2 亮介の苦悩

2 亮介の苦悩

その日、亮介が家へ戻ったのは9時を過ぎた頃だった。

咲は車の音を聞き、すぐに食事を温め直す。だいたい今頃2階に到着し、あと2回呼吸をすれば、

玄関に到着するという、いつの間にかの感覚が、生活の中で咲にはしっかり身についた。


「ただいま……」

「お帰りなさい」


亮介はすぐにネクタイをゆるめ、奥の部屋へ入った。

咲は味噌汁の火を止め、亮介の後ろを付いていく。


「ねぇ、今日利香から連絡があったの。来月有給取って遊びに来たいんだって。
いい? 亮介さん」

「もちろんいいけど。宮本も一人旅をしているようじゃ、まだ秋山との結婚決まらないのか」

「そうみたい。ねぇ、急かしてよ! 利香、私と同じ歳なのよ。
子供を産むこと考えても、そろそろ……」

「それぞれ事情があるんだろ、そんなこと俺から言うことじゃないよ」


咲には今の亮介の言葉が、どこか冷たく聞こえ、

利香とのくだらない話の内容を、語ろうとした唇が力なく閉じる。

上着をハンガーにかけながら、さりげなく鼻を襟元へ近づけた。

あり得ないことだと思いながらも、亮介に抱いた小さな疑念を晴らそうとする。


「咲……」

「は……エ……何?」

「汗臭い?」

「エ……」


咲はすぐに首を振り、上着をハンガーにかけると、今日はお肉が特売日だったのだと、

関係ない話題を振った。亮介はワイシャツを脱がずに、ボタンを2つ外すと、咲の方を向く。


「いいよ、あとは自分でやるから。食事の支度、しておいて」

「……うん」


咲はそう言われて奥の部屋を出たが、なぜか亮介が自分を避けた気がして、

また利香の言葉を思い出した。



『女性も男性も気持ちがゆるんで、浮気をする男が増えるんだって』



頭に浮かんだ空想を振り払うと、すぐに茶碗を取り出し、ご飯を盛った。





咲がリビングへ戻ったのを確認し、亮介はゆっくりとワイシャツを脱ぎ、右手を左肩にあてる。

軽く力を入れると、まだ激痛が走り、手を離すとそばに用意されていたシャツを羽織った。


「なぁ、咲。来月、添乗が増えるから、ちょっと迷惑かけるかもしれない」

「添乗? うん……それはいいけど。なんだか添乗の仕事は久しぶりね。
うちの会社は支店長クラスでも、順番に添乗をすることを決めているけど、
でも、亮介さん、仙台に来てからは、ほとんどなかったじゃない」

「あぁ、でも、そうも言ってられないんだ。状況が厳しいし」

「……そんなに?」

「少し、人を削ってくれって言われてる。来月東北4店の会議なんだけど、
そこで候補になりそうな人をあげることになるんだ」

「候補って……リストラってこと?」


咲はお茶を入れ、亮介の前に置く。亮介はすぐに湯飲みを持つと、お茶の色をじっと見た。


「ハッキリ言ってしまえばそういうことになるな。営業成績とか、勤務態度とか、
塚田支店長は情がない。簡単に名前をあげてきた」

「誰?」


咲は自分の湯飲みにお茶を入れ、席へ戻ると心配そうに亮介を見る。


「営業部では、法人担当の軽部さんと太田だ」

「軽部さんって……離婚してお子さんを抱えているっていう……」

「うん、保育園に預けて働いてくれているんだけど、下の息子さんがぜんそく持ちで、
ここのところ早退や遅刻が増えたんだ。企業との打ち合わせに遅れたこともあったり、
塚田支店長は条件が厳しくなる中、甘えた勤務態度は困るの一点張りで、
彼女の家庭環境を話してみたけれど、それは理由にならないと跳ね返された。
それに太田……。あいつは里塚と同期なんだよ。あいつはあと2、3年で
どこかの主任になるだろうけど、太田は……営業成績も、ほとんど下からだ。
人は悪くないんだけど、押しが弱くて」

「そう……」


咲と結婚した亮介は、独身時代に仙台支店の部長になった。仕事が忙しくて、

帰りが遅くなることなど何度もあったが、こんなふうに愚痴をこぼすことは珍しかった。


「あぁ、もういいよ、こんな話題ばっかりじゃ、気分が重くなる。ごめん……」

「ううん……こうして何でも話して欲しい。役には立たないけれど、
私だって同じ業界にいたんだもの、あなたの苦労もわかるし、辛い気持ちも理解できる」


亮介はそんな咲の優しい一言に、顔をあげると、その通りだと軽く頷いた。


「今日さ、『華の家』の女将に聞いてみたんだ。太田がもし、うちを退社になった時、
就職させてもらうことは可能かどうか」

「……『華の家』に?」

「あいつ、決して仕事が遅いわけじゃない。むしろ丁寧でミスも少ない。ただ、押しが弱い分、
成績があがらないんだよ。競うような職業より、じっくりと客と向かい合う、
そんなサービス業に着くのもいいんじゃないかと思って」

「……」

「塚田さんは、そんな太田のいいところには、全く目を向けようとしない。
あの人にとっては、社員なんて一つのコマだ」


亮介は仙台支店の、支店長になった塚田のことを、そうボソッと口にする。


「あの人の下で、俺、仕事を続けていけるのかな……って、時々思うことがあるよ」


いつも強気で、決して諦めたりしない亮介の一言に、

咲は自分の湯飲みを持った、手の動きを止めた。



                                 深見家、新メンバー加入まで……あと95日





3 あの時の上司 へ……




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コメント

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クンクン

リミットの数字が減って無い、と思ったらまだその日の夜だったのね・・・

背広の臭い嗅いじゃうなんて、やっぱり気になるよね。

咲ちゃん、太田君より、軽部さんのこともっと突っ込んで聞いたほうがいいよ!

部下思いの愛妻家・・・

亮介は、上司と部下の間で本当に苦悩しているみたいね…vv
ほんとに部下思いのいい部長さん!

だけど…左肩の激痛も仕事絡みなのかな・・・?
自分でクリーニングに出したという背広も、そのせい?

7か月のお腹を抱えた愛妻に、心配かけまいとしてる亮介…。
でも、裏目に出ないといいけど…^^;
妻は、なんでも話してほしいものなのよね~~!ねっ、咲ちゃん。

心配…

軽く力を入れると、まだ激痛が走り…って
亮介どうしちゃったの~~~;・ロ・)!!
それに咲ちゃんの不安も…
亮介の仕事も穏やかでは無いようで
いろいろな心配が重なってしまったわぁε-(´・`) フー
大丈夫だよね、全て上手く事が運ぶようになるよね
心配で今夜は眠れないわぁ~ε=( ̄。 ̄;A フゥ…

新メンバー加入まで95日か…

ムッムッム・・

こんばんは。

なんだか ももんたさん得意の怪しげな雰囲気が・・・と
言いたいのだけど
亮介はちょっと体調が?
それにリストラ関係で神経も?

二人とも心のうちに色々抱えてしまって
会話が減っているのかしら?

え~~っと まさか95回話があるとは思えないけど
今回は何回ぐらいの予定でしょうか?

そうなの、その日なの

yonyonさん、こんばんは!


>リミットの数字が減って無い、と思ったら
 まだその日の夜だったのね・・・

はい、ブログ用なので、サークルよりも、短くなっています。
まぁ、日付も進むときは一気に進みますけどね(笑)

さて、亮介の苦悩に気付いてない咲、
さらに、色々と出てきますので、これからもよろしくです!

亮介にも理由が……

eikoちゃん、こんばんは!


>亮介は、上司と部下の間で本当に苦悩しているみたいね…vv
 ほんとに部下思いのいい部長さん!

部長という立場で、そう、中間管理職なんですよね。
この苦悩と、左肩の秘密は、これから出てきます。


>妻は、なんでも話してほしいものなのよね~~!ねっ、咲ちゃん。

そうなんですよね。
でも、亮介にも語りたくない理由が、実はあるんですよ。

ちょっとずつ

Arisa♪さん、こんばんは!


>軽く力を入れると、まだ激痛が走り…って
 亮介どうしちゃったの~~~;・ロ・)!!

はい、どうしちゃったのかは、これからわかります。
まだ、一気にはお話出来ないのです。

仕事のこと、体のこと……
本当なら、咲と色々と分かち合いたいところなのですが、
言えない理由も……です。

ちょっとずつ

Arisa♪さん、こんばんは!


>軽く力を入れると、まだ激痛が走り…って
 亮介どうしちゃったの~~~;・ロ・)!!

はい、どうしちゃったのかは、これからわかります。
まだ、一気にはお話出来ないのです。

仕事のこと、体のこと……
本当なら、咲と色々と分かち合いたいところなのですが、
言えない理由も……です。


>新メンバー加入まで95日か…

そう、2話になったのに、進まなくてごめん(笑)

怪しい私

azureさん、こんばんは!


>なんだか ももんたさん得意の怪しげな雰囲気が・・・と
 言いたいのだけど

ん? 怪しい?(笑)
私は普通に進めているんだけどなぁ……
雲に穴が開いていたので、しょうがないのです。


>え~~っと まさか95回話があるとは思えないけど
 今回は何回ぐらいの予定でしょうか?

ブログ用に、短くしているから、ちょっと多いかもしれないですよ。
でも95回はないです。

一番コメント、ありがとう!

拍手コメントさん、こんばんは!


>待ってました!第2話♪ しかーし、亮介さん心配です

待っていてくれて、ありがとうございます。
そう、今回は亮介が悩みを抱えています。どんな理由があるのかも、まだ咲は知りません。

しかし、このままでは、95日後に赤ちゃんが誕生してしまうので、
なんとか二人で頑張ってもらいましょう!!

この先も、お付き合いよろしくお願いします。

中間管理職

yokanさん、こんばんは!


>今、会社は大変なことになっているんですね。
 亮介の気苦労も絶えないってことか・・・

部長ですからね、亮介は中間管理職の場所に立って、悩みをあれこれ抱えています。
もちろん、咲に話せることもあるけれど、話せないこともあって……。


>咲ちゃん、浮気なんて疑っている場合じゃないよ!

本当ですよ!(笑)

ドキドキのままで

ナタデココさん、こんばんは!


>亮介は会社で問題を抱えていた・・・と
 先回あったのでどきどきしてました。 

ありがとうございます!
ドキドキと待っていてくれるのは、こちらとしては、非常にうれしいところです。


>咲の言うとおり、業界で働いていた奥さんならば、
 愚痴でもいいんじゃない~

そうなんですよ。でもね……
亮介には言えない理由が、あったりするわけで。

うぅ……私もこれ以上、言えない(笑)
続きも、ぜひ、お付き合いを!

心配です・・・

一話では、軽く左肩に触れただけだったから
忙しい毎日、亮介さんも肩が凝るのね~
なんて簡単に考えてたんだけど
激痛が・・って!!!大変やん~~

上司と部下の間に入っての心労も相当重なってる亮介さん
本当に心配です。

いろいろな思いを心に抱えたまま
一番話したいことは言えない二人。

お互いを思い遣り過ぎて
気持ちがすれ違うような事にならなければいいけど・・





……ですから

バウワウさん、こんばんは!


>激痛が・・って!!!大変やん~~

そうなんだよね、どうも肩こりじゃないようなんです(笑)
気になることが、あれこれありまして……


>いろいろな思いを心に抱えたまま
 一番話したいことは言えない二人。

咲が妊婦さんでなければね、もっとすんなり行くところなんですけど、そこが……。
まぁ、色々あってこその『リミット』ですから。
続きも、よろしくお願いします。

そうだよね

mamanさん、こんばんは!


>二人にすれ違い(?)、溝が出来そうですね。
 問題がない方がいいけどこちらとしては、
 ワクワク・ドキドキと先が楽しみです。

あはは……。mamanさん、素直なコメントをありがとうございます。
そうですよね、何にもなかったら、つまらないでしょ?
まぁ、二人がどれくらい大変になるのかは、言えませんが、
ワクワク、ドキドキ、楽しんでください。

何があった!

1話から、不安定な心を抱えた亮介が登場し、読者の心を揺さぶってますね~

2話では、少しだけ彼の不安の原因が見えたけれど、咲と同じで「何があったの?」状態!

部下を心配する彼は「憧れの深見さん」だけど、肩の怪我?はなによ~~

揺さぶる?

なでしこちゃん、こんばんは!


>1話から、不安定な心を抱えた亮介が登場し、
 読者の心を揺さぶってますね~

揺さぶってる?
やだ、分析しないでよ(笑)
ボロボロと出ちゃうからさ。

肩のケガは……これからわかるよ。