6 計画の溝 【6-1】

6 計画の溝

【6-1】


『MAKINO』



母体は神戸にあるし、関西が中心だと聞いていたため、『東京支社』と言っても、

事務関係者が並ぶくらいかと思っていたのに、いやいや、規模が違う。

思い切り大きなビルの中に、中心ですとアピールするくらいのフロア数。


「どこからどこまでよ」


エレベーターの前に立ち、企業が入っている階数を見る。

『MAKINO』は11階から15階の4フロア。

まず、受付のある11階に向かい『許可書』をもらう。

それから、蒼がいる場所は、12階の一番奥だと教えられた。

廊下を歩いて行くと、窓から東京の名所が見える。

あれって、『東京タワー』だよね。

全体が見えないくらい近いということは、ここが間違いなく『都心』だということ。

すごいなぁ……毎日こんな景色の中で、仕事をしているんだ。


「おはようございます」

「あ、おはようございます」


観光客気分で窓からの景色を眺めていたら、声をかけられてしまった。

私は慌てて頭を下げる。

いけない、仕事モードに切り替えないと。

扉の前に立ち、言われた通りボタンを押す。

すると中にいた女性が立ち上がり、すぐに出てきてくれた。


「あの……『キタック』から来ました、石本と申しますが」

「はい。少々お待ちください」


女性は私の名前だけで状況を理解したのか、すぐに中を見る。


「古川さん、『キタック』です」


さらに開かれた扉の中を見ると、30人以上はいるだろうと思える机が並んでいた。

そしてその右端にいる蒼が立ち上がる。

蒼はいくつかのファイルを持つと、私の方に近づきそして外に出た。

前を歩く蒼に、ついて行く私。

すると隣にあるブースにカードのようなものをかざし、入っていく。

その中に小さな個室が、いくつかあった。

蒼は『6』の部屋に入り、ソファーに座る。


「どうぞ」

「はい」


私は言われたとおりに座り、前を向いた。


「今日はこれから、『キタック』の研修制度について、お話をうかがいます」

「はい」


『キタック』には、引っ越し作業がスムーズに行われるように、研修制度がある。

それはバイトでも正社員でも変わらない。

引っ越しは荷物を扱うだけだと思われがちだが、相手に不快感を与えてしまっては、

意味がないため、いきなり現場という状態は避けているのだ。

私たちのいる『南営業所』には、1階に人工的に作った曲がり角や、ドアのスペース。

そして仮想の階段などがある。

その目的は、冷蔵庫や洗濯機など、実際に移動させる家具を持たせ、歩き方、

スペースの取り方などを、感覚で身につけてもらうためだ。


「これが資料になります。研修の初日に、まずしっかりと読み込んでもらい、
そのあと、実技を学びます」


私は資料を渡し、説明を付け加えた。

蒼は資料を見ながら、黙っている。



『風音……』



蒼には、数学も、英語も、よく教えてもらった。

教師の時間ばかり気にする教え方に、ついて行けないと思うことは何度もあったけれど、

かみ砕くようにしてくれた蒼の教え方に、不満を持ったことは一度もなくて。

蒼の指が、書類の図面を動いていく。

業務内容とはいえ、私の方が教えているなんて、なんだか不思議。


「『MAKINO』にも、もちろん研修施設はありますが、
個別の引っ越し業務は、『キタック』の方が長いので、これはそのまま生かす方向で、
話を返した方がいいかもしれないな」


蒼の言葉。

私は『聞かれたことだけ』答えようと思い、黙ったままになる。

本当は、色々と聞いてみたい。


「ここまではわかりました。何か、追加の資料等はありますか」


『追加の資料』

仕事についての追加は、今のところない。


「いえ……特には……」

「そうですか、では……」

「あの……」


やはり、黙ってはいられない。

知らないふりをしていることは出来ると思う。でも、何も関係のないふりは出来ない。


「質問をさせて。
『MAKINO』は、『キタック』をこのまま残そうと考えてくれているの?」


協力だとか、安定だとかイメージのいい言葉だけを並べておいて、

実際は、全て取り上げてしまうつもりではないだろうか。

私は、そんな考えを心の奥に抱きながら、蒼の顔を見る。


「『キタック』の経営を評価した上で、『MAKINO』は参加を提案しています。
ですから……」

「そんな、説明書のような話をしたいわけじゃない」


ここには、私たちしかいない。

だからこそ、私は言葉に出した。

誰もいないここなら、蒼の言葉で聞けると思うからこそ……


「何が聞きたい」

「だから……」

「人員整理については、初日に話した通りだ。
さらに北村社長と河石副社長にも、こちらの考えはきちんと伝えてある」

「厳しいと思う」


私は、『キタック』のやり方で、自分なりの仕事を続けてきた人たちにも、

『C』というランクだけではないものを与えて欲しいと訴える。


「蒼……蒼は……」


その時、部屋に置いてある電話が『ピピピ』と音を立て始めた。

それほどの大きさではないが、気づかない人はいないだろうというトーンで、

確実に何かを訴えてくる。


「清川が下にいる。風音がここへ来ていることも、受付のデータで知っているはずだ」

「エ……」

「資料をもらう、説明を受ける。それならどれくらいの時間で終わるのか、
計算されている、出よう」


蒼は私の質問への答えは返さないまま、資料を持ち立ち上がる。


「ちょっと待ってよ、蒼。今……」

「風音の話を今ここで聞いて、数秒で終わるのか」


数秒……


「いや、だって……」

「とにかく出る」


私は思わず部屋の中を見回した。監視カメラのようなものがあって、

私たちが何を話しているのか、誰かが聞いているとでも言うのだろうか。

結局、質問の答えは戻らないまま、蒼と一緒にエレベーターに乗ることになる。

二人だけなら、もう一度問いかけたいところだが、

乗っているのは私たちだけではないので、そのまま黙っているしかなく。


「どうも……」

「よろしくお願いします」


蒼の言うとおり、地下の駐車場には清川さんが立っていた。

私に気付き、すぐに頭を下げてくれる。

一度蒼を見ると、自分で後部座席の扉を開けて、入ってしまう。

運転席には清川さんが座り、私は案内があるため助手席に座った。


【6-2】



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お!

ナイショコメントさん、こんばんは

エ……本当? 彼に見える?
懐かしい名前だね……と、遠い目になるわ、私