2 別れの朝 【2-4】

【2-4】


「風音、ちょっと待ってよ」

「待てないって、あとどれくらい残っていると思う。1分の違いが、死を招く」

「何それ」


授業終了の鐘とほぼ同時に、私は友達と教室を出た。

お気に入りのパンを買うときには、これくらのスピードを保たないと。


「ついて行けない」

「なら、先に行く」


『清廉高校』を離れるときには、悔しい思いもあったけれど、

転校した学校で、私は新しい場所を見つけることが出来た。


「すみません、これとこれを2つずつ!」


購買レースや自転車通学はそれなりに楽しかったし、

田舎でしか経験できないことも、たくさん出来た。

2年がすぐに終わり、3年生になって、秋が来る頃には、

それぞれどんな道を歩むのか、考える時間が増えて。


「成績特待生」

「あぁ、そうだ。お前ならもうワンランク上の学校も狙えるだろうが、
学校の推薦と、成績がある学生は、入学金免除と、4年間、
学費の割引を受けることが出来る。あ、もちろん成績は取らないとダメだぞ」


母子家庭のため、行くなら国公立だと決め込んでいた私は、

先生から『特待生』という方法があったことを教えてもらい、

とにかくパンフレットを読んだ。

『城相大学』(じょうそうだいがく)

学校の場所も、通いづらいところではないし、

何しろ選ぼうとしていた『経済関連』のコースも、豊富にある。


「『城相』なんて、考えたこと、ありませんでした」

「そうか、まぁ、そうかもな。お前の希望も考えて、先生なりに探してみた」

「はい」


私は素直に『ありがとうございます』と頭を下げた。

確かに、ワンランク上の学校に、憧れがないわけではない。

でも、自分の学びたいことが、遠慮無く学べるのなら、

学費が割引とか、入学金免除とか、努力が報われるのだとわかったのだから、

それは利用する方がいい選択だと、言うものだろう。


「本当に?」

「うん、私、結構頑張り屋だったみたい」


母は、好きなところに行きなさいと口では言ってくれていたが、

『入学金免除』や『学費割引』の特待生だと話すと、

やはり嬉しさは隠せないようだった。

祖父母は、せっかくこっちに来たのだからと、地元で探せばと言い出したが、

それは無理だと、きちんと説明する。

それならばここから通えと、さらに要求し始めた。


「おばあちゃん、東京に出て行くまで電車で何分かかる?
2時間も毎日行きと帰りにかけるなんて、合計4時間だよ。
面倒だし、もったいないよ」


学生生活が、電車の思い出だけで埋め尽くされそうだ。


「でも、女の子が一人暮らしだなんて……」

「あのね、それもいいものがあったの」


『学生専用物件』

不動産店が大学とあれこれ提携して、学生を対象にした物件を斡旋してくれた。

こういった物件は、東京で大学に入る学生たちを集めれば、

数年ごとに入れ替わることが決まっているし、

親が保証人のため、家賃が取れないと言うこともない。


「普通のアパートとかを借りるよりも、条件すごくいいから」


学費の負担を無くした私はそういうと、なんとか親と祖父母を説得し、

2月や3月まで試験に明け暮れて、げっそりする同級生を横目に見ながら、

『校内推薦』そして『特待生』というお話を、得ることが出来た。





「こんにちは」

「あぁ……風音ちゃん」


東京に舞い戻ることを、一番に知らせに来たのは、『橋爪クリーニング店』。

おじさんもおばさんも嬉しそうに出迎えてくれて、

従業員さんたちもそのまま、皆さん頑張っていた。


「変わっていないね」

「1年だもの、そんなに変わらないわよ」


おばさんは『変わりたくないから美容に必死よ』と、高級クリームを買ったと笑い出す。

私は出してもらったお茶を飲みながら、変わった景色を見た。


「ここ、鉄筋になるんだ」

「うん……」


私たちが住んでいた公営住宅。

あの平屋の家は全て取り壊され、今は鉄筋コンクリートのマンションタイプが、

建設され始めた。


「この形の方が、たくさん入居出来るしね」

「そうだね」


いい思い出もあったけれど、嫌な思い出もあったから、

こうなって姿を変えてしまうことは、少しほっとする。


「あ、そうだ、『ふくたろう』でさ、風音ちゃんのお母さんと一緒に働いていた、
えっと……」

「蒼のお母さん? あ、えっと、古川さん」

「そう、古川さん。ご近所では有名になってね」

「うん……」


おばさんの話によると、私が引っ越しをしてから半年後、

蒼も転校したと教えてもらう。

そんな時期にというのも驚きだったが、引っ越しをした理由に、

さらに驚きが倍増した。


「お客さんにね、あの『MAKINOグループ』の副社長がいたらしいの。
古川さんのために何度もお店に通って、猛烈にアタックして、
ついに『はい』と頷かせたって」

「それって……」

「再婚よ、再婚」


私は引っ越しをする間に、そういえば『ふくたろう』で、男性に会ったことを思い出す。

大きな黒い車で、確かにおばさんを迎えに来ていた。


「あ……」

「あら、風音ちゃん、知っていたの?」

「いや、おばさんが男の人に迎えに来てもらったのを、見たことがあったなと」

「そうよ、それそれ。まぁ、近所ではあっという間に噂が広まったわよ。
だって『MAKINO』よ。あの『MAKINO』。
神戸に拠点がある、日本でも3本指に入る大きな運送会社じゃない。
そこのグループ会社の副社長に見初められて、こんな町からってねぇ……」


おばさんは『夢物語』よと、大きくため息をつく。


「それで蒼も一緒に」

「うん……」


そうか、蒼は関西に行ってしまったのか。

ちょっぴり残念だと思う私。


「その人には子供さんがいないんだって。となると、蒼君だっけ?
彼が財産を継ぐことになるのかもしれないって、いやぁ……夢物語みたいでしょ」


『ふくたろう』

私の母と、蒼のお母さん。

2人の女性の運命は、その店で出会った男で変わった。


出会った男にあんな事件を引き起こされ、田舎に帰ることになった母と、

大手の重役に好意を持たれ、生活も経済も全て、180度変わった蒼のお母さん。



女の運命は、男で変わる。



そんな言葉を聞いたことがあるけれど、そうかもしれない。


「でも、3年生になってからは大変だっただろうな、色々と」

「そうなの?」

「うん……勉強とか、まぁ、蒼は頭がよかったし、すぐに慣れているだろうけれど」


私はお茶を飲み干すと、出してもらったクッキーをつまむ。

おばさんとおじさんは、東京に出てきたら、もっと頻繁に顔を出すことと、

そう言いながら、子供にするように、指切りげんまんを要求してきた。


【2-5】



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