14F 対等な勝負と握手 ③

14F-③


「はぁ……」


拓也は最後の1日で、『夢最中』の現物を持っている人間がいないかどうか、

必死に探してみたが、結局、見つからないまま夜を迎えてしまう。

約束の日は、明日。

仕事が始まる前に、彩希のところに向かうことになっている。

店の場所も、商品名もわかったし、芳樹のおかげで、包み紙はゲットできた。

しかし、そのものが手に入らなかった。

拓也は送られて来た写真をしばらく見つめ、何かを決めるように頷くと、

その日はそれで家路についた。





「で……」


次の日、通勤電車では、いつもの駅から芳樹が乗ってきた。

人ごみをかき分けるようにしながら、拓也のそばに向かってくると、

空いていた吊り輪を掴む。


「で……って?」

「いや、だから、商品そのものは見つかりましたか」

「見つかるわけないだろうが」


拓也はそう開き直るように言うと、黙って外を見続ける。

芳樹は、隣に立つ拓也の表情を確認した。


「ということは、諦めたのですか」

「諦める? どうして俺が……。俺は間違っていないし」

「いや、でも」

「商品を探してきてくださいとは言われたけれど、
目の前に持ってきてくださいねとは、約束していない」


拓也の言葉に、芳樹は軽く首を傾げる。

電車は見慣れた景色を、右から左へ移動させていく。


「なんですか、その昔話の一休さんのような言い方は……いや、いや、広瀬さん。
それは通じませんよ、普通、探してきてって言ったら……」


芳樹のセリフに、拓也が厳しい目を向けた。


「言ったら? 言ったらなんだよ」

「あ……あの……いえ……」

「探すことと、持ってくることは、同じかな? いや。漢字も違うし、意味も違う。
では、英単語を思い出してみよう……ほら大林君、堂々と答えてくれたまえ」


出てきたセリフに芳樹が返事を出せずにいると、

念を押すように『同じなのか』と、拓也は顔を近づけ聞きなおす。


「……違います」

「だろ? そうだよな、違うんだって……」


拓也は、ここまで来たら、どんな手を使ってでも、勝負に勝つと宣言する。


「どんな手って」

「なんだよ、悪いのか」

「いえ……」


拓也と芳樹を乗せた『キセテツ』は、今日もそれぞれの場所で働く会社員たちを乗せ、

順調に走り続けた。





『KISE』の更衣室から出た場所にある、小さな広場。

彩希が、そこに『夢最中』の袋を持ち立っていると、拓也がやってきた。

手には何も持っていない。


「おはようございます」

「おはよう」


彩希が、約束の日なのでと口を開くと、拓也はわかっていると頷いた。

そして、ポケットからメモを出す。

そこには確かに、大谷喜助の名前、『ひふみや』の住所。

そして、探して欲しいと頼んだ『夢最中』の商品名が記されている。


「すごいですね、昨日、喜助さんにお会いして、広瀬さんが来たことを聞きました。
正直、お手上げになると思っていましたので、驚いています」

「だろうな。あんな挑戦状の出し方をしたわけだから」


拓也はそういうと、芳樹からもらった包み紙をメモの上に置く。


「これは包み紙ですね。商品は」

「商品はない」

「それなら私の勝ちです。持ってきてもらうことが……」

「いや、それは違う」


拓也は彩希のセリフを途中で止めた。彩希は小さな台の上に置き、箱を開ける。


「これが、私のお願いした『夢最中』です。何が違いますか」

「それはわかっている」

「だったら」


拓也は彩希の前に、左手を開いて出した。

5本の指に、顔をつかまれるのではないかと、彩希は身構える。


「江畑さん、君は5日の時間をくれるとそう約束した。
しかし、この『夢最中』は実際、3日前に予約を入れないと買うことが出来ない」


拓也は開いていた手の指を、3本曲げる。


「つまり、探していられる時間は、2日しかなかったということだ。
それは、約束とは違うのではないか」


拓也は、もし、5日という日付をきちんとカウントするのなら、

プラス2日の猶予があって当然だとそう口にする。


「猶予って……」

「確かに、今ここに『夢最中』はない。でも、俺の得た情報に間違いがないのなら、
それは探してきたことと変わらない」


拓也のあまりにも堂々とした態度に、

彩希はまるで自分が間違っていると言われているようで、言葉が出なくなる。


「どうしてもそれを認められないと言うのなら、こちらにも言い分がある以上、
この勝負はドローだ。あらためて勝負をお願いする」

「またですか?」

「またも何もない。俺は何度でも挑戦する」


拓也は手をしっかりと握る。


「勝つまで……」


彩希は言い返そうと思い、口を開きかけたが、

これ以上、何を拓也にぶつけても、また跳ね返される気がして何も言えなかった。

広場の横を、二人の勝負など知らない他の店員が出社し始め、

だんだんと周りが賑やかになり始める。


「昼まで悩んでくれていい。約束どおり、俺の仕事を手伝ってくれるのか、
それとも、今回の勝負は納得いかないから、別のことをするのか、決めてくれ」

「あの……」

「どうせ、食堂で会うだろう」


拓也はそれだけを話すと、そのまま出て行こうとする。

しかし、その足がとまり、視線は彩希がテーブルに置いた『夢最中』に向かった。


「なぁ……」


彩希は箱の中から1つ取り出すと、拓也に差し出す。


「予約したのでしょ。後から返してくださいね」


拓也は『夢最中』を受け取り、ポケットに入れる。


「当たり前だ。君に借りは作りたくない」


拓也はそのまま外に向かい、代わりに恵那が姿を見せる。


「おはよう……バタちゃん」

「おはよう」


彩希は4つになった『夢最中』の箱を閉じると、拓也の後姿を見る。


「さて、今日も頑張ろうっと」


彩希はそのまま自分のロッカーに向かうと、仕事の準備をし始めた。



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