6 計画の溝 【6-3】

【6-3】


有名な俳優が来て5分ほどのシーンを撮影したが、

そんな情報はどこにも流していないのに、結構なファンが知っていて、

営業マンたちは、にわか警備員のようになったとそう話す。


「ドラマか……さすが『SANGA』」

「スポンサーだからね。うちも車を映してもらった方がいいのだろうし。
そうそう、お嬢さんも来ていましたよ、見学に」


お嬢さん……『北島里穂』さんのこと。


「へぇ……」


前に名前を出されて、そのときはよくわからなかったから、

自分でネット検索をしてみたけれど、確かに美人だった。

高校時代に『清涼飲料水』のCMガールとして、注目された記事も載っていた。


「はい、これだけ」


みずなは、藍子のような話ではなく申し訳ないと頭を下げる。


「風音は?」

「私は……」


私にとって、ニュースと言えば。


「うちさ、『MAKINO』の傘下に入ることが決まって。
それで、『MAKINO』の社員が来るって言うから、どんな人かと構えたら、蒼だったの」


蒼を知っている、みずなを見る私。

同じように懐かしんでくれるかなと、思いながら……


「あ! わかった、その人って、風音に『告白』した人でしょ!」


みずなの反応を見ようとしたのに、予想外の方向から矢が飛んできて。


「あ……」


藍子は、この話は出してはいけなかったのだと思いだし、

今更遅いけれど、口の前に手を置いている。


「……ごめん」


謝られても、私としては笑ってごまかすしかない。


「いいよ藍子。謝る必要なし。私、そんなこと薄々、わかってたし」


みずなは私を見た後、料理を分け始める。


「わかっていたの? あれ? だって風音……」

「わかっているに決まっているでしょう。
風音が蒼を好きで、蒼が風音を好きだったことくらい」

「あ、そうなんだ」


藍子は、私の方を向き、『それならばいいよね、でもごめんね』をいう顔をする。


「そうでなければ、蒼があれだけ一生懸命、何度も病院に顔を出そうとしないだろうし。
風音が転校してから、何か出来なかったのかと、どこかさみしそうだったしね」


成人式の会で、謝られたことを思い出す。


「うん……成人式の会でね、蒼に謝られた」


私はあの日のことを思い出し、そう話す。


「何、何……ちょっと、それってさ、ドラマとかにもない? 思いがけない再会、
思いがけない恋の復活」


藍子は、そういうと、『どうなのよ』と私の脇に肘を当てる。


「『人員整理』なの、蒼の任務」


私は、そんな昔を懐かしむような雰囲気は全く感じられないと、

嘆きのような台詞を送り出す。


「人員整理か……」

「うん。『キタック』の実績をもちろん受け入れての話し合いだったのだろうけれど、
やっぱり規模が違うから、言われることはすぐ従わないとならないし。
今まで頑張ってきてくれた人たちも、仕事をスリムにしていくためには、
切っていかないとと……」

「切られちゃうの? 風音」

「私は大丈夫みたいだけれど、とにかく、人に恨まれる仕事だから、
一切、同級生だとか口にしてもダメだし、口調にも気をつけろって、最初に」


私は、蒼の方から『シャットアウト』してきたと、初日の話をする。


みずなは『そうか』と冷静に返事をして、

藍子は『そうか』と残念そうに返してくる。


「壮明大学を出て、『MAKINO』でしょう。入社2年で、人を切る仕事なんて、
任命されるんだね」


私の持っている蒼の思い出。

それが消えてしまっていることに、見たくても見られないことに、

つい、口から愚痴のような言葉が出てしまう。


「この間もさ……」

「風音」

「ん?」

「私たちはもう、高校生じゃないんだよ」


みずなはそういうと、同僚で変わった人がいると、話題を別の方向へ動かしてしまう。

藍子もそれを聞き始めたので、確かに楽しい話ではないなと思い、

蒼のことを話すのは辞めた。





『MAKINO』から蒼が来て10日。

『キタック』の全員に、『MAKINO』がつけたランクが決定した。

AとBの評価を得た者は、これから先の契約内容、またはどうすれば上がれるのか、

そして給料について副社長が営業所を周り、説明をしていった。

先がある程度見える状態に安堵し、素直に話を聞く人の方が多かったと聞いているが、

中には、『MAKINO』のやり方が気に入らないと、自ら退職届を書く人もいて。

『こんな対応にされるとは思わなかった』とか、『プライドがある』など、

一言吐いて出て行く人もいた。


「まぁ、今までの業務体制とは変わるわけだし、当然そうなるよ」


本部勤務として、3階に残る中西さんは、

今は、帰りに下へ降りることさえためらうくらいだと、ギスギスした雰囲気を口に出す。


「問題はこれからだ。Cランクを宣言された人たちに、
『MAKINO』としては、今までどおりの契約更新がないことを話していくわけだろ」


Cランクとなり辞めていくとしても、3年以上働いてくれている人には、

退職金プラスの金額を、支払うことも提案されるが、

しかし、職を無くすことは変わらない。

明日から、ここに本筋から外された人たちが呼び出されることになっている。


「1対1の話も、あの古川さんが仕切るのか」

「さぁ……うちの社長と副社長は出るだろうけどね」


『なぜ、契約を続けないのか』という理由を述べるのは、おそらく蒼だろう。

もちろん、社長や副社長にも風当たりは強いだろうが、

『MAKINO』はこんな時にも、別の人をよこさないのだろうか。

支社に顔を出したときには、そこら中に人がいたのに。

今まで協力してきた人たちが、『打ち切られる』というシーンも見たくはないが、

蒼がその恨みを一心にかう姿も……私はやはり見たくなくて。

出来たら休みでも取りたいなと思いながら、その日は重たい足を引きずり、

スーパーに入った。



「よかったわ、タイミングバッチリ」


そんなことを考えながら、イジイジしながら入ったスーパーだったのに、

特売品を見つけすっかりご機嫌の私。

家に戻り、冷蔵庫を開けて食材をしまいながら、自然とハミングしていく。

携帯が揺れたことがわかり、誰かと思い名前を見るが、

番号が表示されているだけで、相手がわからない。



こういう時には出ない方がいい。



なんとなくそう思えてしばらく無視していたが、なかなか呼び出し音が止まらない。

冷蔵庫に食材を詰め終えて、さらにご飯をレンジで温めている間も、

ずっと鳴り続ける。

こうなると、何か大事なことを忘れているのは自分ではないかと思えてきて、

私は電話を持ったまま、どうしようかと考えた。



あと……10回、鳴り続けたら、取ってみよう。



で、結局取ることになった。


【6-4】



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