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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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37F 壊れそうなガラスの心 ④


37F-④


目の前に飛んできたガラスの破片から逃げようと、彩希は立ち上がるが、

慌てたことでテーブルに手をついてしまう。


「イタッ……」


尋常ではない音に、奥にいた留守番の社員が飛び出てきた時、

真っ黒な帽子をかぶり、マスクとサングラスで変装をしたつもりの男は、

さらに大きな石を別の窓に投げつけた。

その石は『SHIMA』のロゴが貼られた、ご自慢の大きなガラスを無残な姿にし、

コピー機の前に落ちる。

男性社員は身の安全を守りながら、すぐに110番を回した。

彩希は、破片で傷ついた手の平を押さえながら、その恐怖から逃れようと、

机の下に入り震え続けた。





冬馬は、現場で連絡を受け、病院に向かう道を必死に走った。

中に入り待合室を見たが、誰もいない。

さらに奥へ入ると、診察室の前で、同僚社員と手に包帯を巻いた彩希の二人が見えた。


「彩希……」


冬馬は彩希に駆け寄ると、『大丈夫か』と声をかけた。

彩希は冬馬を見たあと、小さく頷く。


「河西……今、杉山さんから電話があった。犯人はあのアパートに残っているヤツだ、
あいつが自首したって」

「エ……」

「エ……じゃないよ、お前が最後に印を押させたあの男だよ」


『SHIMA』の窓ガラスに大きな石を投げた男は、

冬馬が彩希と食事をした日、自分が立ち退かせた場所だと自慢したあの土地の中で、

最後まで出て行かずに残りの日々を送っていた男だった。

家でコップに何杯かの量の酒を飲み、誰からもらったのか忘れてしまった置物と、

扉が閉まらないように重しにしていた石を自転車に乗せ、

それで『SHIMA』のガラス窓を2枚割ったあと、そのまま自転車で交番に向かい、

自分が今、何をしてきたのか話したのだという。


「全くなぁ……正論で立ち向かえないから、嫌がらせをしてきて。
そんな程度だからさ、追い出されるような生活しか出来ないんだろうけどね。
人に迷惑ばかりかける、ろくでもない人間だよ、きっと」


110番をした先輩社員は、冬馬の肩を叩く。


「もしかしたら、例の土地買収についての不満だと、あの男が話せば、
うちに警察が話を聞きに来るかもしれない。いいか、書類上は何も問題ない。
『正確に話をした』ということを、しっかり言えよ……」


先輩社員は、『弱気な態度を見せるな』と最後に付け足していく。

冬馬は『はい』と返事をすると、『お疲れ様です』と先輩を見送った。

包帯をつけた彩希は、近くにあったソファーに座ったまま、黙っていたが、

聞こうとしなくても、内容は全て耳に入ってきた。

『嫌がらせ』だの『ろくでもない』だの、きつい言葉を残した先輩社員に対し、

『わかっています』というように、頷いていた冬馬の顔を見る。


「悪かったな、彩希。変なことに巻き込んで」

「……うん」

「怪我、大丈夫なのか」


冬馬は、契約が思っていたよりも時間がかかってしまったので、

待たせてしまったと言いながら、彩希の横に座った。

二人で座るソファーの前を、子供を負ぶった父親と、

その背中を支えながら歩く母親が通り過ぎた。


「あの子……熱でも出したのかな」


彩希は、おでこにシートを貼り付けていた子供を見ながら、そうつぶやいた。

冬馬は、そうかもしれないなと、同じ方向に視線を向ける。


「冬馬……」

「ん?」

「今、話をしていた窓に石を投げた人って、
前に食事をした場所から見えた、あのアパートの人ってことだよね」


彩希は、寂しくポツポツ残っていた明かりの様子を思い出す。


「まぁな」


冬馬は、自分の見せたくなかった部分を彩希に見られてしまった気がして、

すぐに先輩社員が言ったように、『向こうが悪い』と言おうと振り向いた。

しかし、今の彩希には、素直に受け取ってもらえない気がして黙ってしまう。


「ここに就職して、冬馬が社会人として、自信を持てるようになったのは、
とても嬉しいことだし、生きていたら、色々あるし、
全ての人とうまく付き合えるとも思ってはいない。でも……」


彩希は冬馬を訪ねてきた目的である、

時計の入った箱をバッグからあらためて取り出すと、二人の間に置く。


「これは受け取れない。この華やかな時計の向こう側に、
唇をかみしめる人がいたのかと思うと……」

「彩希……」

「ごめん、受け取れないよ、冬馬」


彩希は、左手の包帯を見る。


「今回のことを、ただの嫌がらせだって取らない方がいいと思う。
確かに、全員が気持ちを一つにすることは難しいかもしれない。
出て行きたくない人に対して、何か期限とか、手段とか、決めごとも必要だと思う」


彩希の脳裏に、父や母、祖父母が頭を悩ませていた日のことが思い出された。

どうしようもないことでも、ゲームのように気持ちはすぐリセット出来ない。


「でも、人の心は一斉に動くわけではないから。印を押したとしても、
どうしようもないという思いに、押しつぶされそうな人もいると思う。
去らなければならない場所に残りたいと思っている人には、
それなりの理由があったりするはずで。話を聞いて、少しでも理解して、
寄り添える部分がないのか考えてあげて欲しい」


彩希はそういうと立ち上がった。

冬馬はその前に立ち、歩みを止める。


「彩希は、今の俺の仕事が気に入らないと言うことか」

「そうじゃないよ、冬馬……あのね」

「俺は……あいつのようにエリートじゃない、頭もよくはないと思う。
仕事の中で、頑張らないとと思っていたから、それは多少、
相手にとって強引なところもあったかもしれない。
でも、話を聞いても、どうすることも出来ないのなら、そんなのは時間の無駄だろ。
聞いてもらったのに、結局流されたら、相手だっていい気分じゃないよ」


冬馬は、『福々』の時だって、押し切られたはずだと彩希を見る。


「あいつは……何か江畑の人たちにしたのかよ。壊しただけだろ、
みんなの反応に、自分の責任が取れないからって、逃げただけだろ」

「冬馬……」

「あいつは逃げたんだ、かっこつけているだけだ」


冬馬は、あの場所の立ち退きを頑張ったことで、

今の、自分の地位が作れたと彩希に説明する。


「自分の居場所を、人に認められる場所を、俺は自分で作るために必死だった。
あいつにお前を利用していると言われて、悔しかったけれど、言い返せなくて。
だから、こうして……」


冬馬は、そういうと彩希を見る。


「今の自分を、この生き方を間違っているとは思っていない」


冬馬はそういうと、彩希が置いた箱を持つ。


「彩希のために買ったんだ。お前のためだけに何かしたくて、それで……。
自分では買わないだろうと思うものを、買ってやりたかった。
これが……この時計が嫌なら教えてくれ、彩希。お前はどうすればわかってくれるんだ。
俺は、どうしたらあいつに……」


冬馬は箱を強く握りしめる。


「どうしたらあいつに……勝てるんだ」


彩希は冬馬が握りしめる箱を見たあと、もう一度首を横に振る。


「冬馬……勝ち負けじゃないよ、そうじゃないの……ごめん」


彩希は冬馬の横をすり抜けるように歩いて行こうとする。


「待てよ、彩希!」


冬馬の声に、彩希は振り返る。


「一人で帰るな、送るから」


冬馬は怪我の説明も、佐保にしないとならないと横に並ぶ。


「大丈夫だよ冬馬。この病院の横、すぐに駅だし。事情なら私が話すから」


彩希は、できる限り明るい声を出し、その申し出を断ろうとする。

冬馬は怪我のない彩希の右手をつかみ、無言で進み出した。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【37】香川   灸まん  (卵の黄身を餡に使い、もぐさの形をしたおまんじゅう)



38F-①




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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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