3 再会の音 【3-1】

3 再会の音

【3-1】


『新井絵史』

私が蒼と学園祭の準備をしていた時、明らかに嫌な顔をした人。

さらに、あの事件があった後、絵史が中心になって、

私の噂を流したとみずなから聞いた。

絵史も、大学ここだったんだ。


「風音、こっち」

「うん」


もう過去のことだ。

蒼も転校してしまったのだから。

そう思わないと。


「あ……やだ、風音じゃない。珍しい名前だから、反応しちゃった」


絵史の声。

無視するのもおかしいので、軽く頭だけを下げておく。


「埼玉に転校して、あら、また東京に」

「うん」


どうでもいいことを、引き延ばさないで欲しい。

藍子は『友達か?』と聞いてきたので、私は首を振る。


「転校する前の高校で、同級生だった」


伝えられるのはそこしかない。


「ねぇ、君たちさ」


絵史と一緒にいた男子学生から、声をかけられた。

彼は、テニスのサークルに入っている2年生らしい。


「ねぇ、君たちサークル決めた?」

「いえ、まだです」


何も知らない藍子は、そう答えてしまう。


「よし、それなら今度一度見に来てよ。
素人歓迎、まぁ、大学生活を楽しもうというのがモットーだし」


誘われたのだから、きちんと答えるべきだと思う藍子のおかげで、

私はそこで足止めをくってしまう。

絵史の目、昔、蒼と一緒にいた私を見た目と同じ。


「風音って、めずらしくてかわいい名前だね」

「いえ……」


女性に声をかけることも、誘うことも躊躇がない先輩は、

すぐに連絡先を私たちに渡そうとする。


「私、テニスには興味が無いですし」

「テニスなんていうのは、飾りだよ。言っただろ、楽しむサークル。
なんだっていいんだ、みんなで盛り上がれば」


別に、体育会系でもないしねと、隣にいた絵史に同意を求めている。


「先輩、無理には……」

「無理には言わないよ。でも、人数は多い方が色々と楽しい」


絵史はわかりやすい。

きっと、今はその先輩を好きになっているのだろう。あの頃と同じ目をしている。

この先輩が、私たちを誘っていることが嫌なのだ。

自分だけを見て、微笑んで欲しいと、そう思っていることが、

不機嫌そうな顔に出てしまっているから。


「藍子、早く座ろう」

「うん」


最前列になったらたまらないと、私は藍子の手を引き、とにかく席を確保する。


「ねぇ、どうする? 風音」

「私はパス。テニスには全く興味がないし、面倒だし。
本格的にバイトを探さないとならないし」

「そうか……」


藍子はどうしようかなと先輩のメモを見る。


「あ、来た」


教授が登場したことで、藍子も気持ちを切り替えたのか、メモをポケットに押し込んだ。





大学の掲示板。

印刷された文字がしっかりと並ぶ、アルバイト情報。

家庭教師もあるし、学内で教授の手伝いなんてものもある。

でも、私の目を引いたのは、それではなかった。



『キタック』



東京の郊外を中心とした、引っ越し業者。

そのバイト。

引っ越しが忙しいのは土曜、日曜、そして祝日。

つまり、大学がお休みの日になる。

それなりに勉強もあるため、休みの日、バイトに入れるのは好都合。

さらに、体を動かすこともあるからなのか、時給も高い。

私は連絡先のアドレスを打ち込み、すぐに連絡を入れた。





カチカチと聞こえる時計の音。

時々トラックが入ってくるエンジンの音と、バックする時の警告音のようなものが鳴る。


「どうしてうちで?」

「はい。大学の授業に差し障りのない時間に、仕事を入れられることが魅力でした」


社長の北村さんは、履歴書を見ながら、何度も頷いている。

印象は悪くなさそうだけれど、どうだろう。


「石本さん、字が綺麗だね」

「ありがとうございます」


昔から、母によく言われていた。字の上手い下手は仕方が無いけれど、

丁寧に読みやすい字を書きなさいと。

この履歴書だって、1枚、失敗した。


「よし、採用、ぜひ頑張ってください」

「ありがとうございます」


私は、その場で立ち上がると頭を下げる。

人生で初めてのバイトを、決めることが出来た。


【3-2】



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