6 計画の溝 【6-4】

【6-4】


「はい、もしもし」

『やっと出たわ……』


誰?


『風音だろ、おばちゃんだよ、鈴村のおばちゃん』

「あ、おばちゃん? やだ、びっくり」


『鈴村のおばちゃん』、正式には私の母の母、つまり私の祖母の妹になるため、

私にとっては『おばさん』ではなく、『大おばさん』になるのだが。


「どうしたの、急に」


携帯の番号など、知らないと思っていたので、何か起きたのかと思う私。


『いやぁねぇ……私も迷ったのだけれど、でも、風音しかいなくてさ』


おばちゃんは、何度も『申し訳ないけれど』と言いながら、話し出す。

去年の夏、実は母がおばちゃんのところに行き、借金を申し込んだと言うのだ。


「エ……」


そんなこと、何も知らない私。


『あのね、香代が、精密検査とやらをすることになって。で、5日間検査入院?
あれでね……』


おばちゃんは医療用語とか、難しい言葉がわからないよと言いながら、

それでも説明を続けてくれる。

母は、体の具合が悪く、検査をすることになり、

その結果、すぐにでも入院しなさいと医者に言われたのだという。


「どこの? どこが悪いの?」

『それが……最初は、血の巡りが悪いとかだったけれど、調べてみたら、
胃にポリープが出来ているとかで、薬でいいのか、手術になるのかと……』


おばちゃんに説明させようというのに無理がある。

そういえば、年末、実家に戻ったとき、引き出しの中から病院の領収書を見つけた。

母に聞いたら、たいしたことないと言われて、私もつい、そうなのかと流して。


「おばちゃん、教えてくれてありがとうね」

『うん……』


母は入院したのだろうか。そんな話何も聞いていないから、全然知らなくて。


『でね、風音。私もさ、香代は姪っ子だし、かわいいから、言いにくいけれど』

「あ、うん」


そう、本題はこっちだった。

おばちゃんは、半年をめどに返すと言っていた母が、

まだ全く借りたお金を返していないのだと言いはじめる。


『こんなことさ……うん』

「ううん、それはダメだよ」


いくら親戚だからと言って、もう年金で暮らしているような人から、

お金を借りておいてそのままというのは、明らかに母が悪い。

おばちゃんは、孫が大学受験をし、その入学金などでお金がかかるため、

半額だけでもすぐに返してもらいたいと、申し訳なさそうに話した。


「うん……」


一体、いくら借りたのだろう。

まず、母に連絡して……


「で、おばちゃん、母はいくら借りたの?」

『130万……』



130万円



思っていたよりも多い額。


「そうなんだ」

『いや、あの、うん……』


半額を返すとして、65万円。

正直、今の私がすぐに右に左に動かせるものではない。

祖父母たちは、どうなのだろう。


「わかった、とにかく母に連絡するから」


私は今かけている番号に、また連絡をしますと鈴村のおばちゃんに話し、

体に気をつけてねと一言加えると、受話器を置く。


「ふぅ……」


単純に、医療費だけで130万円かかっているのだろうか。

確かに祖父母のように恩恵を受けられる年齢ではないから、手術や入院だと、

それなりの金額はかかると思うが。

私は母の携帯に、電話をする。

呼び出し音が数回鳴り、声が聞こえる。


「もしもし」

『もしもし、どうしたの風音』


なんだか機嫌がよさそうだけれど。


「お母さん、今、鈴村のおばちゃんから連絡をもらったの」


さすがに母も名前でわかったのだろう、急にトーンが下がる。

私は、おばちゃんが話していたことが本当のことなのかと、まずは体のことを聞く。

母は、小さな声で、『うん……』と返事をした。


「それで、入院して、どうなったの?」

『手術と言われた』

「言われたって、まだしていないの?」

『色々あって、色々……』


母は、今は寒いから季節がよくなったらと言い返してくる。

私は、体のことなのだから、何よりも優先にすべきではないのかと、

つい口調が荒くなった。

母は黙ったまま。


「どういうことでお金を使っているの? 入院していないのなら、まだあるでしょう」


私はとにかくおばちゃんに返金して、病院の費用は私も協力をするからと申し出る。

母はそうだよねと言いながらも、具体的に語ろうとはしない。


「お母さん、何があった?」


高校生の頃とは違う。ここで『そうなんだ』と簡単に折れはしない。

何かがあるから、母はお金を借りているのだ。


「話したくないと突っぱねても、解決しないからね」


取り返しのつかないことにならないうちに、親戚だからなんとか事情を話して、

返済できるように……


『友達にね……こういう仕事もあるよって、そう言われて』


母は、『通販』で取り上げられるような商品を買い取り、

それを代理店で売ってもらうという内職をしたのだと話し出した。


【6-5】



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