4 動揺の波 【4-5】

【4-5】


「あら、風音、その質問は逆に、ファッション誌とか見ていないってことよね」


藍子はそういうと、左手の人差し指を左右に揺らす。


「何よ、どういう意味?」

「『北島里穂』って、高校時代からモデルもしているの、それに『ミス聖蘭』だし。
もしかしたらアナウンサーにでもなるのかなと思っていたけれど、
ご本人の希望なのか、親の意向なのか、『SANGA』の広告塔みたい」

「広告塔」


つまり、顔が有名な娘を、宣伝に利用するという意味。


「で、何? 抜き打ち検査にでも来たの?」

「違うの。お嬢さんはね、車を買い換えようと思っているらしくて。
この春の新車? 運転させてもらいたいと急に、来ることになって。
もう、いつものんびり管理職がド緊張」


みずなは直立不動だったと、その状態を再現してみせる。


「それはそうよね、普段なら会わない人でしょう」

「まぁね。社長は来ることがあるらしいけれど。うちは本社管理の販売店だから」


みずなは、年齢は私たちよりも1つ下だと指を1本出す。


「かわいかった?」


藍子が、みずなに質問する。


「うん……かわいかった。生まれながらのお嬢様だし、『ミス聖蘭』だよ。
モデルの仕事もするくらいだから、人前に出ても堂々としているし」

「ふーん……」


大手自動車会社の社長を父に持つなんて、どういう気持ちなのだろう。

幼い頃から父という存在がなかった私には、そもそも父親の感覚がわからないけれど。

その日は、次の日が休みと言うこともあり、女子会は夜遅くまで続き、

愚痴や不満を吐き出した3名は、また頑張ろうという力を、もらうことが出来た。





そして、社会人になって半年。

中村さんに聞いていた話が、だんだんと形を見せ始める。

朝から会議だと言うことになり、社長のいる3階に、営業関係の人、

そして経理や事務をする私たち、さらにドライバー部門のリーダーも集められた。

話の内容は、やはりこれからの『キタック』のことになる。


「実は、現在、2つの企業にしぼり、これからのことに向けて話をしている」


『キタック』の引っ越し部門の仕事ぶりを評価し、

『MAKINO』と『山際運送』の2つが声をかけてくれているという。

私は皆さんと違って、経営のことはよくわからない。

社長が決めた決断に従うしかないのだけれど。


「『山際運送』からもですか」

「あぁ……『MAKINO』から声をかけられたことを知り、うちの条件はどうだと」


業界2位と4位。

大きな波に飲み込まれることが、本当にためになるのかどうか、

今のように、雰囲気がいい職場がこれからも続くのかと、どこか心配の芽が顔を出す。


「私は『MAKINO』だと思います。やはり業界の中でも力が違いますし、
トータルで2位だと言っても、もはや関西ではトップです。
今まで薄かったこちらのエリアに手を伸ばせば、
それは数年で必ず逆転すると思える伸び方でしょう」


中村さんは、小さな仕事の細やかな部分が、うちとの協力で身につけば、

『MAKINO』には敵がいないと力を込める。


「まぁ、そうだな。実績も売り上げも大きいし」

「社長、しかし『MAKINO』の条件は厳しくないですか」


ドライバーリーダーの鶴田さんは、『MAKINO』クラスでは、

完全に飲み込まれるだけだと警告する。


「『MAKINO』は経営統合、合理化とスマートに仕事をすることが特徴です。
ただ、うちのノウハウだけ奪い取って、
さっさと切り捨てるというようなことになったら……」


鶴田さんの意見に、松田さんも、その点、『山際運送』なら、

元々同じ仕事をしていたのだから、協力的な関係が築けるとそう言って、周りを見る。


「うーん……」


副社長の河石さんは、どちらにもメリットとデメリットがあると、両手を組んだ。

他の社員達は言葉を出さないものの、社長の顔を見たり、周りの社員を見たり、

視線が落ち着かない。

私は席を立つと、お茶を入れ直し総勢13名の前に出していく。

現状のまま、立ち止まっているだけでは経営できないと言うことも、

理解しているつもりだが、今、汗をかき動いているドライバーさんたちや、

引っ越し荷物を丁寧に作る主婦のパートさんたち。

そういった人たちの思いは、この2つにきちんとわかってもらえるのだろうかと、

そう考えてしまう。

『キタック』で働く人の中には、年齢を重ねて、定時勤務が出来ない人もいる。

コミュニケーションがあまり得意ではないので、

メインドライバーにはならず、引っ越しのフォローだけを続けている人もいる。

かき入れ時だけ働きに来て、普段は別の仕事を持つドライバーもいて、

『キタック』はそういうでこぼこを、社長がならしながらここまで来た。

いい意味で小さいことを生かし、多様を受け入れたからこそ、

顧客からの評判も、高い水準をキープしている。


「石本さん」

「はい」

「君はどう思う」


中村さんにそう言われ、私は思わず下を向いた。

経営のことなど何もわからないのに、しかも、入社したばかりの私が、

言葉を発する権利があるのだろうか。


「すみません、私はまだまだわからないことばかりですが……でも、一つだけ……」


それぞれにお茶を置き、元の位置に戻る。


「『キタック』の仕事を認めて、一緒にと言ってくれている企業なら、
色々と意見の相違はあっても、話しあえばわかってもらえると思います。
でも、ただ、自分たちだけが大きくなろうと思うのなら、
その枠に押し込まれる私たちには、苦痛なだけだと思います」


同じ場所に立って、前を見てくれるのなら……

私はそれだけを言うと、『でしゃばってすみません』と頭を下げた。





それから何度か話し合いを重ね、正式に社長から発表があったのは、

年末も差し迫った頃の月曜日だった。

これからの時期、とにかく現場は忙しい。

私たちは席に座り、社長の言葉を待つ。


「このたび、『キタック』は『MAKINO』と業務提携を決め、
新たなスタートを切ることになりました」


『MAKINO』の傘下に入る。

私たちの相手は『MAKINO』になった。



【ももんたの小ネタ交差点 4】

風音が『キタック』に就職を決めました。
そこでネットに書いてあった、引っ越し業者の話す『迷惑なお客様…パート1』
それは、なんといっても、『荷造りが出来ていない人』だそうです。
自分でやりますと言って、料金を安くしたのに、いざ当日場所に出向くと、
『終わってなくて……』と言ってくる。本来、業者としては『出来ません』と
言えるらしいのですが、なかなか難しいですよね。



【5-1】



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