41F 逆風からの追い風 ④

41F-④


「広瀬から?」

「はい」


芳樹は、食料品第2ラインの部長、木村と親しい小川に対して、

どうしても伝えて欲しいと言うことを、代理で芳樹に頼んでいた。

今日、食料品に関わる上司陣が集まり、おそらく自分のことが話題になるだろうから、

それには何も異論を言わないこと、ただし……


「益子部長だけは、絶対に残して欲しいと」

「うん……」

「おそらく、部長本人が、一緒にラインを出ると言いかねないので、
それを阻止して欲しいと、木村課長にお伝えください」


芳樹は、拓也が自分が抜けたあと、益子がいなければラインのメンバーが困ること、

これからも少しずつ進み始めた改革が、

出来なくなってしまうことなどを話していたという。


「まぁ……うん」

「あの……」

「なんだ」

「実際のところ、広瀬さんは問題になるわけですか」


芳樹は、イベント自体は成功したし、売り上げも相当上がったはずだと小川に話す。


「どうして成功しているのに、ダメだと言われるのですか」


芳樹は、話を聞きながら納得が出来ないのだと小川に迫る。


「大林……」

「はい」

「正しいことを目の前でされると、自分にはそんな勇気が無いなと、
痛感させられる人間もいるものなんだ」


小川はそういうと、芳樹のバッグがある場所を見る。

そこは以前、拓也の席だった。


「守られていないと、次があると約束してもらえていないと、
気持ちが落ち着かなくなる……年を取るとだんだん……なぁ」


小川はそういうと、芳樹の肩を叩いた。

立ち上がり、軽く首を動かしていく。


「まぁ、あいつが全面的に受け入れると言うのだから、木村には伝えておくよ。
私も、益子部長が抜けることがいいとは、とても思えないしね」


小川の言葉に、芳樹はお願いしますと頭を下げる。


「……とここまでは、広瀬さんからのお願いです」

「ん?」


小川は話は終了かと思っていたため、『今度は何だ』と身構える。


「いえ、今から言うのは、僕が小川課長にお願いすることです」


芳樹は、両手を下におろし、背筋をピシッとさせると、深々と頭を下げる。


「広瀬が、『久山坂店』から出されないようにとでもいうつもりなのか」


小川の言葉に、芳樹は頭を下げたまま『はい』と返事をする。

小川は『ふぅ』と息を吐いた。


「悪いが、お前のその頼みは難しいな」

「どうしてですか」


芳樹は顔を上げると、今回のイベント成功は、

拓也なしではあり得なかったことだと必死に訴えた。

店の選択、売り場の構成、今までの『KISE』とは違う魅力を出せたからこそ、

新聞などでも記事が掲載されたと、主張する。


「相手を折るには、こっちも折れないと」

「……折る?」

「そうだ。『リリアーナ』に対しての落としどころを作らないと、
これからも歩み寄る場所がなくなってしまう。
イベント成功で、向こうだって考えたところもあるはずだ。しかし、そこで、
うちが無傷というのでは、収まりがつかないだろう」


小川は、誰かが責任を取らないとと、何度か頷く。


「でも……」

「それが組織だ」


小川は、最初の頼みは木村につたえておくと芳樹の肩を叩く。


「大林」

「はい」

「それにしてもお前は、本当に広瀬が好きなんだな」


小川は呆れたようにそういうと、新聞を折り始める。


「僕も、小川課長の言われたことに、当てはまるのかもしれません」

「ん?」

「正しいと思うことを目の前でされると、とにかく『かっこいい』と思うだけで。
一歩でも近づきたいと思うのに、全然ですから」


芳樹はそういうと、もう一度小川に向かって深く頭を下げる。

小川は、『保証はしないぞ』と言うと、少しだけ微笑んだ。





彩希が岡山へ行くと言ったことを聞き、純は出社してすぐに菅山へ連絡を入れた。

電話を取った事務員は、『お待ちください』と言うと、電話を保留状態にする。

流れてくるクラシックの音楽が、イライラを募らせている自分に対し、

無関心な振りをして音を奏でている気がしてしまい、

純のそばにあったメモ用紙を、ただグシャッと握りつぶす。


『はい、菅山です』

「朝早く、申し訳ありません。『伊丹屋』の栗原です」


純は、昨日、彩希が興奮状態のまま、『岡山へ行く』と話していたことを告げる。


『あぁ……はい。確かに今日お見えになるそうです』


菅山の言葉に、純は本当のことなのかと、唇を噛みしめる。

彩希が『伊丹屋』に入っていることは菅山もわかっているため、

まずは、『伊丹屋』からは情報を流していないと言うことを、はじめに語る。


『はい。情報は詩さんです。奥嶋恒夫さんからさらに流れたと……』

「奥嶋恒夫さん……あの……」

『そうです。イベントのあと、ご夫妻で『KISE』へ行ったようで。
細かくはわかりませんが、とにかく詩さんと江畑さんの家族がくるということに』


純には、菅山の話が、半分くらいしか理解できなかった。

イベントに顔を出したといっても、どうしてそこから話が広がるのかがわからなくなる。


「菅山さん、会わせるおつもりですか」


純は、向こうの要求通りにするのかと聞き返す。


『詩さんご本人から連絡が入りましたから、今回は会っていたただくつもりです。
詩さんは、聖と跡取り争いをするつもりはないし、これからの経営に、
口を出すこともしないと。まぁ、それならばと……』

「あの……」


『待てと言ったのはそちらだ』と言おうとした純だったが、

菅山は、純の言葉は聞かないまま、ことの流れを説明し、

これから準備があるのでと、電話を早々と切ってしまう。

純の耳には、ツーツーという不通の音だけが聞こえてきた。



経営戦略的に、年末までは動くなと話していた菅山が、詩の気持ちを聞き、

一気に方向転換させた。



純は自分たちと契約を交わすため、これから先の道筋を決めておきたいと、

『和茶美』から言われたことを思い出し、書類をたたきつける。

拓也よりも先に、『和茶美』の職人が、彩希の父親ではないかという情報を持っていた。

本人を『伊丹屋』に入れ、父親のことで軸を作れば、新しい展開があると、

そう思っていた。



『奥嶋恒夫先生が、広瀬拓也という男を、どうも評価しているようで……』



『雫庵』社長の娘である詩と、『雫庵』に対しても影響力を持つ漆器職人。

その二人を広瀬が知り、逆転のように『江畑晶』という人物を知る情報を抜きさった。

純は携帯を取り出すと、エリカのアドレスを呼び出し、

どうしても聞きたいことがあると、メールを打ち込んだ。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?


【41】佐賀   小城羊羹  (小城羊羹の協同組合に所属する羊羹の店で製造・販売される羊羹)



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