21F 秘密兵器の大事な日 ①

21 秘密兵器の大事な日

21F-①


「あら、バタちゃん、どうしたの今日はそんな姿で」

「こんにちは」


彩希のスーツ姿にすぐ反応したのは、食料品売り場にいた高橋だった。

どこかに行くのか、何をするのかと、横に張り付き興味を示す。

彩希は『仕事ですから』と一言返すと、内線電話をかけるため受話器を上げた。

番号を押すと、寛太が返事をする。


「あの……江畑です。そこに広瀬さんはいますか」

『えっと……あ、ちょっと待ってください。かわります』


受話器が保留となり、それから少しして『はい』と拓也の声がした。

彩希は『どういうことですか』とすぐに言葉を出していく。


「広瀬さん、バッグが私との約束って……どういうことですか」

『疑問はあとから解決させる』

「解決って……」


彩希の問いかけに、拓也は益子部長が戻ってきたから、すぐに帰ってこいといい、

会話を終えてしまった。


「すぐに戻れって言われても……」


彩希は再び電話をかけようとするが、

言われたとおりにするしかないような気がして、そのまままた地下通路に向かった。



普段とは違う彩希の後ろ姿を見ながら、高橋はそばにいた竹下に声をかける。


「ねぇ、バタちゃん、スーツだったわよ。どうしたのかしら」

「いつもそういう姿じゃなかったかしら」

「ないわよ、売り場にいるときには……。本部にいるからかしら。
今、ほら、あの広瀬って人に電話をかけていて。すぐに戻ってこいって言われて、
バタバタしていたわよ」

「すぐに戻れって?」

「そう……どういう関係かしらね、あの二人」

「ねぇ……」


二人は顔を見合わせながら、まだ勤務が終わるまで時間があるわねと、

両肩を上下し始めた。





彩希が席に戻ると、益子の話がすでに始まっていた。

武が提案した『キセテツ味の旅』について、まずは上層部に提案したことが明らかになる。

彩希は静かに中に入ると、自分の席に着く。

まつばは彩希が持ってきた袋の中に、かわいらしいバッグがあることに気づき、

今いなかったのはそういうことかと頷いていく。


「とにかく、このまま具体案を出していこう。
今回の感触だと、おそらくいい方向に動くはずだ」


益子の言葉に、ラインのメンバーは『はい』と声を出し、それぞれの仕事が再開された。



「バタちゃん……」

「何?」


まつばは彩希の袋を指さし、ニコッと笑う。


「そういうことだったのね、今、買ってきた……と」

「エ?」


彩希はデスクの横に置いた袋を見たまつばが、勘違いしていると思い、

『いや、これは……』と成り行きを話そうとしたが、やめることにした。

拓也から、細かい事情をまだ聞いていないのに、語ってしまうと、

さらに誤解を生むのではと心配になる。


「少し、席を外すからな」


益子と一緒に拓也が立ち上がったため、彩希は語る時間のないまま、

その姿を見送ってしまうことになった。





拓也が益子と部屋を出てから、時計の針はどんどん進み、夕方の5時が近づく頃、

隣に座っていたエリカが、彩希の方を向いた。

彩希は、何か用事があるのかと思い、横を向く。


「やっぱり、ちょっとさみしいわね」


エリカはそういうと、自分の机の引き出しを開け、

パールのついたネックレスを取り出した。

これくらいつけてもいいわよと言いながら、デスクの上に置く。


「江畑さん、今日はせっかくフルコースの食事会でしょう。
仕事は仕事だけれど、これくらい……」


彩希の後ろに手を動かし、エリカはネックレスをつけた。

まつばは『かわいい』と声を出す。


「あ……あの、横山さんこれ」

「いつもおいてあるのよ」


エリカの行動に、まつばもその方がいいよと後押しする。

彩希は、女性2人の声に、どうしたらいいのかわからなくなる。


「バタちゃんだって、少しは前向きでしょう。横山さん、見てください、これ」

「いや、あの……まつばさん」


彩希の横にある袋から、まつばはバッグを取り出してしまう。


「あら……」

「かわいいですよね」


まつばはバタちゃんが少し前に『KISE』で買ってきましたと、

勘違いしたまま話してしまう。


「いや、あのね……」

「となると、もう少しアクセントつけてもいいよね」

「いいです、いいです」


ラインの代表で出かける彩希だからと言いながら、

エリカとまつばは二人で協力し、今度はメイクにあれこれ言い始めた。





「伊丹屋とですか」

「あぁ……少し噂になっていると、佐々木部長が気にしていてね」


ラインを抜けた益子と拓也は、『リリアーナ』の不穏な動きを察知した

『第1ライン』の佐々木部長から、

どういう関係になっているのかと問われたことを話していた。

『チルル』の復活、売り場の改革、話はしているものの、納得できていないという状況は、

また少しずつ亀裂を大きくしている気がしてしまう。


「あらためて、話し合いに参加して欲しい」

「はい……」


拓也はわかりましたと言うと、益子に頭を下げる。


「どうした」

「いえ、私が強引に進めていることのツケが回っている気がして」


拓也の表情を確認し、益子は軽く肩を叩く。


「今までにないことをやりたいから、私は君をここへ引き抜いた。
予定通りにしか動かない仕事など、つまらないだろう」


益子は、今日はしっかり『ライナス』を見てきてくれと言い、

拓也も『わかりました』と返事をした。





拓也が『第3ライン』に戻ると、女性3人が残り、話の最中だった。

拓也に先に気づいたのはエリカで、そろそろ行くのでしょうと声をかける。


「あぁ……」


ふと見た彩希の表情は、いつもよりも華やいでいるように見えた。

エリカは、拓也の少し驚くような顔に気づく。


「広瀬チーフ。今日はうちの秘密兵器を投入しますからね、
しっかりとエスコートしてくださいよ」

「秘密兵器……横山さん、うまいです」


一緒にいたまつばも、その発言を盛り上げる。


「あ……うん」


拓也の戸惑うような声に、彩希は自分の顔がどうなっているのか心配になり、

化粧室へ行くと言い立ち上がった。

少し速まる鼓動を押さえながら鏡を見ると、いつもと少しだけ違う自分が見える。

使ったことのないマスカラや、チークによって、仕事モードから完全に抜け出していた。

ルージュの色も、自分ではかわいらしいと思えたものの、

一緒に行く拓也がどう思うだろうかと、心配になる。

それでも、この場に残っているわけにはいかず、部屋に戻ると、

残っていたのは、拓也だけだった。



21F-②




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント