19F 過去から見た未来 ④

19F-③


拓也の登場に、以前、店を訪れたことを覚えていた『ひふみや』の大谷喜助は、

また商品の注文でしょうかと、ノートを取り出した。

拓也は、もちろん注文もするのですがと言いながら、一度大きく息を吸い込む。


「今日は、お願い事があって、ここに来ました」

「お願い……ですか」

「はい」


拓也は、武が仕上げてきた企画書の草案を取り出し、実はと話を切り出した。

『木瀬電鉄』が開通して60周年を迎えたこと、

それを記念した『秋』のイベントを計画していて、

そこに『夢最中』を出してもらえないだろうかというものだった。

喜助は、店はこの5月いっぱいで閉めるのだと説明したはずですがと、拓也に告げる。


「はい、それは以前お聞きしました。
大谷さんが、自分に無理なく続けてきた、この店の体制もよく理解したつもりです。
しかし、部下の企画書を見たとき、このお店のことが頭に浮かんで。
この企画を成功させるためには、どうしてもと……」


『木瀬電鉄』の路線上にあり、地元ならではのものを味わえる。

その企画がわかったとき、拓也の頭の中は、『ひふみや』でいっぱいになった。


「『木瀬電鉄』の歴史を表現する企画にしたいと思っています。
ぜひ、お力を貸していただけないでしょうか」


拓也は、その場で頭を下げる。


「いやぁ……それは困りますよ、『木瀬百貨店』さん」


喜助は、私にはもう、そんな力はないのだと、拓也の肩を叩く。


「『キセテツ味の旅』。地元にもたくさんいいお店があるという、
この企画のコンセプトというのですか、それはとてもいいものだと思いましたよ。
通り過ぎてしまうような場所にも、新しい発見があるという……ねぇ」

「はい」

「でも……うちは」

「お願いします。どうしても……この『ひふみや』さんに、参加していただきたいのです」

「広瀬さん」


拓也は顔を上げ、困ったという表情の喜助を見る。

予想していた反応のため、焦ることなく、もう一歩前に出た。


「そう言われると思っていましたが、今日はこのまま引く訳にはいきません。
聞いていただきたい話がありまして」

「話し……」

「実は……私には、忘れられない過去があります」

「過去?」

「はい。この私自身が、地元に愛されていた店を、潰してしまったという、
そういう最低な過去です」


拓也は、自分が以前、不動産会社に勤め、開発の土地を探す仕事をしていたこと、

そういった取引のことなど、新人で何もわからないまま、

美味しいことだけを話すように言った先輩の言葉をただ信じ、

結果的に、地元の店を騙してしまったことを語り出す。

『福々』という、具体的な店の名前は出さなかったものの、

拓也の語っている話を、喜助は、もしかしたらという思いで聞き続けた。


「その頃は、大学を出て、ただ給料のいい仕事が出来たらと思っていました。
やりがいなど、もらえるお金でしかはなれないと思っていたので、
その裏で、人生を変えられてしまう人たちのことなど、何も考えていませんでした」


拓也の脳裏に、何度も謝罪する自分に、

出来たてのどら焼きを出してくれた店主の顔が蘇る。


「あの店の味を……地元の人たちは、二度と味わうことが出来ません。
私は、代わりのないものを、自分の都合だけで、勝手に無くしてしまいました。
もちろん、『ひふみや』さんがお店をたたまれるのは、理解できます。
ご自分で引き際を決めることに、誰も文句を言える立場ではないと思います。
でも、だからこそ、こういったお店が地元にあったのだと、
世界的なパティシエなどいなくても、テレビなどのCMでお金を使わなくても、
木瀬電鉄で少し遠出をすれば、味わえる美味しいものがあるのだと、
そう……知ってもらいたいのです」


拓也は、具体的な日程など、まだ何も決まっていないし、

これが企画として通るのかどうかもわからないと、話し続ける。


「ただ、私は、『ひふみや』さんが頷いてくれるのなら、
なんとしても、この企画を実現させてみせます」


拓也は、そのためにもどうか力を貸して欲しいと、そうあらためて頭を下げる。

喜助は、拓也が渡した企画書を持ったまま、困った顔をし続けた。





「ただいま戻りました」

「おぉ、どうだった」

「すみません、少し時間がかかりましたが、やっと印を押させました」

「よし、よくやった」


彩希と拓也は、『city eyes』にいると思っていた冬馬だったが、

実はすでに別の道を歩き出していた。

冬馬は、『SHIMA』という不動産会社に正社員として就職を決め、

先輩からのアドバイスをもらい、今日は新しい契約を取り付けた。

冬馬は、得意げにその書類を取り出すと、上司になる『杉山基広』の前に置く。

杉山は、書類に漏れはないかと確認し、満足げな笑みを浮かべた。


「よし、よくここまで持ってきた」

「杉山部長のおかげです。コツがわかりました」

「そうか」

「はい」


冬馬はそういうと、頭を下げて自分の席に戻った。

そして、今まで、財布の中に忍ばせておいたものをデスクの前に置き、

テープで貼り付ける。 その様子を見ていた杉山が、書類にサインをした後、

冬馬のそばに立った。


「なんだこれ、どこの店だ」

「『木瀬百貨店』ですよ。これは久山坂店です」


冬馬が貼り付けたのは、自分の携帯で撮った『木瀬百貨店 久山坂店』の写真だった。

杉山は、どういう意味だと冬馬に尋ねる。


「見返してやりたいやつが、この店にいるんですよ。だから、ここに貼るんです」


杉山は、いつもより強気な発言をする冬馬をチラリと見た。


「見返したいやつ? ほぉ……なかなか攻撃的だな、河西」

「はい」

「それは同級生とか、そういうことか」


冬馬は『木瀬百貨店』の写真を見つめたまま、首を振る。


「いえ、違います。この店に勤めているエリートの男ですよ……。
人の商売にあれこれ口を出して、甘いだの、ズルイだの、散々言いやがって……」


冬馬は、写真を見ながら、

以前、駅の階段で拓也にきついことを言われたことを思い出していた。

言い返そうと思ったが、拓也の堂々とした態度に、何も言えないまま、

逃げるようにその場を離れた。

彩希の様子を見るため、訪れたときも、先に拓也にみつかってしまい、

慌てて出たこともあった。


「広瀬拓也……絶対に、認めさせてやるからな」


冬馬のつぶやきに、その場を離れようとした杉山の足が止まる。


「広瀬……」


杉山はその名前を聞き、冬馬の方に振り返る。


「広瀬っていうのか、その男」

「はい。広瀬拓也って言います」


杉山はそうなのかと言いながら、怪しい笑みを浮かべた。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【19】石川   柴舟  (煎餅を反らして、生姜汁と砂糖を丹念に塗った和菓子)



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