4 動揺の波 【4-3】

【4-3】


しかし……


「乾杯!」

「もう何度目よ」

「いいの、何度でも」


それから季節は過ぎ、また『クリスマス』のシーズンになったが、

結局、みずなを入れた3人は、また顔を合わせてイベントを迎えることになった。


「男なんてね、いなくて結構」

「全然違うじゃないの、夏頃と」

「うるさい、みずな」


藍子は秋に彼と別れてしまい、それから男性拒絶を続けている。

『男は嘘をつく』というのが、彼女の得た答えだそうだ。

それでも3人で迎えるそれぞれのイベントは、いつでもどこか楽しくて、

学生時代はこんなものだよねと、ため息をついたり、笑ったり、

時には涙を流しながら、ティッシュで鼻をかみ続ける。



そして……



「おはようございます」

「おはよう」


私も大学3年を終えるという頃、『キタック』の社長から、呼び出しがあった。

階段を上がりながら、何かクレームでもお客様から来ただろうかと、心配になる。

扉をノックして、返事を待ち中に入る。

そこに座っていたのは、私よりも少し年上だろうと思える男性が3名だった。


「おはようございます。石本です」

「うん、ここに座ってくれ」

「はい」


北村社長は、先に部屋の中にいた男性3名と順番に握手をする。

男性陣は私にそれぞれ頭をさげると、部屋を出て行った。

今までに見たことがないスーツ姿の人たちに、これから何かが起こるのだという、

不安感がどっと押し寄せてくる。


「あの……」

「悪いね、石本さん」

「いえ」


何が起こるのかはわからないが、私は社長の言葉を待つ。


「今の3名は、これから我が社が採用をすることに決めた人材だ。
『電旺』にいた中村君と、『パナミニック』にいた松田君、中西君の2名」


『電旺』とは広告代理店の大手。

『パナミニック』は家電メーカーの大手。


「実はね、この業界にも多様化の波が押し寄せているんだ。
うちは、東京郊外を中心に、個人向けの引っ越しを専門にしてきたけれど、
個別に仕事をしていくだけでは限界がある。それで、彼らを入社させて、
これからどういう戦略で動くべきなのか、トータル的に考えていこうと思ってね」


社長は今までのように、受け身だけでは成り立たないと言いながら、

自分でお茶を入れ始める。

私は湯飲みが2つあったので、私がやりますと立ち上がった。


「いや、いいんだ、座っていて」

「でも……」


アルバイトの身分で、社長からお茶を入れてもらうなんて聞いたことがない。


「そこでね、石本さん、君がもし、希望を決めていないのなら……」


社長はそう言いながら、お茶を運んでくる。


「うちを……『キタック』を助けてくれないか」


社長はそういうと、ソファーに座ったまま私に頭を下げてくれた。

当然、そんな出来事を受け取れないので、私は両手で顔を上げてくださいと訴える。


「そんなふうにされたら、困ります」

「いや、妙なことを言っていることはわかっているからさ」


北村社長は、今こそ、私のような若い人間が前に出て、

色々なアイデアを出して欲しいと、そう言ってくれる。


「彼らのように、大手でやってきた実績ももちろん必要だけれど、
石本さんのように、現場を見てきた知識も、必ず必要とされる。
それに石本さんには、実際、うちの売りとも言えるアイデアを、出してもらっただろう」


社長の言うアイデア。

それは、『荷泊』というもの。

小さな会社や店だと、荷物を運び出すのも遅い時間の方がいいし、

まだ運び入れるのも朝では困ることもある。

そんなとき、トラックで荷物を受け取ったら、あえて現場に行くことはしないで、

荷物を預かったままにするというもの。

『荷泊』とは、荷物が泊まるということを示している。

これが結構、話題になった。


「あ……あれは」

「無理にとは言わない。大学で勉強したこともあるし、やりたいことがあるのなら、
それは当然権利がある。でも、この業界が嫌いでなければ、残ってくれないだろうか。
もちろん、3階の本部勤務として」


2階までの引っ越し要員ではなく、

『キタック』のこれからを考える、中心人物としての就職。


「考えてみてくれ」


私は社長の目を見ながら、『ありがとうございます』としっかり頷いた。





そして、時は経ち……

私は、きちんと4年で学業を終え、大学を卒業する。

学生の間だけと言われていたマンションからも、出て行く日を迎えた。

もちろん業者は『キタック』。


「よろしくお願いします」

「了解」


もう、完全に仲間とも言える信頼できる人たちに荷物を頼み、

思い出のたくさん詰まった部屋を出た。同じように卒業した藍子は、

私よりも3日前にここを出て、やはり就職を決めた企業に通いやすい場所に、

部屋を借りている。


「もしもし、みずな。今から向かうから」


就職を決めても、親元から通うことが出来るみずなは、

今日、私の引っ越しを手伝ってくれることになっている。

私は扉を閉めた後、ベランダの方にまわり、思い出をたくさん作った部屋に、

心の中で『さよなら』と別れを告げた。





『キタック』

私は、社長から提案をうけてからも、数回話し合いを重ね、就職を決めた。

会社の名前を気にしながら、活動をする仲間もいたが、

私にとっては、ここにいる人たちの温かさが、決め手になった。

これからどれくらい、社会人として働くことになるのかわからない。

だとすると、『人間関係』は大きなウエイトを占めるはず。

今まで『キタック』に来ると、2階のロッカールームに入っていたが、

今日からは、そのままさらに上へ向かうことになる。


「あ、石本さんだ。頼むよ、これからお手柔らかに」

「何言っているんですか、もう、朝から」

「俺のこと、クビにしないでね」


ドライバーたちは笑いながら、朝の支度をし続けていて、

後輩の学生は、手を振ってくれる。


「おはようございます」

「おはよう」


この場所で、挨拶を交わしただけの社員たちとも、

入社前に何度か顔を合わせて、一緒に頑張りましょうと声をかけあった。

みなさん大手にいたにも関わらず、あまり威圧感がない。

スーツ姿のままデスクに座ると、いきなり下からSOSが入った。


【4-4】



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