1 追憶の空 【1-2】

【1-2】


『清廉高校』


私や蒼が通っている公立高校。

あと1週間後には、学園祭が行われる。

学年は3年生の方が上だが、大学受験の準備があるため、

実際にお祭りを仕切るのは、毎年2年生と決められていた。

つまり、私たちの祭りが、行われると言うことになる。


「風音、こっち」

「ちょっとまってよ、みずな」


『吉村みずな』は、同じクラスの女の子。

おとなしくて涙もろいところがあるけれど、それでも、とにかく優しい子で、

いつも私と一緒にいてくれる。


「あ……蒼、ねぇ、こっちを手伝って」


バスケ部所属で、成績も良く、先生や先輩からの信頼も厚い蒼は、

クラス女子達だけではなく、後輩からも人気があった。

とにかく話したい、関わりたいと思う人が多く、気づくといつも周りには人がいる。

『ふくたろう』のそばではあれだけ話せるのに、

私は、蒼と学校内でほとんど口をきいたことが無かった。


「おい、石本。これ頼む」


そういって、ポスターを片手で振る男。


「頼むって何?」

「頼むってお願いしますってことだろう」

「そういうことを聞いているわけではないけれど」


『田島琉成(りゅうせい)』、蒼と同じくバスケ部所属。


「俺さ、バスケの方で忙しいんだよ、クラスのポスターだから、
お前でも貼れるだろう、ほら」


田島はポスターを私に向かって放り投げてきた。反射的に受け取ってしまう。


「頼むぜ!」

「あ、ちょっと、田島!」


蒼よりも背は低いくせに、ちょこまかしていて、逃げ足がとにかく速い。

高校部活程度なら、あの落ち着きのなさで通用するらしい。

周りを見ても、頼めそうな人はいないので、結局、私が貼ることになってしまった。


「風音、もうちょっと、右」

「右? これは?」

「あぁ、行き過ぎ」

「行き過ぎ? やだなぁ、みずなが右って言ったんだよ」


田島から渡されたクラスの出し物を知らせるポスターの位置、

これがなかなか決まらない。

どこかのクラスに脚立があるはずだけれど、どこにあるかわからないし、

探すのは面倒なので、先生にはナイショで、クラスのロッカーに乗り、

なんとか取り付けてしまおうと奮闘する。


「あ……ダメ、ダメ、下がってる」

「ウソ……手が無理、これ以上届かない」

「なぁ、スカートの中、下からのぞいてやろうか」


振り向くと、そこには蒼がいて。

私はポスターが落ちてしまうことも構わず手を離し、

とりあえず覗かれないように、スカートの裾を押さえた。


「最低な台詞。そんな台詞を下級生が聞いたら、蒼先輩が下品なことをって泣かれるよ」

「冗談だ、バカ」


蒼は下に落ちたポスターを拾うと、軽くロッカーに飛び乗り私の横へ来て、

あっという間に配置を決める。


「おい、吉村」

「うん……バッチリ、大丈夫」

「よし」


この私が、数分奮闘していたのに、たった数秒。


「まぁ、どうも」


一応、言うべきだよね。


「お?」

「何よ」

「お礼らしき言葉が、風音にも言える訳か」


人がお礼を言うという行為が、それだけおもしろいのか楽しいのか、

満面の笑みっていうのはこういうことだと言うような……



そう……『世界一の笑顔』をあいつは見せてくる。



「イタッ……」


おまけに、指でおでこをはじかれた。しかも、結構強め。


「痛い? そんなわけない」


そういって、蒼がロッカーの上から飛び降りると、

廊下には『新井絵史(えふみ)』の姿があった。


「蒼、ここにいたの? 急にいなくなるから探した」

「急にいなくなってはいないだろ。ふらっと出るって言ったし」


絵史は私の方をチラッと見た後、蒼の腕を引っ張りながら、いなくなった。

明らかに、こちらに対して不満な思いを持っているという意味の態度。


「今の絵史……」

「うん」


ほとんどの女子高生が、校内や校外に思う人を作っても、

なかなか気持ちを表現できないのに対して、

絵史のように、堂々と思いを見せようとする人もいる。

みずなは、絵史の性格は苦手だと言うけれど、

私は少しうらやましいなと思うところもあった。


振り返ることなど出来ない、高校時代。

貴重な時間、あんなふうに、思いきり自分を出せたら……


「よし、終了」

「うん、終了」


実行委員にも名前を連ねている蒼たちは、まだまだ忙しいだろうが、

『その他大勢』の私の仕事は、これで終了した。





最寄り駅で電車を降りて、そこから歩く。

商店街を抜けると、少しずつ家が増え始める。

私の家は公営住宅だが、造りが古いため鉄筋の集合住宅ではなく、

平屋の一軒家タイプだった。

6軒が等間隔で並び、その横には『橋爪クリーニング店』がある。

ここのご夫婦は、顔を合わせるとよく声をかけてくれたり、

うちが母子家庭なことを知っていて、田舎から送ってくるものを、

お裾分けしてくれたりもする。


「お帰り、風音ちゃん」

「ただいま」


今はチェーンで契約をするクリーニング店が多いけれど、

橋爪さんは、工場も兼ねているため、いつも小さな煙突から湯気が出ていた。

帰り道、この目印が見えると、戻ってきたなという気持ちになる。

ご夫婦には子供がいないため、数人働かせている従業員を、

子供のようにかわいがっていた。ひとりはバイクが大好き、もう一人は読書好き、

そして一番最後に入った社員の男性は、お菓子を作るのが趣味だ。


「ねぇ」

「何?」

「30分くらい前かな、40代後半くらいの男の人がさ、
風音ちゃんの家に、訪ねてきたみたいだったけど」

「男の人?」

「顔をハッキリみていないからわからないけれど、でも、風音ちゃんの家の前で、
何度もノックしたり、裏を見たり、ねぇ……」


奥さんは奥にいるご主人に声をかける。

暖簾をあげるようにして、奥からご主人が顔を出してくれた。


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