16F ひらめきの形は誰のもの ②

16F-②


「初日だから、互いにトゲトゲした部分が出てしまうのは仕方がない。
でも、それを乗り越えていかないと、生きた意見が使えなくなる。
全員の力をあわせることこそ、成績を伸ばす唯一の方法だ」


拓也は、基本の部分だけ教えるからと、彩希にPC前に座るよう指示をする。

彩希は、拓也に言われるとおり、PC前の椅子に座った。


「まず……この画面が基本、よく見て」





恵那は、初めて『第3ライン』に向かった彩希のことが気になっていたため、

ランチの時間になったことがわかると、すぐに仲間に声をかけ、休みを取った。

地下通路を通り、彩希がいる2階への階段を上がる。

以前、担当者と一緒に来たことがあったので、場所はわかっていた。

部屋のどこにいるだろうかと窓の奥を見ると、彩希がPC前に座り、

何やら拓也に教えてもらっている姿が見えた。

他にも数名の社員がいて、扉が何度か開くものの、

明らかに仕事中に見える彩希に、恵那は声をかけていいのかためらってしまう。


「バタちゃん……」


彩希の表情は真剣そのもので、何やらメモも取っているようだった。

何を言われているのかは聞こえてこないけれど、

彩希の顔が少し不機嫌そうに口を結んだ後、緊張が解けたのか、笑顔になる。


「ランチ……ですよね」

「あ……はい」


中を見ていた恵那に声をかけたのは、同じく拓也の動きを見に来た芳樹だった。

芳樹は、僕が呼んできてあげますよと、中に入っていく。

芳樹の姿に気付いた彩希は、廊下に立っていた恵那に気付き、

ここにいるよと軽く手をあげる。


「江畑さん、お友達が、待ってますよ」

「はい」


彩希は恵那に向かって手を振ると、拓也に言われたとおり、PCを打ち込み、

少し前にまつばが出していた宛名の印刷に成功する。


「出来ました」

「うん」


拓也は、ファイルが分かれているので、

それを選ぶミスさえなければ大丈夫だと、そう話す。


「はい」


彩希は拓也と芳樹に頭を下げると、席に戻り財布を取った。

そして恵那の方に向かう。


「ごめんね、恵那」

「ううん、もういいの?」

「いいの。今教えてもらって、覚えたから」


彩希は、そういうと座る場所がなくなるから急ごうと、エレベーターの方に向かう。

恵那は、その後ろを追いかけ、二人は揃って今日は何を食べようかと話しだした。





「クスッ……」


恵那は『本日のパスタ』を選び、彩希は『天ぷらうどん』を選んだ。

向かいあうように座り、いただきますをした後、恵那は彩希の顔を見て笑う。


「何がおかしいの?」

「ごめん。なんだかさ、バタちゃんが真剣な顔でパソコンの前に座っていたでしょ。
それがおかしくて」


恵那は、心配して様子を見にきたけれどと言いながら、フォークを動かしていく。


「何よ、真面目に仕事をしているのがおかしいって、どういうこと?」

「だからごめんねって謝ったでしょ。あぁ、もう、どういえばいいのかな」


恵那は、変な意味ではないのだけれどと、フォークにパスタを巻いていく。


「私さ、自信がないってそう言ったの、広瀬さんに」

「自信? あれ、まだ半日なのに?」

「うん……」


彩希は、今朝からのまつばの態度を恵那に語った。

恵那は、そういう人はどこにでもいるよと、軽く言い返す。


「私、ここに来る前にね、会社の事務仕事していたことがあるの。
ベテランさんだから、仕事を教わりなさいって、上司に言われたけれど、
その人、全く教えてくれなくて……あ、そうそう、バタちゃんもOLしてたのでしょう。
いなかった? そういう意地悪な人」


彩希は、恵那に言われて、ここへ来る前のことを思い出す。

短大を卒業し、就職したのは部品工場の事務だった。

『福々』が元の場所から移転し、あらたなスタートを切ったものの、

子供である彩希から見ても、明らかにうまくいっているとは思えず、

少しでも家族の足しになればと『給料、ボーナス』がしっかり入る仕事を選んだが、

入社2年目に、会社は急な仕事の方向転換をすることになり、

あっけなくリストラされてしまった。


「前の仕事の時には、意地悪される時間もなかったけど……」

「ん?」

「いや……なんでもない」

「だからさ、ようするに、他の人に覚えられたら、自分の居場所がなくなるって、
そう思ったのでしょ。嫌みとか不満ばかりドンドンぶつけられて、
毎日ブルーだったもの」


恵那は自分の昔話をしながら、まつば自身も、自分に自信が持てていなくて、

彩希を嫌うのではないかと、そう分析する。


「だって、彩希のことは、広瀬さんがどうしてもってねじ込んだわけでしょ。
他の人たちにしてみたら、うらやましいというか……」


恵那は、人は単純なようで複雑だと、パスタを食べ進める。

彩希は、花瓶を倒したと言いながら、彩希の作っていたプリントを水浸しにした、

まつばのことを考える。


「人に恨まれながら仕事をするのは、嫌だな……」

「広瀬さんには話したの?」

「話したよ。全く相手にされないけど」

「そうなの?」

「そうだよ。そんなものはって払われた。
あの人、本当にいつも自信たっぷりなんだよね。どこから来るのかわからない自信と、
絶対ってくらい曲げない意見と……」


彩希は、冬馬のこと、『夢最中』のことなど、

今まで何度か拓也とぶつかったことを思い出す。


「いや……別にいいけど」

「何よバタちゃん、さっきから自分で言って、自分でごまかして……」

「ごまかしているわけではないけど……」


彩希は、せっかくの昼食が悪口ばかりでは美味しくなくなると言い、

うどんを冷ましながら、食べ進めた。



「クスッ……」



拓也は、目の前から漏れた笑い声に、素早く反応する。

芳樹は、これ以上笑うとまた怒られそうだと口を結ぶが、もぞもぞした口は、

妙な動きだけを見せてしまう。


「大林、お前……メスのうさぎか。口元が動いている」

「うさぎって……いや、メスってなんですか」

「笑っただろ、男なら堂々と笑えよ。『クスッ』ってなんだ、女の笑いだろう。
モゴモゴ鼻と口が動いていたんだ。メスうさぎだろうが」


芳樹は、なんだか嬉しくなりましたよと、定食のコロッケを半分に切った。

拓也は、何か言いたげな芳樹の態度を無視するように、食べ続ける。


「どうしてなのかって聞かないんですか」

「聞きたくないからね」

「……聞いてくださいよ」

「面倒だな、言いたければ勝手に言えよ」


拓也はそういうと、また視線を下に向ける。


「僕が1年目の頃は、あんなふうに指導してくれなかったのになと。
何を聞いても『しっかり見ろ』、『ちゃんと聞け』って……
あぁ、昔が懐かしくなりましたよ」


芳樹は、自分が入社したとき、拓也の横について仕事をしたが、

細かい指示などしてもらったことがないと、そう言い始めた。

拓也は口の中に入れたご飯を納得するまで噛んだ後、しっかりと飲み込む。


「人が何もしなかったみたいに言うな。そもそも仕事は自分で考えるものだ。
人まねも必要だけれど、それに慣れてしまうと進歩がない」

「はい」


芳樹はその言葉も何度か聞きましたと、笑顔になる。


「江畑さんは、まぁ、俺が強引に連れて来ていることもあるし、
まだ、計画の一歩目も実行できていない。それなのに、今、
ここで意地を張られると、後から面倒だろ」

「ほぉ……」

「あいつ、あぁ見えて、結構頑固だぞ。それに……おめでたい」


拓也は、ものすごくポジティブなところがあるけれど、それが裏に回ったとき、

救いようのないくらい落ち込むのではないかと、そう言った。



16F-③




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