3 再会の音 【3-3】

【3-3】


『清廉高校 成人式の会』


埼玉の田舎にいる母から、そんな葉書が来たことを知らされた。

大学2年になり、その次の年の1月には、『成人式』を迎えることになる。

今の住所があるから、公式の成人式は埼玉で行われる。

向こうの友達と会えると、ただ思っていたが……



「届いたんだ、風音のところにも」

「うん……らしい」


同じように大学2年になったみずなとは、こうして時々、近況を報告しあっている。

私の部屋にも訪れることがあり、近頃は藍子も含めて、3人で会うことも増えた。

今日は藍子がバイトのため、小さなテーブルにジュースとドーナツを置き、

2人だけで会話する。


「私……出ようと思っている」

「本当に?」

「何それ」

「あ、だってさ……」


みずなの驚きはよくわかった。

あんなことがあり、私はすぐに転校してしまったのだから、

思い出すような場所に顔を出すのも嫌だろうし、

思い出されて周りから変な態度を取られるのも嫌だろうと、そういう意味。


「絵史のことでさ、思ったの」

「うん」


みずなには絵史のことは電話で語った。

あの完全に脚色された身勝手な事件の内容を、わざわざ大学の中で明らかにしたこと。

みずなも驚いた声を上げ、しばらく聞き続けてくれたが、

最後には『絵史らしい』という、同級生の反応を返してくれた。


「腹も立ったけれど、思ったことがある。あのとき、転校したのは失敗だった」

「……うん」

「好奇な目で見られても、私は間違っていないと、堂々としているべきだった」


私のコメントに、みずなの口は強く結ばれる。


「何よみずな、違うって言いたいの?」

「違うというか……でも、勢いでそうだよねとも言えない」


みずなは、時が少し経ったから、そう言えるのだと言い返した。


「今思うとだけどね、しばらくクラスの中も妙だったの。
男子と女子が、こう、あえて避け合うみたいな」


みずなは両手を離す仕草をする。


「最初は風音を気にして、お見舞いに行っていた蒼が、追い返されたでしょう。
蒼も、数日したら空気のおかしさに気付いて、風音のことを話題にしなくなったし」


みずなは、私の顔を見て『ごめん』と謝ってくる。


「みずなが謝ることじゃないよ」


私は少し冷静になった。確かに今とあのときでは、環境が違う。

私は藍子のような新しい仲間を作り、一人にならないことをわかっている。

だから、絵史にも強く出られたのかもしれない。


「でも、会には出ることにする」

「うん」

「どうなるのかはわからない。それでも東京に出てきたのだから、
また、みんなともどこかで顔を合わせるかもしれないし……」


それはもちろん、蒼も含めて。


「あの事件から自分が逃げたままで、終わりたくないの」


みずなは私の決意に頷いてくれて、もし、会場が妙な雰囲気になり、

いたたまれなくなったときには、一緒に出て行くからとそう言ってくる。


「みずな……」

「私にとって、風音がいない会なんて、意味ないから」


みずなはそういうと、両手を握りしめてガッツポーズに見えるようなことをする。

私は、その気持ちに応えようと、同じ仕草をお返しした。





『清廉高校体育館』


成人式が行われ、世の中から大人になった祝いをされた後の日曜日、

私たちは、懐かしい高校の体育館に集合することになった。

もう一度と、『成人式』の着物を着る人がいるだろうかと思っていたが、

待ち合わせをする駅前は、

身軽に動けるスーツやワンピース姿に埋め尽くされていた。

それでも、全員が同じ制服だった時代とは変わり、髪を伸ばした人、

パーマをかけた人、スーツなどにも、それぞれの個性が出ている。

私は、待ち合わせをしていたみずなを探し、手をあげた。


「あ……風音」


手を振るみずなのそばに向かい、

朝は、雪になるのではないかと思うくらい寒かったことを話す。


「あぁ、そう、確かに」

「ベランダに出してあったバケツの中に、氷出来ていたもの」

「エ……そうなの?」


みずなは親元から大学に通っている。

高校時代、私も何度かお邪魔させてもらったことがあった。

お父さんは消防士で、お母さんは長い間、惣菜を作る工場でパートをしていて、

新しい商品が出来たのだと、試食をさせてもらったこともある。


「今、みずなが風音って言ったでしょう」

「うん」

「駅に立っていた数人が、こっちを見た」


石本という名字はそれほど珍しくないが、『風音』という名前は珍しいため、

すぐに気付いたのだろう。


「風音……無理しなくていいからね」

「わかっているって、みずなが興奮してどうするのよ」


私は乗り越えられる。

この通い慣れた道を歩いていると、その思いがどんどん強くなるから。


何も誇れるものがない私が『戻ってこよう』と、そんな勇気を持てるようになったのは、

たった一人、私の価値を認めてくれた人がいたから。


その嬉しさを、あらためて思い出したから。



『古川蒼』



時は流れても、通学路の思い出は、後輩に塗り替えられても、

あの日、『好きだ』と言ってもらった事実は、何年経っても無くならないから。


蒼は、来るだろうか、今日。


校門をくぐり、受付になる体育館の前に立つ。

私に気付いてくれた当時の学級委員、『中尾つぐみ』。

驚いているのか、口を両手で覆っている。

そして机の奥から前に来ると、私の手を握りしめた。


「風音……」

「久しぶり、つぐみ」


つぐみは無言のまま、何度も頷いてくれる。

彼女は責任感が強く、いつもクラスをまとめてくれた。


「来てくれたんだ」

「うん……ここからもう一度始めたくて」


つぐみだけではなく、同じクラスだった同級生達が、

私の出席を、受け入れてくれた。もちろん中には避けるようにした人もいたが、

みずなが話していたように、時間という薬が、人の心を冷静にしてくれたのかもしれない。

お世話になった担任も、積極的に転校を勧めてきた学年主任も、

『大学はどうだ』と話しかけてくれたし、

私はもう、これで十分だと、思えるようになった。

みずなと一緒に会場に入り、飲みものを持つ。

普段、合わないからこそ、今はどうしているのかと、近況を聞かれた。

私は、大学に入ったこと、バイトもしているが、なかなか大変なこと、

親元から大学に通えるのはうらやましいことが多いなど、

思ったように言葉を送り出した。

そろそろ乾杯の準備をしようと、幹事の男性から声がかかったとき、

人の視線が、明らかに私よりもっと後ろに向かったことがわかり、

その流れについて行く。



蒼……



入り口でつぐみに札を渡されているのは、間違いなく蒼だった。


【3-4】



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