4 動揺の波 【4-2】

【4-2】


「何……何、何言った? 断ったの?」

「大きな声で言わないで」

「ごめん、そういうつもりはなかった」


私は結局、森田さんの告白を丁寧にお断りした。

藍子は『バレンタイン』が近いのにもったいないと、悔しがる。


「何、その理由。バレンタインが近かろうが遠かろうが関係ないでしょう」

「あるある、おおあり。寂しいじゃない、イベントの時に一人って」


藍子は、今まで2回もクリスマスが『シングルベル』だったと、

泣き真似をし始める。


「失礼ね、3人でしたでしょ、パーティー」

「そういうのをおかしな理屈っていうのよ、風音」


森田さんは『わかった』と言ってくれたが、日にちが重なるごとに、

実は申し訳なさも募ってきていて。


「でもさ、風音。悪い人じゃないのなら、経験だと思えなかったの?
つきあったら、すごく気があったかもしれないよ」


藍子の言うことがわからないわけじゃない。

森田さんなら、おかしなことにはならないだろうということも、想像できる。

でも、だからこそ、巻き込むようになるのが嫌だった。

身代わりのような、お試しのような、そんなことをしていい人にはとても思えなくて。


「藍子だから言うけどね、みずなには言わないでおいて。相手を知っているから」

「うん……」


私は、高校2年の時、学園祭の前日、事件があった日のことを藍子に話した。

大好きだった人から、思いがけず告白してもらえたこと、

次の日、学園祭で思い出を残そうと言われていたこと、

とても嬉しくて家に戻ってきた後、事件があったこと、

流れを説明しながら、当時のことをまた鮮明に思い出す。


「大学で絵史に、あの事件のことをまたデマなのに流されて、
藍子も知ったでしょう」

「うん」

「悔しさもあったけれど、でも、負けないと思えたのは、
こうして藍子がそばにいて私を受け入れてくれていること、それと……」


そう、それと……


「なにもとりえがない私を、確かに認めてくれた人がいたという、過去の思い出だった。
当時は高校生で逃げてしまったけれど、今なら立ち向かえると思えたのも、彼のおかげ」


そう、蒼が告白してくれたことが、私に勇気をくれた。

世の中の端っこにいる人間でも、悪くなんてないと……。


「まだ……彼のことを思い出すだけで、正直、胸がぎゅっとつかまれるような、
そんな気持ちになるの」


再会して、会話をして、別れただけなのに。

次などない可能性の方が、圧倒的に大きいのに。


私はまだ……

あの『世界一の笑顔』を、この目で見たいと思っている。


「ねぇ、ねぇ、名前は?」

「名前?」

「風音の心をギュッとつかんでいる人の名前よ、いいでしょう、聞かせてよ」


藍子は、こういう恋話は大好きだと、体を左右に揺らす。


「古川……蒼」

「そう? 漢字は? ねぇ、どんなタイプ?」

「あぁ、もう、いいよ、そこまで」


別に、今更あれこれ言うのは、違う気がして。

急に静かな時間が訪れて、妙に違和感を感じてしまう。


「風音、好きなんだね、今でもその彼のこと」


藍子の言葉が、ストレートに届いたからなのか、正直に頷いてしまった。

未だに蒼以上に、思いを向けたと思える人はいない。


「わかっているんだけどね、もう終わったことだし。戻らないことも。
でも、もう少し気持ちが割り切ってくれるまで、森田さんがいい人だから、
その代わりとか、そういうのは嫌だなと思って」


忘れるためにとか、そういう自分勝手な行動は嫌。

藍子はジュースをストローで吸った後、『わかった』と言ってくれる。


「風音らしいといえば、らしいね」


そういうと、アルバムとかないのと言いはじめた。

私は首を振る。


「高校2年生で転校したから、卒業アルバムないし。写真も撮ったことない……
あ、そうだ」


私は成人式の会を思い出し、しまい込んだ引き出しから写真を出す。


「あったわ、写真。これ、この人」


薄いビニールはそのままにして、蒼を指さした。

藍子はどれどれと言って、写真を見る。


「いいよ、ビニール取って」

「あ、そう?」


藍子はビニールを取る。


「へぇ……この人か」

「うん」


誰がどうだと言ったわけではないし、蒼が自分はここだと主張したわけでもない。

でも、周りから押されるように場所を指定されていて、

あいつは写真でも中心に近い場所にいる。

私はそこから離れた隅。


「確かにもてそうだ」

「うん……」

「うわ、否定しない」

「だって、出来ないよ、もてていたし」


私ではなく、蒼のこと。

藍子はツバでも飛ぶと悪いからと、また袋に写真を入れる。


「よし、それなら風音は、シングルのまま卒業することを受け入れなさい」

「何それ」

「いいから、いいから」


藍子はそういうと、楽しそうに笑い出す。

私はそれならそれでいいですと言いながら、写真を引き出しにしまった。


【4-3】



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