1 追憶の空 【1-5】

【1-5】


帰り道、先に戻ったという母を探すように左右を見ながら、家までの道を進む。

それでも結局、母には会わないまま、家に着いてしまった。

いつも同じ道を帰ってくるはずなのに、

おかしいなと思いながら自転車の鍵を下駄箱の上に置き、

部屋の電気をつけようとした時、背中の方でカチャンと扉が開く音がした。


「あ……お母さん……」


母だと疑わなかったその人影は、もっと大きく、月明かりも街灯の明かりも、

全く届かないくらい、私の目の前で視界を遮った。

一瞬にして、全く見えないくらいの闇が訪れて。

カチャンと鍵の閉まる音がして……


「あ……」


母ではないことだけは、ちゃんとわかったのだけれど……


「お前か……娘ってのは」


男の声。それとものすごいお酒の匂い。


「誰……」


とにかくこの場を離れようと、私はあとずさりをしようとしたが、

その男はいきなり人の首あたりをつかむと、思い切り私の顔を殴りつけた。


「キャー! 助けて」


最初は大きな声が出せた。

『痛い』とか、『やめて』とか、それなりに抗議の台詞も出せたのに、

2発、3発と殴られているうちに、意識がもうろうとしてきて、

とても声なんて出せるような状態ではなくなって。

そこら辺のものを投げたりしながら、それなら体だけでも避難させようと、

必死に動いてみても、男の力に、あっという間に引き戻されて。


終わりのないような暴力が、ずっと続いて。

両手を夢中で顔の前に出し、息をするだけで、精一杯くらいな状態になると、

今度はその男が、『バカにするな』と言いながら、私の足や腰を蹴り出した。

サンドバックではないのに、もう……



「メチャクチャにしてやるからな」



『メチャクチャ』って……何?

どうして私がそんなことを言われないとならないの?

そこから静かな時間が来て……

胸元に触れる、冷たい指の感覚……



嫌だ、私は、この男に……



誰か……



誰か……助けて。




蒼……




ガチャンと大きな音、そして……


「風音ちゃん!」


確かに届いたこの声は、『橋爪クリーニング店』のおじさん。

その後、人がなだれ込むような音と、声と……

そこからの記憶が、何もない。





私は、気づくと、病院のベッドの上にいた。





『ピッピッ』という、機械音。

よく、テレビドラマで見たな。

これって、私の心臓が動いているのか調べているのかもしれない。

うっすらと見える管は、おそらく点滴。

『お母さん』が横に座って、うなだれている。

声を出して呼びたいけれど、口を動かそうとすると、とんでもなく痛い。

そうだった、顔、とにかく殴られて。

鏡、見たらショックで倒れるくらいなのかも。

比較的、痛みの少ない手で母に触れる。


「あ……風音」


『私は生きているよ』とわかるように、手を細かく動かした。





あの突然の出来事から、私はほぼ1日、麻酔の状態も含めて眠っていたと聞く。

楽しみにしていた『学園祭』は、終わってしまった。

蒼との約束、果たせなくて。

あいつ、どうしただろう。

担当医がそばに来て、状況を説明してくれた。

私はやはり、相当顔を殴られたらしく、鼻の骨が折れていた。

手や足にも打ち身、肋骨も数本折れた。

それでも、命に別状があるわけではなく、脳の検査でも、異常はなかったと言う。


「風音ちゃん、よかったよ」


橋爪さんが、あの日、私の叫び声に気付き、外に飛び出してくれて、

玄関が閉まっていたので、窓ガラスを割り、

おじさんと従業員さんとで、部屋になだれ込んだと教えてもらう。

男は、相当酔っていたようで、従業員さんが体を引っ張ったら倒れてしまい、

うちの下駄箱に頭をぶつけ、脳しんとうを起こしたと言う。

そのまま警察が来て、もちろん逮捕となったわけだけれど、

いつもは静かな公営住宅の前は、野次馬が集まり、ちょっとした騒ぎになったと聞く。


「ごめんね、お母さんが悪いの」


以前、母にかかってきていた電話は、その男からだった。

『ふくたろう』に来ていた常連の男は、母に好意を持ち、付き合わないかと誘ったらしい。

最初は話も楽しく性格もよく見えて、母もまんざらではなかったが、

酒を飲む量が少し越えてしまうと、急に気持ちが大きくなることがあり、

付き合いは出来ないと、断ったという。

私は、母がそんな思いをしていたことも、全く知らなかった。

もし、知っていたら、多少注意していたかもしれないし、

以前、橋爪さんに男性が訪ねてきたと聞いたときも、それを母に伝えるなり、

違った感覚で、考えられたかもしれない。

まぁ、今更、あれこれ言っても、時間は戻らない。


「もういいよ、お母さん」


入院してしばらくすると、私の口も動くようになって。

不幸中の幸い、内臓や脳には全く影響がなかったので、

とりあえず退院するめどもついた。

学園祭が終わり、テストに向けて、みんなはきっと勉強モードに入っただろう。

ただでさえ、進んでいるわけではない勉強なのに、この休みの間のこと、

みずなにちゃんと聞かないと。

久しぶりに携帯を開き、連絡でもと思った時、いつもなら来ないような人から、

履歴があった。



『石本、お前、大丈夫か』



以前、クラスが一緒だったことはあるけれど、個人的に連絡などあまりしたことがない。

その人からどうして連絡が入るのだろう。

とりあえず『大丈夫です』と返信しなければならないと思っていたら、

また別の人からのメッセージが届いた。



【ももんたの小ネタ交差点 1】

携帯電話の普及率、2018年に高校生スマホ所有率は94%越えだそうです。
これは、持っていない子を探す方が大変なのか……。電車内で本を読む人も減るわけだ。
通信料など、もっと安くしましょうと議会の話題に出ていた気がするけれど、
どうなっているんだろう……安くなっています?



【2-1】



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