26F 願いを築く人 ①

26 願いを築く人

26F-①


『木瀬百貨店』が出来てから数年後、『リリアーナ』が誕生し、

ほぼ、同時に成長を続けてきた。今までは、新商品が出れば『KISE』が一番最初に扱い、

『限定商品』なども、メインでさばく事を、約束されていた。

しかし、『リリアーナ』は、これから先、『KISE』とは他店舗と同様の契約内容とし、

特例は作らないと言ってくる。


「どこかに乗り換えたという事でしょうか」

「さぁ、どうだろう。うちの出方を見ていると思うが」

「出方……」

「ようは、昔のように、『リリアーナ』の意見を聞き、
売り場に対する存在感を持たせろということだろう」


益子は、これを上に見せたら、

間違いなく『リリアーナ』を立てろと言ってくるはずだと、腕を組む。


「広瀬、お前はどう思う」


拓也は、今でも十分気をつかっているのではと、益子に言った。


「確かに。でも、相手はそう思わない。『チルル』のことも、
今回の秋イベントの趣旨も、自分たちからすると、中心部分から外れていると、
そう思っているだろうから」


益子は、拓也の肩をポンと叩く。


「俺がなんとか考える。お前は、今までどおりメンバーをまとめてくれ」

「部長」

「やりたいことをやれと指示したのは俺だ。責任は俺が取る」


益子はそういうと、FAXを持ち、会議室を出て行く。

拓也は、しばらくおとなしかったのはこういうことかと、以前、面接をした、

担当者の顔を思い浮かべた。





『伊丹屋』企画部。

純は春から売り出した商品のデータを見た後、新聞を横に置いた。

『伊丹屋』では、四季それぞれのイベントが開催されているが、

担当は純だけではないので、夏のイベントにはどこか引き気味に関わっている。

企画部の扉が開き、担当者が出たり入ったりを繰り返す。

その中で一人、純のところに近付く男がいた。


「わかりましたか」

「すみません、最終的に、全てはまだですが。
色々とご報告はしておいたほうがいいことが、ありまして」

「うん」


純は壁の時計を見た後、外に出ましょうと、その男性社員を連れて企画部を出た。



『伊丹屋』の一番下には、ビルが建つ前からこの場所にあり、

営業を続ける喫茶店が存在した。

重たい扉とどこかレトロ感が漂う造りは、外の世界と一線を引いている。

一般客ももちろん利用できるが、むしろ『伊丹屋』の社員が数名集まり、

その独特な雰囲気の中で、戦略会議のようなものをよく行っていた。

純と男が席に座ると、すぐにウエイトレスが姿を見せる。

指で2つと示すと、『かしこまりました』とその場を離れた。


「まず、わかったことを教えてくれませんか」


純はそういうと、テーブルの上に手帳を置いた。

男性社員は、テーブルの上にメモとハンカチを置く。


「はい。『和茶美』なのですが。栗原さんが見かけたと言われた通り、
あの店には、色々な経歴を持った職人が働いています。
オーナーの菅山も、『雫庵』で職人経験を持っていますが、
それほど熱中していたわけではなく、親戚筋になった途端、経営をしたいと……」

「親戚……」

「はい。『雫庵』の現社長、岩原学の後妻……それが菅山の姉だそうです。
会長の太一郎氏は、息子である学のやり方に不満を持ち、
色々とぶつかることもあったそうですが、そこに菅山が入り、
経営面で色々と手伝いをし始めたと……」


純は、とりあえず披露された『和茶美』の話を、聞き続ける。


「社長に取ってみたら、味方は一人でも多い方がいいということだったのでしょう。
『和茶美』という構想に、相当資金を援助したと聞きます」

「資金援助……。となると、『和茶美』と『雫庵』には、深いつながりがあると……」

「はい」


男性社員は、何やら記したメモを1枚めくる。


「そして……栗原さんが気にされていた『和菓子職人』ですが」

「うん」

「名前と経歴、それぞれが色々わかりました。
しかし、一人、正体がハッキリしない人物がいます。
『山田数行』という男です。『雫庵』で修行した腕のある職人だということですが、
とにかくコンクールなどの出場も、経験がありません」


男性社員は汗をかいたのか、ハンカチをおでこや首に当てる。


「『山田数行』……。『雫庵』で修行をしてきた職人なら、技はしっかりしているだろう。
職人を前に出したくないと言っても、あんなふうに囲いを作ったり、
扉で区切る必要があるのだろうか」


純は、契約に向かった日の、どこか違和感がある『和茶美』のことを思い出す。


「他には……」

「申し訳ありません、今わかったのはそれだけです。結局、何名関わっているのかは」


『和茶美』のどら焼きが評判だと聞き、

純は、店以外では一切買うことの出来ない商品を、

秋のイベントの目玉に出来ると考えた。

『和茶美』の経営面に口を出すつもりはないが、

閉ざされた場所に、何かもっと深い理由がある気がしてしまう。


「それとですね。これは『和茶美』とは違いまして、『雫庵』のことなのですが」


男性社員は、調べている中で、『雫庵』の会長、太一郎が、

学の娘に、職人との結婚を勧めている話を知ったと言い始める。


「結婚……」

「はい。娘というのは前妻との子供になります。となると、社長と会長のいざこざは、
思っているよりも深いのかと……」


男性社員は、その話を聞いた純が、あまり興味がなさそうに見え、

『どうでもいい話ですみません』と、慌てて頭を下げる。


「まぁ、いい。とにかくもう少し……」

「はい、もう少し時間をかければ、必ず」


そのタイミングで、純たちの前に『ブレンド』が2つ運ばれる。


「しかし、栗原さん。『和茶美』との関係は商品が入りさえすれば問題ないですよね。
どうして職人のことまで、知ろうとするのですか」


男性社員はカップをつかむと、コーヒーを飲む。

質問は当然だと思いながら、純は顔をあげた。


「うちは『伊丹屋』だ。そこらへんの店とは違う。
『伊丹屋』に商品を置くこと、そこに認められたという事実は、
東京という場所でなくても、十分ブランドになる。となると、逆に、
うちは出しているもの全てに、責任を取る覚悟がなければならない」


純は、そう言いながら、『ひふみや』へ行った日のことを考えていた。

自分はもう、店をたたむからと、頑なに断りを入れた職人の喜助が、

『KISE』の交渉には応じ、ライバルのメインイベントとなってしまった。


「他のどの百貨店よりも、半歩、1歩先に出ること、それが『伊丹屋』の使命だ。
だからといって、リスクも負うというのはまた違うと思う」


強いコメントを出した純の脳裏に、エリカの話がよみがえっていた。

『和茶美』の話を知った彩希は、

『餡』が似ている店として『ひふみや』をあげたと聞いた。



『ひふみや』と『和茶美』



ほとんど世の中に知られていない店同士が、同じような味を出すのだとしたら、

過去に、何か縁があったとしてもおかしくはない。

この二つをつなげる何かがどこにあるのかと、純は、ブレンドを飲みながら考えた。





「バタちゃん、これ見てよ」


その日の夕方、売り場にいた高橋が持ってきたのは、

誰かが床の上に落とし、割れてしまったと思われる『チルル』の焼き菓子だった。


「もったいないわね」

「あらまぁ……」


一緒にいた竹下も、落としても拾わない客がいるのよと、ため息をつく。

彩希は竹下から焼き菓子を受け取り、自分が持っていたハンカチでパッケージを拭く。


「私、これ買います」

「エ……買うの? バタちゃん」

「はい」


彩希は、崩れてしまっても、無駄にするのはかわいそうだと、レジへ進む。

彩希はそれを買い取ると、そのまま仕事を終えた。

ロッカールームで着替えをすませ、同僚に挨拶をすると通用口から外へ出る。

コーヒーショップの前を通り過ぎ、改札をくぐると、

家とは反対の方向に足を向けた。


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