2 モリタという男

『アン・ラッキーガール』  

2 モリタという男

「あ!」


突然の大きな声に、私は隣にいるモリタさんを見た。私の首の動きに気付いた彼は、

こっちを見て、嬉しそうに指で道路の反対側を示す。


「今から、半額です!」

「は?」


指の先をたどっていくと、向こうのスーパーで営業している『どんぶり家』のおばさんが、

何やら手に持ったまま外へ出てきて、雨の様子をうかがった。

通りすがりの人に軽く声をかけた後、確かに、並べてある弁当にせっせと何かを貼り始める。

私も何度か訪れたことのある店だが、半額を見つけたことは一度もない。



「食べたことありますか? 焼き鳥丼」

「いえ、ないです」

「いつもなら、もっと遅い時間に半額になるのにな。雨が降ったからか、
売り上げが悪かったのか、それにしても僕にとっては喜ばしいことです。
あ、もし、チャレンジするなら、走りますよ」

「は……?」


モリタさんは、少し明るくなってきた空を見上げ、嬉しそうに微笑んだ。


「いやぁ……ラッキーだ。雨が降ってくれなかったら、僕、
そのままメガネ屋に行こうと思っていたんです。でも、降ってくれたおかげで、
焼き鳥丼を半額で買えるかも知れない」

「ラッキーですか? そんなことって」

「……ですよ。違います?」


なんでそんなふうに、当たり前だと言いたげな顔で私を見るのだろう。

こんな雨に降られて、さっきだって、大事な仕事を失敗したような、そんな電話内容だったのに、

たかが、焼き鳥丼が半額になるだけで、それだけ気持ちを切り替えられるものですか?


「そうか……興味のない人には、関係ないのか。僕、地方から研修に来てるんです。
まだ、東京に住んで10日もしないから、あまり店とか知らなくて、
会社の帰りにたまたま買ったのが、あのどんぶりでした」

「……」

「うまかったんですよ」


そう言われてみたら、私にもそんな時期があった。

身よりもいない東京で、就職先と家の往復の中、楽しみだったのは、

あたたかいものをゆっくりと食べることが出来る夕食。


「クスッ……」


部屋の中で不安と期待に慌ただしかった頃を、ちょっとだけ思い出す。


「あ! まずい、人が集まりだした」

「エ……」


もう少し待てば、確かに雨はやむところだった。でも、モリタさんは我慢できなかったのか、

お店の前に人が集まり始めたのを見て、隣から飛び出していく。

私は呆気にとられたまま、彼の後ろ姿を見守った。

赤や青の傘の中に、カバンを手にしたモリタさんが吸い込まれる。


別に焼き鳥が特別に好きなわけではないが、あれだけ言うのなら、私も買ってもらえばよかった。

何かを判断するとき、私はいつも考えてしまう。買い物も、もう少し見てからと思って、

売り場に戻ると、だいたい買われてしまうのだ。


そんなふうに思った時、ビニール袋を下げたモリタさんが、こっちへ戻ってくるのが見えた。

彼の迫力に負けたのか、すっかり雨はあがり、少しだけ残っていた夕焼けが私達を照らす。


「ラッキーでした。残り3つのうちの2つです」

「……よかったですね」


モリタさんはビニール袋の中身を一度確認すると、私の前に差し出した。


「どうですか? 一つ、味、見てみます?」

「エ……」


そのいきなりの提案に驚きながらも、私は財布を取り出しすぐに小銭を探した。

しかし100円玉は3つしかなく、10円玉は1枚もない。

それではと夏目漱石を捜すと、今日に限って、福沢諭吉が一人横たわる。


「ごめんなさい……300円しかなくて、お札も1万円しか……」

「いいですよ、300円で」

「いえ、でも、それじゃモリタさんが損をします」


私のその言葉に、モリタさんは不思議そうな目を向けた。

もしかしたら洋服のボタンでも取れているのではないかと、私は慌てて目を下に送る。


「どうして僕の名前を知ってるんですか?」

「エ……」


私は、聞くつもりがなかったが、電話の会話が耳に入ったことを正直に話した。

自分の苗字も森田だったので、その部分が印象に残ったことも、付け足していく。


「モリタ……って、どんなモリタですか?」

「どんな……って?」

「あぁ、僕は大盛りの盛田なんです。ご飯大盛り! の……」

「あ……」


そのわかりやすい表現に、私は笑顔のまま頷いた。言葉にすれば一緒でも、

漢字にすれば別のモリタは確かにたくさんある。


「私は木が3本の森田です」

「あぁ、はい」


盛田さんは森田を理解したと頷き、私に袋を差し出した。


「どうぞ……」

「でも……」

「いいんですよ、損なんてしてませんから。普通に買ったら700円ですからね。
それを半額で買ったんです。300円もらうだけでも大丈夫ですから」


これ以上突っぱねるのも悪いのではと、手を動かした時、

私はあるものがバッグに入っていることを思い出す。


「盛田さん、ミントガム食べますか? これ、会社の近くで新商品を配っていたんです。
もしよかったら50円の代わりに、もらってくれません?」

「……」


バカにしていると思われただろうか、名前の話がうまく盛りあがってしまったので、

私は調子に乗って、50円の代わりを差し出してしまったが、ずうずうしいと言われたら、

言い返せない。


「ありがとうございます」


盛田さんは、丁寧に頭を下げた後、私の手からガムを受け取り、

そこにビニール袋をかけてくれた。





道路に残る水たまりを避けながら、アパートへと向かう。右手に持つビニール袋から、

甘い焼き鳥の匂いが、少しずつ私の速度をあげてくれた。


「いただきます!」


その日の夕食は、簡単なサラダと『焼き鳥丼』だった。

甘いタレが絶妙な味で、確かに他の店とは少しだけ違う。

急な大雨が降ったおかげで、嫌な思いもしたが、

この味は私の気持ちを少しだけ明るく変えてくれた。



それにしても……





次の日、駅の改札を通り、階段を上っていくと、

少し先に、デジタルオーディオを聴きながら、軽くリズムをとっているモリタさんを見つけた。



『わかりました、じゃぁ、もう一度頑張ります。はい……』



昨日、頭を下げていた出来事は、ちゃんと解決するのだろうか。

彼の後ろ姿を見ながら、私はふとそんなことを思った。





みなさんの考える道先へとつづく………






【第2回 アンケート結果発表】

Q2 さて、モリタさん、『あ!』と叫んだのは、なぜでしょう。(投票数80票)


  大事な忘れ物をしたことを思い出した  ……31票

  目の前に何かを発見した  ……49票

となりました。ありがとうございました。






【第3回 アンケート】

Q3 この後、二人にあることが起きます。どちらだと思いますか……


  美緒のピンチを盛田が救う

  盛田のピンチを美緒が救う


投票期間は10日です。
みなさんの1票がなければ成り立たないお話です。
ぜひぜひ、ご参加下さい。ご意見、アイデアもコメントでお待ちしています。
(私にしか見られないので、大丈夫ですよ!)





みなさんで、一緒に作ってみましょう!

ランキング参加中です。よかったら1ポチ……ご協力ください。

コメント

非公開コメント

おぉお!

好調!好調!
投票結果が二連続で選んだほうに!
でも、選んだのにもかかわらず見つけたのがどんぶか!!という驚きの展開にびっくりでした。
さてさて、第三弾のアンケートも書いちゃいます~!
楽しみにしております!

予想が付かない展開

良い人丸出しなモリタさん。失敗してもめげずに頑張る人なんだろうな。

何事もアンラッキーと思ってしまう自分とは何処が違うのか?

彼を探してしまう美緒の視線が恋する乙女になりつつある?

おめでとう!

ヒカルさん、こんばんは!


>好調!好調!
 投票結果が二連続で選んだほうに!
 でも、選んだのにもかかわらず見つけたのがどんぶか!!という
 驚きの展開にびっくりでした。

ん? ヒカルさんが2度、多数派に?
『焼き鳥丼』って驚きなの? 私はごく普通に進めているつもりだけど(笑)
まぁ、いいや。多方面でお楽しみ下さい。

盛田くん

yonyonさん、こんばんは!


>良い人丸出しなモリタさん。
 失敗してもめげずに頑張る人なんだろうな。

だと思います。
少しずつ彼の置かれている状況も、見えてくると思うのですが、
なんせ、みなさんがどう判断を下すかで、方向が変わるので、
なんとも言い切れず(笑)

美緒の気持ちが、どこで『パン!』と弾けるのかは、もう少し進んでから……

予想外?

yokanさん、こんばんは


>オモモ、そうきたか・・・全く予想しなかった展開です(@@)

エ! 本当? おかしいな、『焼き鳥丼』は、完全にセオリー通りだと思ってました(笑)


>次回のアンケート、どっちを選べばストーリーが面白くなるか・・・思案です、難しい(ーー;)

ありがとう! どっちを選んでくれてもいいですよ。
こんなエピソードはどう? っていう、提案もお待ちしてます。
コメント欄を使って、よかったら……

人生、ポジティブに

mamanさん、こんばんは!


>盛田さんて面白いって言うか、ポジティブ思考でいいですね。

ありがとうございます。美緒との違いを出したかったので、
ちょっとお気楽な男性になってますけどね(笑)


>しかし、モリタさんが漢字で出るまで
 “タモリさん”と読んでました。

あはは……本当に?
でも、カタカナだとそういう間違い、あったかもしれないです。


>過去二回の投票は、私の投票とは逆のほうが多数のようです。

あらあら……、でも、ぜひぜひ、めげずに投票をお願いします。
きっと、mamanさんと同じ意見の時も、あるはずですよ。

wモリタさん

ももんたさん、こんばんは。

ふふふっ、私達のリクエスト聞いてくれて、それで物語が出来上がる。^^

>何かを発見した
のが「半額になった焼き鳥丼」っていうのが庶民的でいいですね。

盛田さんと森田さん。
このWモリタさんたちがこれからどんな風に近づいていくのかたのしみです。

この盛田さんとっても楽しそうだもの

またまた、投票させていただきます。
どちらにお話がすすむやら・・・^^

今から半額!

【ジョイント・ストーリー】
第二話 ありがとう~

私も何か素敵なことを発見したのかな?
って思ったんだけど
焼き鳥丼だとは思いませんでした@@

でも、半額、赤札、一掃処分・・・なんて言葉を見ると
思わず元気が出ちゃう(闘志がわく!?)
一般ピーポーの私と盛田君が同じ感覚の持ち主のようで
何だか嬉しい^^

ちょっぴり明るい気持ちにしてくれた甘い焼き鳥丼
と一緒に、美緒ちゃんの中に盛田さんっていう人も
しっかりインプットできたみたいね!

さあ、次はどっちにしようかな?
どう進むか読めない展開!楽しみにしています^^v





ちっちゃな幸せを

tyatyaさん、こんばんは!


>何かを発見したのが「半額になった焼き鳥丼」って
 いうのが庶民的でいいですね。

あはは……そうでしょ。
本当に、何も考えずに、結果が出てから頭に浮かんだことで
書きつないでいるんです。
なので、庶民的なアイデアしか全く浮かばないの。
でも、『小さな幸せ』ってそんなものじゃないかな……


>盛田さんと森田さん。
 このWモリタさんたちがこれからどんな風に
 近づいていくのかたのしみです。

はい! 私もみなさんがどう導いてくれるのか
とっても楽しみです(で、ハラハラです・笑)

庶民派代表

バウワウさん、こんばんは!


>私も何か素敵なことを発見したのかな? って思ったんだけど
 焼き鳥丼だとは思いませんでした@@

『焼き鳥丼』。そんな身近なものだからこそ、
ちょっとした会話になりやすいのではないかと……
庶民派代表の私(勝手に)は、頭をひねりました。


>さあ、次はどっちにしようかな?
 どう進むか読めない展開!楽しみにしています^^v

はい、私も楽しみにしています。
最後まで到着するように、祈っててね(笑)