31F 職人に魅せられて ①

31 職人に魅せられて

31F-①


彩希から『伊丹屋』栗原純の名前と、さらにその人と知り合いだという話を聞き、

拓也とエリカ以外のメンバーが驚きの声を出す。


「あ、いえ、あの……知り合いというとずうずうしいのですが、
偶然何度かお会いすることがあって、それで」

「それで……って、それだけの関係で頼めたのか」

「はい」


武は、ライバル企業に手を貸してくれるとは、なかなかだとそう言い始める。


「偶然何度か会ったという縁で、こんなことをしてくれるの?」

「偶然かしら」


まつばの問いに、エリカはそういうと、自分の席に戻る。

彩希に質問をぶつけていた武もまつばも、視線を彩希からエリカに動かした。

『彩』を口に入れた拓也は、ちょうど飲み込むところになる。


「どういう意味ですか、横山さん」

「江畑さんの才能に、『伊丹屋』の栗原さんが気付いているってことじゃないの?」


『彩』を食べ終えたエリカは、全てを知っていてあえてそう言ってみる。


「才能?」


まつばは、すぐに彩希を見た。


「そう……だって、普通は大山君の言うとおり、ライバル企業なんて助けないわよ。
でも、江畑さんの舌には特別な力がある。それを何度か会った中で知った。
もしかしたら……」


エリカは、チラッと拓也を見た後、彩希の方を向く。


「『伊丹屋』にハンティングされちゃうかも、江畑さん」

「エーッ!」


エリカの意見に、武とまつばが驚きの声をあげる。

彩希は、そんなことは絶対にありませんよと、盛り上がりを否定した。

拓也は、中身の無くなった『彩』の包み紙を手に持ったまま、

この商品に関わった『職人の手』を思い浮かべようとする。



もし、『和茶美』に彩希の父がいたら、

そして、それを栗原が知っていて、彩希を行かせたとしたら。



拓也は、包み紙をデスクに戻しながら、まつばや武にからかわれている彩希を見た。





「ただいま」

「お帰り、彩希」

「うん」


彩希は家に戻ると、疲れたとたたみの上で横になった。

佐保は、思っていた旅は出来たのかと、尋ねる。


「出来た。東京とは違う雰囲気を味わってきたし、目的のものも買えたし」

「そう」


彩希は佐保の顔を見たが、『彩』のことは黙っていることに決めた。

あくまでも彩希自身の感覚に過ぎない話で、期待を膨らませてしまうのは、

酷な気がしたからだ。


「ねぇ、お母さん。広瀬さん来てくれたんだって?」

「うん、昨日ね。彩希があの出来事のことを思い悩んで、仕事がしづらいのなら、
これ以上、無理しなくてもいいって、そう言いに来てくれたの」


佐保は、そういうとテーブルの上に、料理を並べだす。

彩希も立ち上がり、自分と母の箸を出した。


「昔のことも、あらためて謝ってくれるから、もういいですよって、そう言ってね」

「うん」

「そうそう、そんなことより、娘が土下座をしてくださいなんて、
本当に失礼なことをしましたって、謝ったわよ」

「あ……うん、そうだった」


彩希は、あらためてコーヒーショップでも拓也に謝罪したと、そう告げる。


「あの子は、気持ちを切り替えて、今、前向きに動いていますから、
大丈夫だって言ったら、やっと安心した顔を見せてくれて」

「うん……」


彩希にも、拓也の表情はわかる気がした。

今日、コーヒーショップで会ったときも、

拓也の表情が『過去を話した日』とは違う気がした。

ただ、佐保に『前向き』と言われてしまうと、

この後『退社』を考えている彩希としては、チクリと胸が痛む。


「みなさん、食べてくれたの?」

「うん……」

「そう……」


佐保は、『雫庵』はどうだったのかと彩希に尋ねた。

彩希は、昔の方が美味しかったと、正直な感想を述べる。


「難しいものだね。ずっと同じ味を保つって……」


彩希は、有給最後の明日は、『あゆみの丘』に行くと言うと、

その日は早めにベッドへ入った。





深夜、2時過ぎ。

彩希は、階段に電気もつけず、そのまま1階に降りた。

『お菓子の旅』、そして『雫庵』や『和茶美』などと、キーワードを浮かべていたため、

父、晶の行方にまつわるヒントが残っていたことを急に思い出したのだ。

3年、行方不明の状態が続いている父だが、いなくなってから1年の間には、

母宛によく送金があった。

その話は母からも聞いていたし、実際に、通帳を見たこともある。

お金の心配をしているところからも、彩希や佐保は、父が店を潰してしまったことを、

自分の責任だと思い過ごしているのだと考え、何も言えなくなったのだ。

彩希は、引き出しをゆっくりと開き、佐保名義になっている通帳を開いた。

懐中電灯を取り出し、その送金された場所が、どこなのかを探ろうとする。

金融機関には、店番が記されているため、それをホームページなどで開けば、

どこの都道府県にあるのかもわかるはずだった。

彩希はメモを取り出し、その番号を書き記していく。

ゆっくりとまた階段を上り、自分の部屋へ戻り、

そして携帯電話を開くと、メモをした番号を検索してみた。

一つ目の番号は『京都』。

彩希は、父が何か用事があって京都に住んでいたのかと考える。

そして、さらに『兵庫』のものも見つける。

その2つが数回あり、最後に送られてきた場所の番号を調べてみた。


「……『岡山』」


晶が、お金を母宛に送金した日付の、一番新しいものは『岡山』だった。

彩希の頭は、『和茶美』でいっぱいになる。



『父は、『和茶美』に関わっているのではないか』



という気持ちが、また大きく膨らんだ。





次の日、彩希は『あゆみの丘』へ向かい、祖父、新之助に『彩』を渡した。

まずは何も言わずに、食べてみて欲しいとお願いする。


「いいのかい、おじいちゃんが食べてしまって」

「いいの、いいの。そのために買ってきたわけだし」

「そうなのか」


新之助は、『彩』の包み紙を取り、手で半分にちぎった。

そして手で2つにすると、全体の4分の1を口に入れる。

彩希は、どういう感想を述べるのか、じっと新之助を見た。

何も知らないカツノは、二人にお茶を入れる。


「……うまいな」

「美味しいでしょ」

「あぁ……」


新之助は、そういうと、残りを口に入れる。

テーブルの上には、最初に割った半分が残った。

彩希は、『雫庵』でもどら焼きを買ったけれど、『和茶美』のこれの方が、

美味しいのではないかと、そう意見をする。


「彩希……」

「うん」

「お前はどう思った」


新之助は、優しい目で彩希を見ながら、そう尋ねた。



31F-②




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