41F 逆風からの追い風 ③

41F-③


『東京駅』

彩希は、待ち合わせの時間よりも早く到着し、拓也が来るのを待つことにした。

『岡山』まではそれなりの時間がかかることもわかっているため、

何もないのは寂しいだろうと、お菓子や飲み物なども先に買っておく。

ビニール袋をぶら下げながらベンチの方へ戻ると、

そこには同じようにビニール袋を下げた拓也が立っていた。


「あ……」


互いに、同じようなものが入った袋を見る。


「おはようございます」

「うん……」

「今日は、すみませんでした」


彩希は精一杯頭を下げる。


「いや……」

「あの、広瀬さん」

「どうした」

「仕事は大丈夫ですか? 昨日『キセテツ味の旅』は最終日ですよね。
片付けとか、反省会とか……」

「お前が気にすることじゃない」

「そうですけど……」


彩希は、一応聞いてみただけですよと、拓也の横に座る。


「お前に連絡したあとで、お母さんにも来ていただくべきだったかと思ったけれど、
まぁ、お父さんにも事情があるだろうし、今日はとりあえず江畑だけで」

「はい……母もそう言っていました」


彩希はすぐに振り返る。


「まず、父が元気でいること、それからそのあとどうするのかは、
ゆっくり考えたらいいと……」

「うん」


彩希はそう言いながら、拓也の袋を見る。


「何買いました? 広瀬さん」

「売り場に行って、目に入ったものを適当に買った」

「適当……ですか」


彩希は、その割にはなかなかおいしいものを選んでいますよと、

お菓子の選択を褒めていく。


「店員がうるさく言うから、それにしただけだ」


拓也はそういうと、袋を横に置く。


「お前こそ、急に休みを取ることにしたんだろ、栗原……何か言っていたか」


拓也は、彩希にそう尋ねた。


「驚いていました。どうして広瀬さんが情報を知ったのだろうと。
私も、よくよく考えたら、そう思ったのですが。嬉しい方ばかりが先になってしまって」


彩希は、そういえば、大林さんの『書道の会』でしたねと笑顔になる。


「あぁ……。最初、あいつが書道を始めたと聞いた時には、
仕事だけでも大変なのにひまな男だなと思ったが、
江畑に『ひふみや』のことを賭けにされて、あの時実は、
その書道の会に出入りしている人が、『ひふみや』を知っていた」


拓也は、だから空の包み紙になったのだと、当時を振りかえる。


「はい、覚えています」


彩希は、懐かしそうに頷いた。

二人が待っているホームに、新幹線が到着する。

スピードがゆっくりになり、整列場所ピッタリに扉が収まり、そして開く。


「ほら、乗るぞ」

「はい」


二人はそのまま『自由席』の車内に入り、空いている席を探す。


「私、窓側でいいですか。景色、見たいですし」

「新幹線からの景色って、ほぼ山とかだろう。見たいのか」

「いいじゃないですか、はい、広瀬さんはこっち」


彩希は嬉しそうに奥の席に入っていく。

拓也は、本当に嬉しそうな彩希の表情に、『わかったよ』と言いながら、

通路側の席に座った。





『KISE』本社、3階、『寝具担当』

小川課長の朝は、特別慌ただしいことはないはずだった。

いつものように新聞を広げ、適当に見出しから選んだニュースを見る。

『お願いします』と言われた書類に目を通そうかと思った時、

真剣な顔をした芳樹が入ってきた。

自分の席に座るのだろうと思われた芳樹だったが、バッグだけを席に置くと、

そのまま小川の席の前に立つ。


「小川課長!」


芳樹は左手をデスクに『ドン』とついた。

周りの社員たちも、何が起きるのかと芳樹を見る。


「……なんだ、お前」

「話があります」


芳樹の、今までにような必死感が漂う姿にも、迫力は感じられないなと、

小川は『はいはい』と軽めな返事をしてみせる。


「真剣に聞く気があるのですか!」


芳樹はそういうと、さらに右手もデスクの上に乗せる。


「いや、大林……」

「聞く気があるのかと、聞いています!」


芳樹は、なめられては困ると言いたいのか、精一杯眉間にしわを寄せる。

小川は、昔、こうして何度も文句を言うために前に立った男のことを思い出す。


「……お前は、『好き』の病から、広瀬のクローンにでもなるつもりか」


小川はそういうと、とにかく落ち着けと、芳樹に向かって両手を前に出した。


「話とは……何かな……」

「頼み事ですよ!」


芳樹の言葉に、3階は同じ思いを持ち、シーンとなる。


「大林。頼み事にしては、口調がおかしいだろう。頼み事というのは……」


芳樹は小川の言葉には頷かず、『絶対にお願いします』とさらに力を込めた。





彩希と拓也。二人の乗った新幹線は、街の中からどんどん景色を変えていく。

話は、乗り込む前に途中となった、芳樹の『書道の会』に戻った。


「それが5人しかいない会なんだ、しかも先生を含めて」

「含めて5人ですか」

「あぁ……、『ひふみや』が、そこから出た情報というのにも驚いたし、
今回は、2人加入して7名になったと言われて。
その2名が、漆器職人の奥嶋さんご夫妻だとは、まさか思わなかったし」


拓也は、その人が『雫庵』の娘さんである詩さんと付き合いがあって、

跡取り問題が後ろにあることも、教えてくれたという。


「跡取り……」

「まぁ、今日、その辺も聞くことになるだろうから、
俺から説明することではないのだろうけれど」


拓也は隣にいる彩希の緊張した顔を見る。


「江畑」

「はい」

「いいか、お前、自分が飲み込めばいいんだなんて思うなよ。
お前が辛くて大変だったこと、この3年間、迷ったこと、全てぶつけていいんだからな」


拓也はそう言い切ったあと、『まぁ、自分が言うのもおかしいけれど』と、

また一言つけてしまう。


「プッ……」


彩希は、拓也の言葉が前に行ったり、後ろに戻ったりしている気がしておかしくなる。


「なんで笑う」

「おかしいから笑いました」


彩希はそういうと、これから『富士山が見えますよね』と嬉しそうに話す。


「あぁ、そうだな。せいぜい拝んでおけ」


そういうと、さりげなく携帯電話を見る。

昨日、電話をした芳樹から、今朝、『意気込み』と言える返信が入っていた。



『大林芳樹、全身全霊で、挑んできます』



拓也は、時間を確認しながら、携帯を閉じる。

『頼むぞ』思いながら、彩希の後ろから景色を見た。



41F-④




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