episode3 『この親あるから、この子あり?』 

episode3 『この親あるから、この子あり?』

季節は12月。今日で学校が終わる。3年生は受験準備で忙しいだろうが、

俺が持っているのは1年生。まだまだ、話題はお年玉らしい。


「じゃぁな、杉っぺ!」

「おう、年明けな!」

「来年こそ、俺と一緒に彼女、作ろうな!」


関口、お前アホか! なんでお前と一緒に……。もう俺は間に合ってますので、

君だけ必死に、もがいてください。


職員室もどこかリラックスムード。成績表も渡したし、学生も消えた。


「遠藤先生、年末は実家に戻られるんですか?」

「……あ、はい。なかなか戻れないので。こういう時には親孝行しないと」

「そうですか……」


松居、お前早いなぁ……職員室戻るの。2年の担任だろ。もっと細かく冬休みの注意、

話して来いよ! 百合、いいんだって、そんなふうに愛想笑いしなくたって。


「杉原先生、ちょっといい?」

「……あ、なんでしょうか」


林先生。ちょっと肩が触れてますけど。どうして、そんなに近づいて話すのかなぁ……。

聞こえてますよ、あなたの声は。天然拡声器をお持ちじゃないですか!


「ねぇ……これ……」


林先生は、なぜか俺の前に小さな紙を滑らせた。『お昼過ぎに、1組の教室へ……』

と書かれてある。


「……」


ちょ、ちょっと待て! なんだよ、この意味深な行動は。教師同士でしょ。

相談事とか、堂々と職員室で話しましょうよ!


ん? なんだよ、松居。その怪しげな視線は。

おいおい、林先生との仲を疑っているわけじゃないだろうな。お前、常識でものを考えろ!


「……」


……百合ちゃん、君もやめようね。そんな目をするのは! 

林先生をライバル視するなんて、基準下げすぎだって!





気分が重たいまま昼食を済ませ、

何が起こるかわからない1組の教室へ重たい足取りで向かう俺。


「失礼します……」

「あ、ごめんなさいね、杉原先生」


冬の少し寂しげな日差しの中、窓際にたたずみ、外を見ていた林先生が、

こっちに振り返った。


「いえ……」


うぅ……。素敵なドラマのワンシーンみたいなこと、しないでくださいよ、いきなり。


「エ……熊沢先生が?」

「そうなのよ。校長先生にね、林先生は学年主任としてどうお考えになりますかって
聞かれたの。熊沢先生の代わりを遠藤先生にってことなのよね。
私としては自分の意見を述べたんだけど、杉原先生はどうお考えになるかなと思って。
でも、これはシークレットよ。私と杉原先生との……ひみつ」

「……」


……いえ、言いますよ、俺、百合に! あなたとの約束は守れません!


1年2組の担任、熊沢先生が、体調不良を訴え、新学期からの担任を降りたいと

校長に相談した。その後任として百合を考えているのだと、言われた林先生。


「遠藤先生よねぇ。いざ、担任となると、どうなのかな……と思って。
どうも積極性? に欠ける気がするのよね」

「いや、そんなことないですよ。結構……」


おっと、ここで百合をあんまり知っている発言はまずいんじゃないの? 

俺は慌てて言葉を止めて、目の前に置かれていたお茶を一口飲んだ。


「結構……積極的なところがあるの?」


ありますよ、ありますけど、そんな話しは出来ません。

それこそ俺と百合の……ひ・み・つですからね。


「3ヶ月ですよね、いいんじゃないですか? 彼女にも経験になるだろうし。
1年で一番受験にも響かない学年ですから」

「そう?」

「はい」





「うん……校長先生から帰りにそう言われたの」

「そうか」


今年最後の『お泊まりデー』。同じ学年の林先生と俺がGOサインを出したことで、

百合の臨時担任が正式に決まる方向に動きだした。


「出来るかしらって少し不安だけど、杉原先生と一緒の1年生だし、頑張ってみる」

「うん、俺が出来ることは何でも協力するよ。2組は比較的、やんちゃなやつも少ないし、
まとまっているクラスだし」

「うん……」


百合は手に持っていた湯飲みをテーブルに置き、俺の方へもたれかかってきた。


「林先生のお話って、このことだったんだ」

「あぁ……うん」


俺はこのチャンスを逃すまいと、百合の腰に手を回す。


「……よかった……。少しドキドキしちゃった。私、やきもちやきなのかも……」


なんてラッキー! あんな比べようもない相手でも、君の心に火をつけることが

出来ちゃうんだね。なんて省エネ点火!


「林先生だろ、焼きもちなんてやく必要もないのに」


さらに君の腰にある手を、こっちへ引き寄せる。そのままムフフモード突入か?


「……だって林先生って、実はすごくグラマーなのよ……」

「エ!」

「……」


ま、まずい。男のサガなのか、『グラマー』という言葉に、反応してしまった。

あぁ……百合ちゃん、機嫌一気に急降下。


「ふーん」

「あ、その、いや……」


俺のバカ! もう一度、もう一度点火だって!





……消火完了。





百合は実家に戻っていき、俺もまた実家へ。

わが家は『そば屋』のため、年末は毎年忙しいのだ。


「ただいま……」

「あ、いらっしゃい……」


なんだ? このかわいい女性従業員は。いつのまにそんなバイトを雇ったんだよ、お袋!


「おう、戻ったのか」


あ、そうだった、思いだした。今の女性は夏に結婚した兄貴の嫁さんだ。

年に2度だとなかなか覚えられない。つい都合のいいように動いてしまう、自分の頭。


いかん、いかん……。


適当に挨拶だけすませて、家の奧へ入っていく。とりあえず、荷物を置いて、TV……。


「遅いじゃないのよ、集中バイト!」

「……」


……じゃないだろうが。あんたの息子だよ、息子。俺はめんどくさそうに手だけあげる。


「ただいま」

「お帰り。あ!」

「……」

「あんた、背中に長い髪の毛がついてるよ。あらまぁ、彼女はロングヘアーだね!」


誰か、この暇なおばさんの相手をしてやってくれ。


「髪の毛じゃないだろう。うちのそばだろうが! しかもついてないよ、つけたんだろ」

「さすが、三男坊。よくおわかりで。さぁ、手伝いな。タダ飯は食わさないよ!」


これでこのネタは何度目だ。よくもまぁ、同じことを繰り返せるものだ。

長男の兄貴は家で家業を継いだけど、すぐ上の兄貴は、このお袋のネタに耐えられず、

海外勤務を自ら願い出たというのに。


「おぉ……お母ちゃん。店にいないから、客とかけおちでもしちゃったんじゃないかと
心配したぞ」

「やだ、お父さん。するわけないでしょ……。もう!」


こんなボンレスハム。買っていってくれる精肉店があるなら、さっさと渡しますよ、

俺なら。まぁ、夫婦いいコンビじゃないの?


三流寸劇に耐えられず、結局、毎年しっかりと店を手伝う俺。

もっぱら厨房での皿洗いだけどね。





そして、除夜の鐘。嵐のような年越しそば注文を終え、わが家でも家族揃って

新年を迎え、遅くなってしまうけれど、一応そばをすする。


「あ、イテッ」

「やだ、どうしたの?」

「慌てて食べようとして舌を噛んだよ」

「エ……見せて?」

「いいよ、ほら……大丈夫だって」


さすが新婚さん。義姉さんに見つめられて照れている兄貴。

昔は柔道部の硬派として近所で有名だったのに、人は変わるもんだ。


まぁ、幸せなのは……いい……


「あ……」

「あら、お父さん。どうしたの?」

「今、口の奧を噛んだ」

「エ……見せて!」


おーい! そこの二人。

洗濯された洋服の上に、汚れた作業着を置くようなことはやめてくれ! 

お袋、親父のは老化現象だって。


あぁ、もう、二人で無人島へ、バカンスでも、サバイバルでも行けばいいのに……。


さっさと寝たい……。





「うん、やっと終わった」

「親孝行出来た?」


新年最初の百合からの電話。年末の疲れた気持ちが、リフレッシュされた。

荷物置き場と化した次男坊の部屋で、こっそりと愛の時間。


「私はね、第九コンサートに行ったの。あ、第九って言っても、トンテンカンテンの
大工さんじゃないわよ、わかってる?」

「……うん」


百合ちゃん、このギャグ、去年も聞いたんだけど。もしかして、意外にうちのお袋に

近いのか?


……いやだ! スリーサイズがトリプル、そう全く一緒のあんな固まりにはならないで!


「今年は、初めて担任を持つことになるし、今までとは違った緊張感があるけど、
助けてね」

「……わかってるよ。百合をひとりにはしない」

「……うん……」


その言葉を噛みしめてくれているのか、黙っている百合。

あぁ、声だけじゃ不満だ。


「チュッ……」

「……?」


ん? 今、受話器にチュッ……ってやりませんでした? 

いや、やったよね、聞こえたよ、百合!


「あ、百合……」

「じゃあね、また!」


かわいい! なんかメチャクチャ嬉しいんですけど。

ツーツーと鳴っている携帯に、俺も遅れてお礼のチュウ!


「あぁ……百合! やっぱりキスは口に……」


そう言いながら、俺は後ろに積まれてあったダンボールの山に思い切り寄りかかった。


「う……うわぁ!」


動くはずのないダンボールが、ズルズル……と動きだす。

慌てて、立ち上がり、振り返ると。


「……!」


壁がなかった。


「百合だって……」

「ひとりにしない……だって」


おそるおそる隙間から見てみると、ボンレス怪獣とその管理責任者が、

なんだかにやけてこっちを見てた。


「なんだよ、この部屋! どうして壁が抜けてるんだよ」

「あら、だって、康成が家を出て行ったから、この部屋とつなげて広くしたのよね」

「あぁ……」


俺は携帯電話を握りしめ、さらに文句を言おうと前に出て行く。


「お袋達の寝室はここじゃないだろうが。ここは兄貴の部屋だっただろ!」


長男と次男の部屋がつながっていたはずの場所。確かに、ここはついこの間……

いや、えっと、1年前まではそうだったはずなのに。


「一番広い部屋2つをやったんだよ、長男夫婦に。
これから人数が増えるかもしれないだろ」

「そうそう……」


ん? 変なところには気がきくんだな、親父。


「百合ちゃんねぇ……」

「キスは口にとか言ってたよ、母さん。こんなふうにするのかねぇ……」

「やだ、お父さん。今はダメよ、あとで!」

「……」


お前ら、このダンボールに入れて、山へ捨てるぞ!

いや、それともそばのゆで釜で……。


ふぅ……。そういうリフォーム情報は、ちゃんと教えろよ! 俺は携帯をしまい、

文句を言おうと前を見る。



こら! 目の前でキスするな! 弟も妹も今さらいらん!





杉原、お前の下の名前はなんなんだ!……

ランキングに参加してます。よかったら1ポチ……ご協力ください。

コメント

非公開コメント

杉っぺ、名前は何だ?

ギャハハハハ!!!面白い。面白杉っぺ_(*_ _)ノ彡バンバン 

いいじゃない妹なら、男兄弟ばっかじゃ寂しいでしょ

百合ちゃん、この家で十分やって行けそうyon♪

きっと寒さなんて感じないと思う。私達にはかなり寒いギャグですがσ( ̄、 ̄=)

すぎっぺの名前は、後々

yonyonさん、こんばんは!

サークルUPの時から、すぎっぺを応援してくれて、
ありがとうございます。
特に問題もなく、日々だけ重ねている二人です。
そろそろ何か、仕掛けないとダメかしらん。


>きっと寒さなんて感じないと思う。
 私達にはかなり寒いギャグですがσ( ̄、 ̄=)

あはは……。私もそうそう。
同じだよ!

みなさんの妄想力で!

Tokihimeさん、こんばんは!


>おもしろ~い♪このテンポ、ほんとツボです。
 でも私、杉原先生、俳優の東 幹○さん
 想像しちゃうんです、私だけ~  …だよね。

あはは……。いいですよ、どんな人でも。
もしかして『ごくせん』の影響かな?
これからも、ひょっこり更新ですが、おつきあいください。

ボンレス母と管理者の父

yokanさん、こんばんは!


>もう、爆笑です(爆・爆・爆)いいな~、
 こんなお父さんやお母さん^^
 ああ~だめだ、笑いがこみ上げてくる、

思い切り、笑っていただけたようで、よかったです。
ちょっと外れているけれど、あんまり外れてしまうと、現実味のない両親になりますからね。
そこらへんのバランスは微妙です。

百合の新学期に関しては、また次のepisode4で、お楽しみ下さいませ。

杉原製造夫婦

mamanさん、こんばんは!


>父ちゃん、母ちゃんもわらかしてくれるね。。。。。

笑ってもらえたら、それでOKです。
『男、杉原!』を育てた両親ですからね。
妄想力は、超一級品なのです(笑)