2 別れの朝 【2-1】

2 別れの朝

【2-1】


『体、大丈夫』



最初に連絡をくれるのなら、みずなだと思っていたのに、

みずなからは何もなくて。なんだか急に増えた親戚のような、

『友達』とも言い切れない相手の言葉に、違和感だけが増していく。

私は病院内で携帯が使える場所まで歩き、みずなに連絡をした。

しばらく鳴り続ける電話。


『はい』

「あ、もしもし、みずな、私、風音」

『……うん』


みずながおとなしい性格なのは知っている。でも、どうしてこんなふうに、

よそよそしく思えるのだろう。


「みずな、ねぇ、どうしたの? 連絡、したらまずかった?」

『ううん、違うの。ごめんね、私がしないといけないのに』

「そんなことはどうでもいいよ」


私は、みずなに学園祭がどうだったのか、勉強の抜けているところが出来たので、

ノートを貸して欲しいことなど、そのまま話した。

みずなは何も言わないまま聞き続ける。


「みずな……ねぇ、何かあったの?」


あれから病院に居続けた私には、学校のことなど何もわからない。

外の世界を知っている、みずなだけが頼りだ。


「わかっていることがあるのなら、教えて。あのね、妙なの。
あまり話したこともない人から大丈夫かって連絡が来たりしていて。どうしてかなと」


そう、違和感がある。

私はみずなにとにかく話して欲しいとすがった。

みずなは『そうだよね』と覚悟を決めたのか、大きく息を吐いている。


『新聞の地域ページに、風音の家で起きたあの日のことが載って……』


新聞の地域ページ、写真はなく本当に小さな記事が出た。

狭い町の中だから、すぐにどこの家なのか誰なのか、そんな噂が流れ、

突然の出来事が、学園祭というイベントの中で広まったという。

私は顔をとにかく殴られてしまって、暗い中での出来事だったから、

ハッキリと男性の顔も見ていない。

覚えているのは、何やら文句を言っていたこと、殴られたこと、



そして、胸元に、一瞬、男の手が入り込んだということ……



『それだけのはずだったの。でも、いつの間にか……
風音が、男の人に……されたって』



みずなは苦しそうにそう言った。

つまり、私があの男に、犯されたという話。


「そんなことない」

『うん、わかっている。だって、音がして数分で飛び込んだって、
クリーニング店の人の話があったし、普通に考えたらそうだもの』


しかし、噂というものは『好きなように尾ひれをつけて伸びていく』

助けに入ったクリーニング店の従業員たちが、

その男を引っ張ったら、酔っ払っていて、ふらついたために

頭をぶつけたということが事実なのに、

なぜだか、男がズボンのベルトを外し半分脱いでいたので、

バランスを崩して倒れたとか、意識を失っていた私は、下着姿だったとか、

あまりにも身勝手に、そしてウソだらけに、真実を確かめることもなく、

広まってしまった。


『私たちは、わかっているから』


みずなはそう強く言い切ってくれた。

そう、私の周りにいてくれた人たちは、きっと、信じてくれるだろう。

私が違うよと言えば、そうだよねと、明るく笑ってくれるはず。



蒼……



蒼は、どう思っただろう。





みずなとの電話を切った後、悔しくて涙が出てきた。

誰がそんな噂を広めたのか。

思い出したくない出来事なのに、私はこうだった、ああだったと、

潔白を証明するために、出来事を事細かに話さないとならないのだろうか。

あと数日で、退院なのに。

残りの学生生活を、頑張って……



『俺、風音のことが好きだから』



蒼と、これから笑い合って、貴重な時間を一緒に過ごすはずだったのに。

なぜ、泣かなければならないのだろう。



こんなに苦しい思いを、どうして私がしなければならないのだろう……





みずなが話してくれたことが、哀しいけれど、ほぼ間違っていないと言うことを、

私はその日の夜、母からもう一度、聞くことになった。


「何よ、それ。私は、あいつにそんなことされていない」

「うん……それはわかっている。
橋爪さんも男の人がベルトを取ってなんていなかったし、
それにそんな時間もないくらい早く、飛び込んでくれたって言うし、
風音も、何か起きたような、そんな感じではなかったって」


『そんな感じ』

現場を見た人は、数分間の出来事を、わかってくれている。

でも、再現することは出来ないから、身勝手に広まった噂を、

完全消滅させることも出来ない。


「いいよ、わかった。でも私は悪いことをしていないから、堂々と学校に行く」

「風音……」


母は、明らかに哀しそうな顔をする。

辞めて欲しいと、心が叫んでいるように見えた。


「お母さん、どうしてそんな顔をするの」

「お母さんの責任だもの、本当に悪いと思っているの。
堂々とって言っても、これからまだまだ卒業まで時間もあるし」


卒業まで……確かに1年以上ある。


「だったらどうするの」


このまま、くだらない噂に潰されるのは、もっと嫌。


「学年主任の先生に、転校を勧められたの」

「エ……」


私の噂はウソだと信じてはいるが、多感な年頃の子供たちだから、

完全に打ち消すことは難しいと、頭を下げたという。

ここはあえて無理をせずに、転校という手もあると、

教頭からも電話があり、母は『そうですよね』と頷いてしまった。


【2-2】



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