16F ひらめきの形は誰のもの ③

16F-③


芳樹は、彩希のことを細かく分析する拓也を見ながら、

また、口元がムズムズと動き出す。


「広瀬さんが引き抜いた責任ってことですか」

「まぁ、そんなところだな」

「へぇ……そうですか」


芳樹は半分にしたコロッケを口に入れ、しっかりと噛んでいく。

味の感想を言おうとした時、背中側に人影が出来た。


「広瀬さん、こんにちは」

「あぁ……」


そこに立ったのは、エレベーターガールとして勤務をする女性2名で、

手に持っていた小さなメモを拓也の前に置いた。

拓也はそのメモを見る。


「今年初めての飲み会です。参加してくれますよね」


今回は、同じように百貨店で勤務をする人たちばかりを集めたのだと、そう話される。


「百貨店?」

「はい。『KISE』の私たちはもちろんのこと、『東栄』の受付嬢と、
それから『伊丹屋』の企画部に勤める女の子も来るんです」


何か理由をつけて断ろうとしていた拓也の耳に、届いた『伊丹屋』の単語。

頭の中は180度急展開する。


「『伊丹屋』かぁ」

「はい。それぞれ男性陣もということで……実は今回の幹事は、
その『伊丹屋』の彼女なんです。小さなイタリアンレストランを貸しきって……」


いつもよりも規模も大きいし、職場同士の交流会にもなるからと、

メモをさらに押し出してくる。


「ね! 広瀬さん」


首をかわいらしく傾げた女性の決めポーズに対し、

拓也も同じようなことをして、返事をする。

芳樹は、拓也が参加を決めたのだと思い、残ったコロッケを半分口に入れる。


「ん?」


ガリッという音がした後、舌を動かすと、奥歯に詰めた銀歯が取れたことがわかり、

芳樹は『はぁ』とため息をついた。





その日の午後、益子と拓也が、

午前中に出かけた『リリアーナ』の話をメンバーにしながら、

春からの売り場変更について、何か意見はないかと聞いた。


「いいのですか? 『リリアーナ』は納得していないんですよね」

「売り場の決定権はうちにある。逆に『リリアーナ』だけを動かす方が、
ピンポイント過ぎて反感を買う可能性が高い。こうなったら、総合的に判断して、
比較的移動可能な買い取りの商品をどう並べるのか、そこまで考えてもらいたい」


益子は、『チルル』との交渉は、これからスタートさせるけれど、

最悪ダメだった場合も考えて、配置をしてほしいとメンバーに語る。

まつばは、前に座る彩希の顔を見た。

彩希は、二人の話を黙ったまま聞いている。


「今までのように、『洋』と『和』というくくりではダメなの?」


エリカは、慣れている導線があればいいのではないかと、

見取り図を見ながら脚を組みかえる。


「そうですよね」


武は、エリカの意見に賛同し、そのままでいいのではと拓也を見た。

寛太は黙ったまま見取り図を見ていて、まつばは見取り図にペンで丸をつけ、

もう一度彩希の顔を見る。


「今回、目玉と言えるような企画は存在しないだろ、せめて売り場の変化を、
イベント的に扱えたらと……」

「あの!」


まつばが手をあげ、益子が意見を言ってくれと、指示を出した。


「あの……ひとつ考えたことがあって」


まつばが提案したのは、売り場の真ん中をフリーにするというものだった。

今までは、各店舗のブースがまわりにあり、

真ん中には『KISE』が仕入れている商品をまとめ、

店員が管理しやすくしていたが、真ん中を空けることによって、

より小さなまとまりが出来ることになり、

客が動きやすくなるのではないかというものだった。

まつばの言葉に、一度は見取り図をデスクに置いたエリカも武も、

また手に取り見始める。


「センターか」

「……はい」


まつばは、そう言った後、視線を彩希に向けた。

彩希は見取り図を見ながら、何度か頷いていく。


「小島ってことか」


益子も腕を組みながら、見取り図を見る。


「……はい。あの……テーマで色分けしたテーマパークなんかもありますよね」


『色分け』という言葉に、まつばの隣に座っていた寛太が、

『あ……』と小さい声を出す。


「どうした荒木」

「いえ、すみません」


まつばはすぐに寛太を見ると、また彩希の顔を見る。


彩希はまつばの意見に納得しているのか、頷きながら手に持っていたペンで、

小さな丸を書き出した。


「おもしろいかもしれないな」

「そうですね」


益子は、拓也に実際『KISE』に向かい、

そういうことが出来るのか考えてみた方がいいとアドバイスをすると、

そのまま『新原店』に出発した。

会議はとりあえずそこで終了し、それぞれが仕事に戻る。

その日は、特に慌しいこともなく、定時になるとそれぞれが仕事を終えて席を立った。


「それでは、失礼します」


彩希は一足先に『KISE』に戻ることになった。

荷物を持ち、椅子をデスクの中に入れる。

まつばは彩希の表情を何度も確認し、両手を握り締める。


「おい、ちょっと待て」

「はい」

「俺も向こうに行くわ」


拓也は立ち上がり、益子に言われたことが可能かどうか、

店舗の様子を見に行くと席を立った。


「真ん中においてある、売り場の広さはどれくらいだ」

「広さ……ですか?」


彩希は、歩きながら両手を広げて見る。


「もう少しあった気がします」

「お前、そんなにざっくりな計りかたで、成り立つわけないだろう」


拓也は見取り図をしっかり見ろと言いながら、彩希の前を歩く。

彩希は、相変わらずな言い方だと思い、不満そうに口を結ぶ。

そして、広げた両手を拓也の後ろで合わせ、『バシン』と音をさせた。


「ん? なんだ。爆発か?」

「季節外れの蚊です」


彩希は、嫌ですねと言いながら、拓也の前に出る。


「ほぉ……蚊かぁ……歩きながらでも蚊がわかるとは、江畑さん、目がいいね」

「いえいえ、それほどでも……」


彩希は自分の顔から気持ちが悟られないようにと思いながら、

拓也の数歩先を歩き続けた。



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