FC2ブログ

ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
0512345678910111213141516171819202122232425262728293007

38F イベント『あき』の陣(前編) ②


38F-②


「……なんだよそれ」

「仕事に対して、絶対に妥協しないというあなたの姿勢は評価しているし、
その強さが素敵だと思ってきた。でも、今回のことは別」

「別?」

「そうよ。人を人として評価しない……そんなあなたは好きではない。
もう、隣に並ぼうとは思わないわ」


エリカは、自分の前にあるお酒を飲み干していく。


「あなたにとって江畑彩希は、
『味のわかる使いがってのいい人』なのかもしれないけれど、
彼女は精密機械ではないの。何かを乗せたらすぐ数字にするような機械とは違う。
あの見事な感覚は、与えられた場所と、空気と、そして……
思いを寄せたいと、自分の気持ちを向けたいという感情があってこそなの。
純……あなたは間違っている。今は突っぱねるでしょうけれど、必ずわかるから」


エリカはそのまま立ち上がり、店を出て行こうとする。

純はすぐにその腕をつかんだ。


「おい、言いたいことを言って、去るつもりか」


エリカは黙ったままになる。


「『思い』というのなら、それはしっかりとある。
僕の思いと、彼女の思いを交換条件にした。そのやり方について、
君にあれこれ言われることではないし、これから先も、聞く必要は無い」

「だったら聞くわ。彼女の知りたいことは、解決したの?」


エリカは、彩希の父親は見つかったのか、

彼女はそれをきちんと知ったのかと聞き返した。



『江畑彩希の問題』



エリカの言葉に、純は黙ったままで肯定も否定もしない。


「『思い』という、人として一番大事な感情を、交換条件にすること自体、
私にはあり得ないことだと思う。そんなものでさえ、あなたにとっては条件なのかと、
心が苦しくなるわ」


エリカは、『第3ライン』のメンバーが、それぞれ彩希を思い心配していること、

そして、『これしか方法がなかった』と、自分の感情を押し殺す拓也のことを考える。


「ずっと見続けると、あなたと私が親しいことも知って、そう言っていたわよ」


エリカは、誰がとは言わずに、言葉を止める。


「広瀬が、江畑さんを見ていると……そういうことか」


エリカは頷くと、『手も足も出せないけどね』と言い、純を見る。


「そろそろと思ったの」

「そろそろ?」

「私だって、あなたには用なしでしょう」


エリカはそういうと、プレゼントにもらったリングを残し、

純の手を振り切り、店を出て行ってしまう。

純は、これ以上追うわけにはいかないと、そのままカウンターに残り、

エリカが置いていったリングを手に取り、しばらく触れ続ける。



『思っていたよりも、江畑彩希が輝かない……』



彩希自身がそれなりに店の商品を選び、

味に対してのデータを取っていることはわかっていた。

『正社員』、『売り場と本部の架け橋』という立場を前にぶらさげてみたものの、

実際、そんな短期でことが動くとは思っていなかった。

だから、『KISE』がイベントの中で、彩希の力を使えないことが大事だと思ったし、

『これから先もない』と引き剥がすことが目的だった。

しかし、『伊丹屋』に就職し、本人は真面目に頼んだことをしているものの、

彩希自身の雰囲気が、以前、自分に見せてくれていたものと、

変わったことが気になっていて、この場所にエリカを呼びつけた。



『だったら聞くわ。彼女の知りたいことは、解決したの?』



エリカに、すっかり気持ちが読まれていたものの、

その動揺を見抜かれたくなくて、純はまた突っ張ってしまった。

とりあえず『キセテツ味の旅』終了まで、無言を貫くしかないと考え、

純はスーツのポケットにリングを押し込んだ。





『キセテツ味の旅』



『伊丹屋』のイベントが開始されて4日後、

実質、現在の『第3ライン』メンバーが、

初めて全力で企画した味の旅がスタートした。


「いらっしゃいませ」

「このチラシに出ているお店は、どこですか」

「あ……はい、それでしたら……」


今まで、話題にすら出たことがない『ひふみや』という店が、

閉店を前に、初めて店舗に並べた『夢最中』はインパクトも十分だった。

竹下も高橋も、開店してから何度も同じ方向を手で指し示す。


「申し訳ございません……」


喜助にすれば、イベントに参加すると決め、今回は最大限の力で作ったものの、

『夢最中』は午前中どころか、開店1時間で売り切れてしまう。


「エ……もうないの?」

「はい」

「あら……それを買いに来たのよ」


お店自体、もう閉店を決めていることなどの情報もあったため、

客からの『どうしても』の声が入り、このイベント週間終了後、

予約を入れてくれた人たちにだけ、『KISE』が販売を約束する。

父親の思いを受け継ぎ、地元に店をオープンしたばかりの『コートレット』も、

確実な実力と、見た目にもこだわった商品のラインナップに、

若い女性客たちからのSNSの力が加わり、1日目より、2日目の方が、

売り上げを伸ばしていた。


「天気もよかったし、売り上げも上がっているようだな」

「はい……」


益子にそう言われ、拓也はしっかりと頷いた。

イベント開催時は、ほとんどが初日に大きな盛り上がりがあり、

平日はどうしても売り上げは下がる。しかし、今回は客同士の情報交換や、

元々、自分たちの地元、『キセテツ沿線』が鍵になっていたため、

それぞの店を知る地図も好評で、予定数はイベント終了を待たずに、

なくなる可能性まで出始めた。

まつばや寛太は、地図を少し大きく引き伸ばし、売り場の階段部分に貼り出しにいく。


『横山さん、今まであれだけのお客様を見たことがないです、私』

『みなさん、地図を片手に色々と見てくださってます』


そんな現場自体の盛り上がりは、顔を出す若手たちから常に情報が入ってきた。

拓也は、本社に残り、数字として上がってくるデータを見ながら電卓をはじく。

『リリアーナ』とのいざこざを知った、『第1ライン』の佐々木には、

前年度よりも25%アップというとんでもない条件を出されているため、

拓也は具体的に、1日どれくらいの売り上げがあれば達成出来るのかと計算した。


「ふぅ……」


間違いなく前年度よりも上がることは予想できるが、

さすがに25%は厳しいラインとなる。

この先、とんでもない注目度が起きない限り、難しいということが見えた。



『このお店の商品は……』



頭を現実から解放しようとすると、売り場にいるはずのない彩希の声が、

耳に届く気がしてしまう。

拓也は席を立つと、そのまま階段を降り地下の通路を通る。



『どうしてそんなに自信家なんですか』

『食べてみてわからないってどういうことですか』



この通路を歩きながら、彩希とは何度も喧嘩をし、何度も意見をぶつけあった。

時には、腹を立てるような時もあったけれど、それ以上に、

彩希の行動一つずつが、気になって仕方がなかった。

もう2週間近く顔も見ていないし、声も聞いていない。

拓也は賑わっている『KISE』の食料品売り場に足を運ぶ。

『KISE』の親会社が鉄道会社であること、4つの路線があり、

それぞれに魅力的な店があることなど、表現したかったことが、

今、目の前で現実になっている。



『江畑……この状態を、お前はどう思うんだ……』



拓也は心の中でつぶやくと、彩希のいない売り場をしばらく見続けた。



38F-③




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL

プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

発芽室、ただいま連載中!
『KISE』では、お客様を満足させるため、従業員奮闘中!
ただいま発芽室では『さぁ、お気に入りを買いに行こう』を掲載中! こちらからどうぞ
恋愛小説ブログランキング
チャレンジしてみるブログランキングです。 応援のポチ……お願いします。
FC2ブログランキング
小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!
いらっしゃいませ!
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
232位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>
ブロとも申請フォーム
月別アーカイブ
最新トラックバック