3 再会の音 【3-2】

【3-2】


「女性なのに、引っ越し業者?」

「別に力任せに仕事をするわけではないの。家具とかは男性が運ぶし、
女性はね、ダンボールとかに細々したものを入れたり、それに、掃除の手伝いとか」

「へぇ……」


部屋に戻り、藍子に面接での出来事を説明する。

同じ大学の藍子は、私よりも一足先にファストフードでのバイトを決めた。


「あ、そうだ、私、明日サークルに行ってくる」

「サークル?」

「ほら、テニスの……誘われたでしょう」

「あぁ」


絵史が入っている、あのテニスサークル。

一緒にいた先輩は、少し軽い雰囲気を出していて、私は苦手だと一瞬で思ったけれど。


「あのあとね、別の教室に行った時もあの先輩に会って。
とにかく見学だけでもって言うから。どうしようかなと思ったけれど、
きちんと断らないと面倒でしょう」


藍子は入るつもりではなく、正式に断るつもりだと繰り返す。

私は、その気合いの入れ方に、思わず笑ってしまった。


「何? どうして笑う?」

「ううん……だから藍子とは気が合ったのかと、今、よくわかった」

「エ? 何、それ……」


私は説明は面倒だからいいよと笑いながら、買ってきたポテトチップスの袋を開ける。

藍子は一つだけつまむと、同じメーカーの新しい味を食べたことがあるかと、

私に聞いてきた。





大学生になり、それまでの環境とは違うことも増えた。

『キタック』でのバイトも、まだスタートしたばかりだが、先輩達も皆さんいい人で、

戸惑いながらも、充実している。

大学生活で学ぶことの一つが、人とのつながりだと思う。

これからのことを考えて、色々ときっかけ作りなど大切かもしれない。

多少、嫌なことがあっても、笑ってごまかすくらいの気持ちも必要で。

でも、それでも私は……



『一言言わないと、気が済まない』



そう思い、感情をむき出しにした表情のままで絵史を探す。

同じ大学にいることはわかっているが、学部が違えば授業の取り方も違う。

やみくもにウロウロしても、時間ばかりがかかると思ったので、

藍子から聞いたサークルの集合場所を聞き、そこに向かうことにした。



『高校2年生の時の事件』



あの話を、私たちにサークルを勧めてきた先輩に、絵史はわざと披露した。

あくまでも噂だがと、一言加えてはいたらしいが、警察が来たこと、

私がその後転校したことなど、何かを含むような言葉をのせて、

空想を仮定から、肯定へと導くような流れを作った。

私が、『サークル』参加を嫌がるのは、そういう理由があるのだと、

私自身でもないくせに、勝手に理由を貼り付けられた。

私は、その話を藍子から聞き、とにかく悔しくてたまらなかった。

絵史は私の友人なのかと聞かれたら、間違いなく首を振ると思う。

『思いやる』関係ではないから、なんでも出来るのかもしれない。

しかし、あの日のことを何も知らない人に、

あえて話さなければならない出来事だとは到底思えない。



『風音の話を信じる』



藍子は、みずなと同じように、私の目を見てしっかりとそう言ってくれた。

だからこそ、今、この目で絵史を探すことが出来る。

わかってくれる人がいる。

それが、今の私をまた一歩前へ動かしてくれるから。



絵史……



「あ……あれ? 君」


以前、声をかけてくれた先輩の横を通り、絵史だけを見続ける。


「新井さん」

「……何?」


私が何を言いに来たのか、この表情と声で気付いているだろう。

絵史の足が、一歩後ろにずれる。


「高校生の時、私はあなたのそのハッキリした性格を、
むしろうらやましいとさえ思っていた。私は、自分に自信を持ったことがないから……」


そう、私は自分に自信が何もなかった。

勉強だって、特に出来たわけではないし、運動も平均点くらいしかない。

かといって、褒められるような特技もなく……


「誰が目の前にいても、私はこう思っていると、そう素直に気持ちを出せるあなたを、
すごいなと思ってみることもあった。でも、今は違う」


今は違う。

今は、『哀れみ』さえ感じている。


「あなたが本当は嫌な人間だと言うことが、わかったから」

「何言っているの」

「わからないのなら、わからなくてもいい」


あなたにわかってもらおうとは思わない。

ただ、私の決意だけは話していく。


「あの事件に、あなたのようなウソをばらまく無責任な人間のやり方に、
私は負けたり、泣いたりしない。本当のことがどうだったのか、
自分の生き方で、私は証明していく」


周りの人たちは、どうしていいのかわからないのだろう。

ただ、その場に立ち尽くし、目の前にいる絵史は私から目をそらす。


「人を不幸にして、その上に立とうとする人を軽蔑はしても、
もう、うらやましいなどという感情は二度と持たないから」

「何よ、なんなの、突然来て」


絵史は、自分は無関係だとばかりに、防衛策を取ろうとする。

それでも、周りの目は、誰も絵史の演技を認め、私を責めるような目を向けなかった。

かわいそうとか、興味心とかではなく、

一人の主張を、ただ聞いている。



突然訪れたことには変わらない。私は、サークルのみなさんに一度頭を下げた。

そのまま絵史に背を向ける。



スカッとした。

こんな勇気が自分にあるとは思わなかった。

やれば出来る。



そうだった……



あの時も、ほんの少し勇気を出して、

自分をもっと本気で守ろうとしていたら……





私は……



蒼と……



笑い合えたかもしれない。



後ろから絵史の遠吠えが何やら聞こえてはいたが、

何も残らないくらい、私は気持ちを前向きに出来た。


【3-3】



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