46F 切れない絆 ④

46-④


「そうそう、ほら、奥嶋先生。バタちゃんのお父さんの話に関わってくれた」

「うん」

「あの先生の個展が、うちで開かれるんだよ」


彩希は、拓也と挨拶に行った日、そういえばそんな話が出ていたことを思い出した。

まつばは、奥嶋が最初、食料品売り場でやりたいと言いだし、

大変だったのだと彩希に説明する。


「個展を食料品売り場で?」

「そう、それでみんな困ってしまって。広瀬さんが向こうから来てね。
佐々木部長にガンガン言ったらしい。まぁ、当然怒られたけれど、
アイデアだけは荒木君に残してくれて。で、広瀬さんが作ったと知らない佐々木部長は、
そうか、荒木君、それはいいなと、そのアイデアを採用したわけ」


まつばは、寛太は元々、第1ラインの手伝いをすることが多く、

佐々木部長のうけがいいからねと言った後、

それでも広瀬さんの方が、1枚上手だよと笑って見せる。


「そう……」


あの日は、担当社員に話を振りますと言っていた拓也が、

やはりそうして企画を出しているのかと、彩希は納得する。


「それがさ、奥嶋先生の展示される漆器を、こっちに持ち込んで、
ブースに配置してお菓子を入れてもらうのだけれど、スパッと決まる店と、
決まらない店もあって、ふとバタちゃんを思い出しちゃった」


まつばは、味比べとは違うけれどと、彩希を見る。


「バタちゃんが売り場にいてくれると、安心なんだよね……」

「そんなこと……」

「ううん、私だけじゃないよ。大山さんも、荒木君も言っている。
なんだか物足りないよねって。あ、もちろんチーフたちも協力してくれているけれど、
ほら、私たちはさ、バタちゃんと仕事していたから、何か疑問に思うと、
すぐに解決できたというか、逆に問題提起も出来たりして……」


まつばは、戻っておいでよと、あらためて彩希を誘う。

彩希は、首を横に振ると、『広瀬さんは』と言い出した。


「佐々木部長に逆らって、大丈夫なのかな」

「あぁ……うん。途中で飛び出した会議の後、
怒った佐々木部長が文句を言いに来たけれど、
待ってましたというように、今度は、益子部長が負けずに言い返していたからね。
益子部長と広瀬さん、あの二人も、絆が切れていないのよ」

「益子部長、なんて言ったの?」

「うん……。私は、部下に思ったことは全て口にするようにと言ってきました。
それは自分自身が未熟だからです……って」

「うん……」

「未熟な部分を補ってもらうためには、遠慮されていては困るのでと」


彩希は納得するように頷いていく。


「佐々木部長のように、部下の意見など聞かなくても、
全てお見通しだと言い切れる強さは、私にはありませんってね」


益子は、『第1ライン』のメンバーが、全員佐々木に意見を言うことなく、

黙っていることを知っていたため、あえてそう話したのだという。


「佐々木部長、血管が切れそうだったと、荒木君が言ってた」


まつばは、本当に第1ラインはおもしろくないからと、苦々しい表情を見せる。


「そうなんだ」


彩希は、拓也が今もお客様のために頑張っているのだとわかり、少しだけほっとした。





恵那とまつばを加え、3人の夕食会は彩希にとって、

久しぶりに心から笑えるものになった。恵那の話を、まつばの話を聞きながら、

やはり『KISE』はいいなと思い始める。

それでも、もう自分が行く場所ではないのだと心に言い聞かせ、その日は家に戻った。





「おはようございます、広瀬さん」

「おはよう」


拓也は届いた書類を見た後、今日は売り場に顔を出し、

あらたな企画を考えようと思いながら、バッグを置いた。

古賀は、発言する予定もないのに、4店舗会議に出席している。


「広瀬さん」

「何?」

「お客様です」

「客?」


拓也は、ここに来て、業者と会うこともなかったしと不思議に思う。


「誰?」

「河西冬馬と話してくれたらわかると」



『河西冬馬』



「あ……」


拓也は『わかりました』と話すと、1階のインフォメーションセンターまで向かった。

そこには確かに冬馬が立っている。


「お待たせしました」


拓也の声に、冬馬は頭を下げる。

きちんとした再会は、ネックレスの事件以来だった。


「忙しいところ、すみません、話しがあります」


冬馬がそう言ったので、拓也は外に出ましょうと『橋岡店』の扉を前に押した。





拓也と冬馬は、『ファミレス』に入ると、揃ってドリンクバーを注文した。

ウエイトレスが離れた後、冬馬が拓也を見る。


「『橋岡店』に移ったと知らなかったので、ちょっと時間がかかりました」

「そうですか、申しわけない」


拓也は、今日はなんだろうかと冬馬を見た。冬馬は姿勢を直す。


「まどろっこしく言うのは嫌いですから、失礼だとかそんなことお構いなしに、
言わせてもらいます」

「はい」

「彩希の父親を探し出してくれて、ありがとうございました」


冬馬はそういうと、拓也に頭を下げる。


「いえ、そんなことは……」

「広瀬さん、あなたにとって、8年前の出来事を、これで償って終えることが出来た。
そんな感情ですか、今は」


冬馬の少し挑発的な言い方に、拓也の表情が変わった。


「過去は過去で、ゼロにはならないけれど、それ以上のことをした。
もう、君にものを言われることはないと、そう清々した気分でしょうか」

「どういう言い方なのかな、それは」

「彩希は、少なくともそう思っています」


彩希のことを出され、拓也はさらに納得がいかなくなる。


「江畑がそう言ったと……」

「彩希は、あなたがやっと昔の出来事から解放されたと、だからこそ、
自分はもう『KISE』に顔を出すべきでないと、そう言っています」


冬馬は、ここまで来たのだからハッキリ教えて欲しいと拓也に迫る。


「俺は、あいつが好きです」


冬馬の宣言は、まっすぐに拓也に届いた。

ネックレスを売りつけた日、どこかおどおどした視線で拓也を見ていた冬馬とは、

全く違う人のように、堂々とした姿勢になっている。


「あいつを幸せにしてやりたいと思っています。
あなたも知っているとおり、俺は、色々と迷惑をかけたけれど、
それはこれから、取り返そうと思っています」


冬馬は口を強く結ぶ。


「今は、昔なじみとしか思ってくれなくても、これからの時間を共有していけばと、
そう……」


そこまで勢いよく進んでいた冬馬の言葉が、だんだんと遅くなる。


「広瀬さん、あなたがもう過去を清算し、これから新しくと思うのなら教えて下さい。
俺は、何年かかってもあいつのことを支えていくつもりです」


拓也にとって、彩希との時間が、この先続くことがないのなら……

そんな意味を感じ取れる言葉に、拓也は黙って前を向き続ける。


「でも……」


『でも……』の続きを、冬馬は一瞬、口にするのをためらった。

出してしまったら、元には戻らない。

それでも、時を止めるわけにはいかず、前を向く。


「でも……もし、彩希の事情を全て知って、
それでも、これからのあいつを支えてやろうと思う部分があるのなら、
しっかり伝えてやってください。あいつは……あなたにとって、
自分自身も、過去の消してしまいたい出来事に入っていると、思っています」


冬馬はそういうと、拓也を見る。


「あの日から……あの駅の階段で、あなたに責められたときから、
俺は、あなたに勝ちたいと思って、これでも努力してきました。
彩希を利用していると言われて、その通りだったけれど、悔しくて。
それを跳ね返そうと努力したつもりです。あいつのためになること、
あいつを喜ばせてやることって……でも、あいつの求めているのは、俺じゃない」


冬馬はそこまで言うと、一度息を吐く。


「俺じゃ……ダメなんです」


そういうと、『教えて下さい』ともう一度言葉を送り出す。

しばらく二人の間に、静かな時間が流れた。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?


【46】鹿児島  ボンタンアメ  (餅に水飴を練り込み、ボンタンの果汁を添加した求肥飴)



47F-①




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント