20F 素敵な明日が来るように ④

20F-④


彩希は、佐保には何も気にしていないようなことを言ったが、

車内に映る自分の姿を見ながら、別の意味で心配になった。

自分一人で会に参加するのなら、どうせこれから会うわけでもない人たちに

不思議がられてもいいが、一緒に行動する予定の拓也が、迷惑ではないかと考え始める。

本来なら、横に並ぶのはエリカだったはずで、

自分を選んでもらい嬉しいという反面、こんな状態で来ることになり、

出過ぎたのではないかと今更心配になる。

彩希はあらためて右肩にバッグをかけると、左手でつり革をつかんだ。

彩希の迷いを乗せた電車は、いつもの時間通り、駅の到着と出発を繰り返した。





「おはようございます」

「おはよう、江畑さん」


いつもの時間に顔を出した彩希の挨拶に返事をくれたのは、寛太だった。

まつばと武は、『秋』企画の候補になりそうな店を探すため、

朝から出かけているようで、エリカも席にはいない。


「荒木さん、今日はみなさん、外ですか」

「はい。色々と……」


彩希の目は、自然と拓也の席に向かう。

拓也はまだ、通勤していないように見えた。


「あ、そうか、今日でしたね」


寛太は、彩希の雰囲気が違うことに気づき、『そうでしたね』と笑顔になる。


「はい、いっぱい食べて、いっぱい報告しますから」

「楽しみです」


その寛太も、書類を持ち、『第2ライン』の方へ向かってしまう。

彩希はリュックではないバッグをデスクの横に置くと、

まずは届いた郵便物を分け始めた。



その頃、拓也は駅のホームに降り、エスカレーターに乗るところだった。

いつもなら自分の横に立つ芳樹がいなかったため、

また歯の検診日にでもなったかと思いながら前を見る。



『木瀬電鉄 北住 福々』



こんな風に文字を並べ、ネットであらためて検索すると、

『職人技の光る店』という言葉と、移転先のこと、

そして数年で閉店してしまったことなどが、色々わかった。

申し訳ないと頭を下げ続けた自分に、どら焼きを勧めてくれたのは彩希の祖父で、

その後、移転先では彩希の父、『江畑晶』が代表者となる新店舗を出したが、

数年で店はたたまれてしまう。

画像の検索をすると、そういえばと思えるようなどら焼きの写真がアップされていて、

おいしかったものと一般人がブログに載せた記事が見つかった。



『楽しみにしています』



事実を知ってしまった拓也には、もやもやしたものが心に広がっているが、

何も知らない彩希は、今日という日を、楽しみにしているはずだと、

気持ちを切り替える。

拓也は一度大きく息を吐き、『今日だけは』と心に決めた。





外に出かけていた武とまつばが戻り、昼前には調べてきた状況を拓也に報告した。

企画を理解し、ぜひと喜ぶも店もあるし、そういうことにはと消極的になる店もあった。

まつばは先に席に戻り、自分の前にある彩希のバッグを見る。


「バタちゃん」

「ん?」

「今日だよね『ライナス』」

「うん」


まつばは、彩希の『平凡』とも言える姿を見る。


「もっと、おしゃれして来ちゃえばよかったのに」


と、声をかけた。


「仕事だからって考え、バタちゃんらしいけど……真面目過ぎない?」


まつばはそういうと、彩希を見る。

拓也は武から報告の用紙を受け取り、もう一度しっかり読んだあと、

益子と返事をすると答えを戻した。武はお願いしますと頭を下げ、席に着く。


「私、よく考えてみたら持っていないんだよね、この程度しか」


彩希は、そんな場所に出かけたことがなかったからと、照れ笑いを浮かべる。


「なんだ……言ってくれたら、バッグくらい貸したのに」


まつばの言葉に、彩希は、『そっか、そうだったね』と笑い返し、また仕事をし始める。

拓也は席を立ち、そのままタバコを確認すると、

『第3ライン』の部屋から出て行ってしまう。

彩希は、拓也は今、自分の姿をどう見ているだろうかと思いながら、

用紙を丁寧に折り続けた。





午後3時過ぎ、彩希が書類の整理を終えると、拓也が声をかけた。

中身が見えないようになっているメモを渡される。


「『KISE』に行ってきてくれないか」

「売り場ですか」

「あぁ……」


拓也は、売り場は売り場でも、彩希が普段立っている食料品ではないと告げる。


「どこですか」

「装飾品売り場だ」


拓也は行けばわかるからと言うだけで、その場を離れてしまう。

彩希は、あまり頼まれたことのない用事だと思いながらも、

『わかりました』と指示に従うことにする。

地下通路を抜け、そのまま1階にある売り場に向かうと、

メモに名前の書かれている店員を探す。


「はい……」

「あ……すみません、広瀬からこれを渡すように言われまして」


彩希が封筒を渡すと、店員はそれを確認し、お待ちくださいと奥に入る。

そして、以前、彩希が売り場で見ていたバッグが、目の前に現れた。


「どうぞ」

「……どうぞって……」

「広瀬さんから、江畑さんが来たら渡すようにと言われていますから」


売り場の女性は、支払いはすでに終わっているのでといい、頭を下げる。

バッグの入った袋を渡された彩希は、『待ってください』と声を出し、店員を止めた。


「あの……これ」

「はい」

「お支払いは終わっているというのは……」

「広瀬さんがすでに。何か江畑さんから言われたら、『約束』だと……」

「約束?」

「はい。この間、一人で売り場にいらして、このバッグを見て。
で、今朝、こちらに」


彩希は、拓也がこのバッグを、今日買ったのだと教えてもらう。


「今日ですか」

「はい」


店員は、別の客から声をかけられたため、彩希の前から動いてしまう。

彩希は状況が飲み込めなかったため、とりあえず売り場を離れると、

そのまま食料品売り場に向かった。



【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【20】長野   雷鳥の里  (欧風せんべいにクリームを挟んだ菓子)



21F-①




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