33F 寂しく光る小さな灯 ①

33 寂しく光る小さな灯

33F-①


「おじいさん」

「……ん? あぁ、うん」


その頃、『あゆみの丘』では、カツノが新之助の様子を気にしていた。

普段どおりに起床し、出された朝食を残すことなく食べてきたが、

彩希が『彩』を持ってきたからというもの、どう考えても新之助には、

おかしなところがあったからだ。

体の具合が悪いわけではなさそうだが、心だけは病んでいる、

カツノはそう考え、思い切って声をかけることにする。


「おじいさん、本当は気にしていますよね」

「何がだ……」

「何がって、岡山へ行くにはと、考えていませんか?」


カツノの言葉に、新之助はすぐに振り返った。


「やっぱり……」

「やっぱりって、お前」

「おかしいなと思っていましたよ、彩希が帰ってから、ずっと」


カツノは、『和茶美』に行くつもりなのかと、そう尋ねる。

新之助は、『全てわかっていたのか』とカツノに聞いた。


「彩希には違うって言ってましたけれど、あの後、包み紙を拾っていたでしょう。
ゴミ箱からなくなっていましたから」


カツノは自分に隠し事をしなくてもと、心配そうな顔をする。

新之助は『その通りだ』と頷き、出来たら岡山まで行って、

『和茶美』の職人と会ってみたいと答えを返す。


「彩希には期待をするなとそう言った。あの『彩』を晶が作ったと思うのは、
あまりにも自分よりに考えすぎていると。でも……佐保さんが話していただろ。
晶は修行をしているのではないか、和菓子に関わる仕事をしているのではないかと」

「はい」

「晶から送られてきたお金は、確か『岡山』からもあったはずだ」


新之助は、そういうとカツノを見る。

カツノは、新之助の言葉を受け入れようと、数回頷いた。


「おじいさん。それならいいじゃないですか、
ここに入ってから旅などしたことがないですし、行ってみたらどうでしょう。
もやもやと考えていても、解決しません」

「カツノ……」

「私たちでもまだまだ、自分たちだけで岡山まで旅をすることくらい出来ますよ、
きっと」


カツノはそういうと、新之助に入れたお茶を、テーブルに置く。

温かい湯気が、上へと登っていくのを見ながら、新之助は椅子に座る。


「晶である可能性は低い」

「わかっています」

「疲れるだけかもしれない」

「はい」


カツノは新之助の膝に、手を置く。


「それでも、確かめてみましょうよ」


カツノの言葉に、新之助は黙って頷いた。





『退社は、最低2週間前に告げること』



彩希は、所属が売り場のため、派遣社員としての立場だった。

そうなると、規約には2週間前に意思を告げればいいと記されていて、問題はない。

竹下や高橋を始めとして、売り場には慣れた人たちも多い。

自分が抜けたとしても、それなりに回ることは間違いなかった。

しかし、『第3ライン』に対する思いは、また別のものがある。

臨時の売り場とはいえ、自分が味を気に入り頼んだ『コートレット』のこともあり、

彩希の気持ちは、右に行ったり左に行ったりを繰り返した。

そんな彩希のどこか気持ちが定まらない様子は、一緒の部屋で仕事をする拓也にも、

薄々感じ取れた。純と彩希の約束は、あくまでもプライベートになるので、

その後どうしたのか聞くべきかどうか迷いもあったが、

江畑家の事情も知っている自分が、

ここは立場も飛び越えて話すべきだと思い立ち上がる。


「広瀬さん」


立ち上がった拓也に声をかけたのは、『第1ライン』の担当者と話す、武だった。


「すみません、こいつ第1ラインの同期なんですが、広瀬さんはって聞くものですから」

「あぁ……」


拓也の前に、第1ラインで働く男が立った。

申し訳ないけれど、6階の会議室まで来て欲しいと伝言を受ける。


「会議室は今、第1ラインが」


『KISE』の食料品関連は1と2のラインがあり、その両方を担当していたのが、

『佐々木勇人(ささき はやと)』だった。戦略的に広さを持たせると言うことで、

新しいライン『第3ライン』ができあがり、益子をトップにすえて、

拓也たち、そして元々第1ラインにいた武たちが集められた。

佐々木は、部長の中でも、『KISE』の食料品関係にいる時間は一番長いため、

菓子メーカーとのつながりもそれなりにあった。

拓也は、佐々木の呼び出しと聞き、

おそらく揉めている状態の『リリアーナ』関連ではないかと、推測する。


「わかりました、すぐに行きます」


直属の上司である益子が、南北4店の打ち合わせに出かけている今、

佐々木は、あれこれ難癖をつけるつもりだろうかと、拓也は足取りの重いまま、

6階に向かった。



『企画会議室』



呼び出された拓也は、扉を軽く叩き、『失礼します』と中に入った。

そこには打ち合わせを終えた佐々木が、万全の状態で待っている。


「広瀬です」

「あぁ……」


佐々木は中に入るようにと指示を出したので、拓也は自分の手で扉を閉めた。

話しは、顔が前を向いた瞬間、容赦なく始まりだす。


「『リリアーナ』との契約が、壊れたそうだね」


拓也は『やはりそのことか』と思い、佐々木を見る。


「佐々木部長、『リリアーナ』との関係は、壊れているわけではありません。
色々と改革をしていく中で、今までとはまた違う、新しい関係性を築こうと、
話し合いを重ねている最中で……」

「話し合い? いやいや、長い間、信頼を築いてきたのに裏切られたと、
そう……私の耳には入ってきているがね」


佐々木は、売り上げも規模も実績も長い企業を、

怒らせて得することなど何もないと、そう嫌みを投げる。


「……それは信頼でしょうか」


拓也の問いに、佐々木は怪訝そうな顔をする。


「どういう意味だ」

「担当をしてみて、初めて気づきました。今の『リリアーナ』とうちの関係は、
互いに甘えです。『当たりまえ』の馴れ合いで、今の関係を築いているだけです。
どんな業界にも移り変わりがあります。特に、嗜好品に関しては、
長く愛されていくものもありますが、それに甘んじて新しいものを取り入れなければ、
全体の風通しが悪くなるだけです」


拓也はそういうと、佐々木の顔を見る。


「自分のしていることに、間違いはない……ということか」


佐々木は立ち上がると、『どうなのだ』という強い視線を拓也に向ける。


「今現在、間違いがあるとは思っていません」


拓也は、今までと同じように、相手が上司だろうと、自分が間違っていないと思うため、

そう堂々と語った。


「噂どおりのヤツだな、お前は」


佐々木はそういうと、1枚の紙を出す。


「昨年度の秋イベントの資料だ。広瀬、君がそれだけ自信があるというのなら、
その成果を見せてもらおうじゃないか。老舗を怒らせてまで変える意味があったと、
納得させられるように、前年比25%アップ。それを約束してくれ」


前年度のイベント売り上げよりも、25%売り上げを伸ばすという強引な命令に、

さすがの拓也も勢いで返事が出来なかった。


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