41F 逆風からの追い風 ②

41F-②


戻った拓也を待っていたのは、興奮状態の武やまつばだった。

お客様の声に届く感想が、とてもよかったこと、

最終的に昨年よりも20%の伸びを出しそうなこと、

すでに電鉄本部からも、また次なるアイデアを出して欲しいと言われていることなど、

話が右から左から飛んでくる。


「ちょっと待て、あっちこっちから言われたら、聞き取れないだろう」

「そうですけれど」


自分たちが作り上げたイベントが、大成功したという盛り上がりは、

閉店時間を迎えてからも、変わることはなかった。





夜の9時。拓也の体は喫煙所にあった。

通勤ラッシュは終わり、『KISE』も営業を終えている時間の駅は、

朝や昼間の混雑が嘘のように、静かなものに見える。

拓也はタバコを吹かし、息を吐き出していく。


『25%』


佐々木に言われた数字には、結局届かなかった。

と言うよりも、最初から無理だとわかっている数字を、突きつけられていたのだから、

結果は当然だし、20%というものの方を、本来評価してもらえるのが当たり前だった。

しかし、組織がどう動くのか、拓也も数年間中にいて、わかっているところもあり、

そのまま処遇を受け入れるべきだろうと、覚悟を決める。



『江畑晶』



その前に、すべきことがあると思い、携帯をあらためて確認する。

京都に戻った詩から入るはずの連絡は、まだ自分の携帯を揺らしてはいなかった。





「ただいま」

「お帰り、彩希」


彩希は今日も仕事を終え、家に戻ってきた。

佐保の前では、それなりに仕事を頑張っていると話しているものの、

気持ちは限界に近い状態になっていた。

周りもそうだが、彩希自身が気持ちを開くということを忘れているため、

他の社員との状態は、入社よりもさらに悪化している気がする。

それでも拓也が『できる』と言ってくれ、約束した言葉があるために、

とにかく頑張ろうと気持ちを入れていた。


「ご飯は?」

「うん……食べる」

「そう」


佐保も、薄々、彩希の様子が変わっていることに気づいていたが、

自分で乗り越えようとしている娘の気持ちを思い、あえて知らない振りをしていた。

食事の支度を終え、部屋から降りてくるのを待つ。

すると転げ落ちるのではないかというくらいの勢いで、彩希が階段を降りてきた。

佐保は何があったのあと、彩希を見る。


「お母さん……明日、私、岡山へ行ってくる」

「岡山?」

「そう……広瀬さんから今、連絡をもらったの。明日、お父さんに会いに行こうって」

「エ?」


佐保は、興奮している彩希を落ち着かせようと、

とにかくゆっくり話をしなさいと言い返す。


「広瀬さんが……お父さんを探してくれた」


彩希はそういうと、涙を浮かべ始める。

彩希は、先日、コーヒーショップで拓也から聞かされた話を佐保に初めて語った。

佐保は一つずつに頷き、そして驚きの声を出す。


「確認できたって、雫庵の娘さんが、話を通してくれるって約束したの。
だから、岡山まで行ってくる」


彩希はそういうと、携帯を取り出す。


「何するの? 彩希」

「電話」


彩希がダイヤルを回したのは、純の携帯だった。

興奮状態の彩希から、父親のことが全てわかったということ、明日岡山に行き、

会うつもりだということも聞かされるが、純はどうしてそうなるのかわからず、

落ち着いて欲しいと彩希に言い返す。


『江畑さん、先日も……』

「栗原さんからの情報ではありません。
『和茶美』側に無理矢理話をしたわけでもありません。広瀬さんが探し当ててくれました。
ですから、『伊丹屋』には迷惑をかけないように、するつもりです」

『広瀬の情報?』


純は、拓也がどうしてそれを知るのかと不思議に思い、彩希に聞き返す。


『広瀬がどうして』

「広瀬さんの周りにいる人から、人へと動いて、とにかくここまで来たそうです。
後輩の方の書道の会とか、広瀬さんの人柄とか、とにかく……そういうことです」


彩希はそういうと、気持ちを落ち着かせようと息を吐く。


「間に入っていただけるのは、『雫庵』の娘さんである詩さんだと」

『詩……』


純は、社長の学に娘がいたことも知っていたが、それがなぜ広瀬につながるのか、

全くわからないままになる。


「それでももし、私の行動が『伊丹屋』にとって迷惑だと言われるのなら、
解雇でもなんでも結構です。ご迷惑をおかけしようという思いは、
1ミリもありませんから。とにかく、よろしくお願いします」


彩希はそういうと受話器を閉じる。

佐保は、彩希の話し声を聞きながら、

どれほど『伊丹屋』で辛い思いをしていたのかと考えながら、

黙ってお茶を湯飲みに入れた。



『今日の明日で、大変申し訳ありません。私が『岡山』へ同行できるとなると、
明日しか時間が取れませんでした』



拓也が読み返していたのは、詩からのメールだった。

拓也と彩希が、突然訪ねていっても、『和茶美』の菅山が、

なんだかんだとはぐらかすかもしれないため、

詩が一緒に行くことを約束してくれたのだった。

しかし、詩はこの数日間休暇を取ったことで、しばらくまた休みが取れなくなるらしく、

最後の有給日となる『明日なら』と、そう連絡を寄こした。



『社長の菅山が、視察旅行に行くことがあるようで、条件を合わせました』



詩が同行できて、菅山が『和茶美』にいること。

拓也の事情など考える隙間はなかった。

拓也は彩希の嬉しそうな声を聞き、これでいいと自分自身で納得する。



『広瀬、明日はこの先のことについて、佐々木部長と話をするつもりだ』



一足先に届いていた、益子からのメールだった。

拓也は気持ちを落ち着かせると、益子の番号を呼び出す。

数回呼び出し音が鳴り、声が聞こえた。


「お疲れのところ、申し訳ありません、広瀬です」

『おぉ……お疲れ様』

「部長……あの……」


拓也は、イベントが終了した次の日という、大事な日にもかかわらず、

急に休みを取らせてもらいたいのだと、益子に話した。


『休み? いや、広瀬……今、お前にメールを』

「はい、佐々木部長から、
イベントの25%アップと言われていたこともわかっていますし、
当然、報告をしろと言われるのもわかっています」


拓也は、それでも明日は会社に出ることが出来ないと、譲らない。


『理由は……』

「今は言えません」

『広瀬……』

「申し訳ありません、戻ってから説明をしますので」


何度も出社するように迫る益子に対して、

拓也は、それでも『いいえ』という返事しか戻さなかった。

電話を切ると、外すことさえ忘れていたネクタイに触れる。


「ふぅ……」


拓也はネクタイを外すと、携帯を持ち、『大林芳樹』の番号を呼び出した。



41F-③




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こんばんは

ナイショコメントさん、こんばんは

>広瀬さんの覚悟ですよね
 ももんたさんの作品は、エピがしっかりあって、登場人物に
 気持ちが入りやすいです

ありがとうございます。
エピソードは入れないとわからないし、入れすぎると大変なので、
いつもどうなのかなと考えるのですが。
気持ちが入りやすいと言ってもらえて、ちょっとほっとしています(笑)

最後まで、よろしくお願いします。