜助の後ろには、芳樹が寄こした『夢最中』の包み紙が重なっている。

拓也はそばにあるセロテープの台、小学校の書道で使うような文鎮、

手作り感覚があふれる工場の中を、軽く見た。


「『伊丹屋』は、ここへ何をするために」

「いやぁ……『伊丹屋』さんも、うちを何かで初めて知ったそうでして。
『夢最中』を1つだけでも、すぐに譲ってくれないかと言われました」

「あ……そうですか」


拓也は、『伊丹屋』がなぜ今動いたのか、どこか不思議に思いながらも、

同じように、自分も商品を分けてもらえないかと頭を下げる。


「申し訳ないですが、とにかく、趣味で作っているものなので、
予約された数だけしかないのですよ。
今日は予約がなかったので……もちろんあまりも失敗作もなくて。
ですので、こうしていらっしゃっていただいたのに、申し訳ありませんが」


大手の会社にここまで来ていただいてと、喜助が申し訳なさそうに謝るので、

拓也はこちらこそ、突然訪ねてしまって悪かったと謝罪した。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【13】栃木   揚げゆばまんじゅう  (豆乳とゆばを皮に利用し、揚げたお饅頭)



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