43F 眠りから覚める思い ④

43F-④


「おじいちゃん」

「自分勝手に出て行ったんだ。今更、いいだろう」


新之助は、『どれほど心配し、みんなが自分を責めたと思っているんだ』と、

彩希たちに背中を向けながら、つぶやいていく。


「何が指導だ。あいつにそんなこと……」

「お義父さん。晶さんは日本一不器用な人です。
でも、日本一、『福々』を愛していたと思います」


佐保はそういうと、新之助の方へ近づいていく。


「私も、そのまま許そうだなんて思っていません。ほっぺたを数発叩こうと思っています。
でも、それでおしまいです」

「佐保さん」

「いなくなってしまって、一緒にいられなかった時間があったから、
一緒にいられることの大切さも、今、痛感しています。突っ張って、背を向けたら、
また寂しい時間がつながるだけですよ」


佐保の優しい台詞に、カツノは『ありがとう』と礼を言う。


「お義母さん」

「佐保さんが一番苦労をしてきた。あの子が守らないとならないものを、
みんな置いてしまったから」

「いえ……」

「それでもね、私たちもあとどれくらい生きていられるかわからない。
それなら、いがみ合う時間を、これからも作る必要など、ないじゃないですか、
お父さん」


カツノは、晶に会いましょうと新之助の腕を取る。

新之助は何も反応を示さないまま、ただ、窓の外を見続けた。





「おじいちゃん、会わないつもりかな」

「会ってくれるわよ、きっと。だって、『岡山』まで行ってくれたのよ」


彩希は、『あゆみの丘』の帰り道、笑顔になる母を見ながら、

そうだよねと頷いていく。


「ねぇ、彩希」

「何?」

「こうして出てきたのだから、『KISE』によろうよ。
お母さん、『かもと』のお菓子が食べたくなった」

「エ? 今日?」

「そうよ」


佐保は、乗り換えたらすぐに行けるわよと、路線図を見始める。

彩希の脳裏に、ふっと昨日の時間が戻ってきた。

将来の約束とか、これからの時間とか、何も言葉があったわけではない。

ただ、これまで過ごしてきたことの積み重ねが、二人の中で重なった結果、

それがあのキスなのだと、窓の外を見る。


「そうだね、こんなふうにお母さんと外出もなかなかないし、
おいしいものでも、食べて帰ろうよ」

「そうそう、そうしよう」


彩希と佐保は揃って乗り換えの駅で降り、『KISE』の『久山坂店』を目指す。

階段を降りていくと、ちょうどホームに電車が入ってきたため、

少し慌てながら乗り込んでいく。


「はぁ……」

「よかった乗れたね」

「やだ、もう、階段転ぶかと思った」


佐保はそういうと楽しそうに笑い、彩希も母の穏やかな表情を見ながら、

自然と笑みが浮かんだ。





佐保と彩希は揃って駅のホームに降りると、そのままエスカレーターに乗った。

改札を出ると、右側に折れる。


「辞めてから久しぶりに入る」

「そう」


彩希は目の前に迫る『KISE』の入り口を見ながら、

鼓動が少しずつ速くなるのを感じていた。『伊丹屋』に移ったからこそ、

この入り口の温かさをあらためて感じてしまう。

中の様子が、ガラスの向こうからわかるような、そんな親しみ感が、

とても懐かしく、また貴重なものに思えてきた。


彩希たちは、あちこちからかかる『いらっしゃいませ』の声に、迎えられる。

正面から地下に向かうエスカレーターに乗り、降りていくと、

フロアが少しずつ色分けされてあり、その売り場の関連性が見て取れた。

まつばの企画が、こう生きたのだと、あらためて気づく。


「いい匂い」

「でしょう、こうした時間に、どういう香りが来るのか、計算されているんだって」


彩希は食料品売り場に降りると、惣菜コーナーにいるはずの恵那を探した。

恵那はトングを持った状態で、彩希を見つける。


「あ……バタちゃん」

「恵那、久しぶり」


彩希の声に、佐保も振り返り恵那に頭を下げる。

恵那は、『水原です』と佐保に挨拶をした。


「やだ、急にどうしたの」


恵那は嬉しいけれど、急だったから驚いたと笑う。


「ちょっと二人で出てきたからね。母が、『かもと』のおせんべいを買って帰るって」

「そうなんだ」


彩希は、派遣の会社に入ってからずっと仲良くしてもらったのだと、恵那のことを話した。

佐保は、『お世話になります』と頭を下げる。


「いえいえ、私なんてとても……」


恵那は『どうぞごゆっくり』と言うと、彩希と佐保を見送った。

すぐに思いついたことがあったのか、売り場の先輩に声をかけ、ロッカーに走って行く。



『長岡まつば』



恵那が電話をかけたのは、まつばだった。

まつばは受話器を握り、『そうなの?』と声を出す。


「うん、うん……わかった」


まつばは受話器を閉じると、横にいる寛太の肩を叩く。


「なんですか」

「ちょと売り場に行ってくる。バタちゃんがお母さんと来ているんだって」

「エ? 江畑さんがですか」

「そう、会ってくる」


まつばは仕事の途中になっているファイルを横に置き、部屋を出て行く。

寛太は、慌てて出て行ったまつばのファイルを取ると、

微笑みながら、数枚束ねてホチキスで留め始めた。



「はい、バタちゃん、720円です」

「はい」


恵那がまつばに連絡をしたとは知らない彩希は、

佐保と一緒に『かもと』のおせんべいを買うと、その袋を受けとった。

目的は果たしたのだからと彩希は店内を見るが、そこから足が動かなくなる。

お客様が、何か宝物を探すように、こちらを見た後、あちらを見た。

店員はガラスケースの中から、小ぶりのケーキを取りだし、箱に詰めていくと、

ピンク色のかわいいリボンをつける。

『竹ノ堂』の羊羹も、『千波庵』の抹茶ロールも『Candy』のチョコレートケーキも、

彩希にとっては、確かな感覚として残る、味の一つだった。

どこかごちゃついたところも残っているし、店員とお客さも隔たりがあまりなく、

おいしいものを見つけたら、一緒に笑えるような、そんな雰囲気が『KISE』にはあった。

何かを作り上げようとする、もう少し前に伸びようとする、

まだ無限大の力が、そこに潜む気がしてしまう。


「バタちゃん!」

「あ、まつば」


まつばは佐保に気づくと、『長岡まつば』ですと頭を下げた。

彩希は、食料品第3ラインで一緒に仕事をした仲間だと、まつばのことを話す。


「あぁ……『第3ライン』って、広瀬さんがいる」

「あ、うん」

「はい、そうです」


まつばは『お父さんに会えてよかったね』と彩希に語りかける。


「うん……」

「ラインのみんなも、本当によかったって、昨日は話をしたの」


佐保は、『広瀬さんはいらっしゃいますか』と、まつばに尋ねた。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?


【43】熊本   いきなり団子  (薩摩芋と餡を、餅をや小麦粉を練って伸ばした生地で包み、蒸す)



44F-①




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント