2 別れの朝 【2-3】

【2-3】


「『今は、人に会いたい状態ではないから会わせられない』って、
先生に言われたって。悔しそうに病室を見ていた」

「うん」


事件の3日後、もう起きていたし、話に頷くことも出来た。

しかし、顔の腫れは相当なものだったし、確かに会いたかったかと言われると、

頷くことが出来ない。


「その後も、蒼は何度か行ったみたい。お前は会えたのかって、学校で聞かれたし」

「うん……」

「だから、行こうと思ったけれど、先生に顔の状態とか聞いたから、
退院して風音が会ってもいいと思えたら、会いに行くってそう答えた」


私がみんなを求めたら……

そうか、だからみずなは電話をかけるまで……


「男の人に会うことは、当分難しいかもしれないし、
特に同級生は辛いだろうって、蒼、言われたらしい」


蒼の言葉があり、絵史たちは医師のコメントを身勝手に解釈した。

『男の人に会うこと』、『同級生に会うこと』その両方が辛いと言うことは、

やはりそれなりのことが、男と起きたのだろうと、噂はがっちりと地に足をつけて、

歩き出してしまったという。


「そうか、そうだったんだ」


あの日、最後に別れたのは蒼だった。

明日は一緒に、学園祭で『夢コメ』を書こうと言って。



『風音が好きだ』



そう言ってくれた日。

私の最高の日は、最低の日になって……


「みずな、ありがとう、教えてくれて」

「うん」


蒼に会おう。

埼玉に越すから、もう会えなくなるかもしれないけれど、

あの事件が、私たちの最後になって欲しくはないから。





私は『ふくたろう』に向かって、その日の夜、自転車を走らせた。

母は、事件があり仕事をやめてしまったが、蒼のお母さんはまだ、働いているだろう。

自転車で店に近づいていくと、大きな車が止まっていて、

そこから降りた男性が、腕にはめた時計をじっと見ていた。

あまり見たことがない車。なんだろう、ニュースで出てくるような、

おそらく高いだろうなと思える、高級車に見える。

私は、いつもの場所に自転車を止めて店を覗く。

そこには蒼のお母さんが、片付けをしている姿があった。

携帯電話の時計、もうすぐ10時だ。

いつもの蒼なら、とっくに来ている時間なのに。

今日は塾、行かなかったのだろうか。

それから20分後、お店の扉が開き、蒼のお母さんが出てきた。

黒い車の男性が、あらためて降りてきて……


「風音ちゃん」

「こんばんは」


おばさんは頷くと、すぐに蒼に会おうとしたことがわかったのか、

今日は来ないのよと教えてくれる。


「あ……そうなんですか」

「蒼ね、バスケの地域選抜に選ばれて、今日から5日間、出かけているの」

「地域選抜? 本当ですか」

「そうなの、本人も驚いていたけれど、せっかくだからって、先生にも推されて」

「そうですよ、それはすごい」


私がもっと蒼のことを聞こうとした時、クラクションが軽く鳴った。

おばさんは男の人の方を見る。


「ごめんね、風音ちゃん」

「あ、いえ、すみません」


誰なのかはわからない。

蒼のお父さんは、小学校の頃、仕事の事故で亡くなったことだけは聞いている。

となると……

おばさんは、私の目の前でその男性の車に乗り込み、お店を後にした。



5日間。



『地域選抜』なのだから、いくのが当たり前。

嬉しくて、素晴らしいことなのに、

私の引っ越しが終わる次の日に、帰ってくるなんて……

なんだかな。



会えないことがわかった私は、せめてもと蒼にあてて手紙を書いた。

学園祭での約束を守れずに申し訳なかったこと。

あんな出来事が起きたけれど、私はしっかりと前を向いていて、

噂は全くのウソだということ。

そして、大学受験をして、また東京に戻ってくるから……



そうしたら……



また、会いましょうと……



引っ越しの日の朝、自転車で蒼の家に向かう。

間違えないようにポストを数え、そして手紙を中に入れた。

誰かに連絡先を聞き、あいつと携帯でのやりとりをするという方法もあったが、

私と蒼が話したのは、『ふくたろう』の前ばかりだったし。

あんなことがあった私と、連絡など取っていると言われることが、

今の蒼のマイナスになってはいけないと、そんな思いだけが心を占めていて。





「さて、行きましょう」

「うん……」


引っ越しには、隣の橋爪さんご夫婦が顔を出してくれた。

母も私も、あらためてあのときのお礼を言う。


「おじさんたちが来てくれなかったら、もっとひどいことになっていたかもしれない。
本当に感謝です」

「風音ちゃん」


こんなふうになることが、本当に悔しくてたまらないと奥さんは泣いてしまったが、

私はその肩を叩き、終わりではないと話す。


「おばさん、私、頑張って大学生になるからね。
東京に出てきて、また頑張れるようになるから。今は、一時だけ避難する」


私は負けない。

そんな意味を込めて、力強く語る。

『さよなら東京』

そう思いながら、電車に乗り込んだ。


【2-4】



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