6 計画の溝 【6-5】

【6-5】


入会金として50万円を入れ、商品を選んだが、そのラインナップがよくないのか、

あまり売れないと事実を語る。


「何、それ……」


詐欺と決めつけることは出来ないが、詐欺まがいに聞こえてくる。

つまり、母の手元に商品はあるが、売れない限りそれはお金にならない。

辞めますということは可能だが、そうなると商品は半値以下の金額でしか、

変えてもらえないと言う。


「どうしてそんなこと始めたの」

『頼まれたのよ、お母さんも』


母は、埼玉の実家に戻ってから、地元のスーパーで働いている。

祖父母は小さいけれど持ち家なので、食費とプラス少しくらい稼げたら、

なんとか暮らしていけるはずなのに。

母は、水回りの調子が悪かったりして、費用がかかったこと、

持ち家であるからこそ、必要なお金もあるのだと、必死に弁明する。

私はさらに言い返そうと思ったが、そうしたところで状況は変わらないため、

ここは一度大きく息を吐き、とにかく現状を考えることにする。



思い出した。



母は昔からこういうところがある。何かが起きたときにすぐに相談せず、

なんとか自分で出来ないかと、妙に隠してしまって。

それが明らかになるときには、『周りを驚かすようなことになって……』。

小学生の時、セールスマンに押し切られて、高級布団を買ってしまったことがあったし、

そう、高校2年のあの時も、『言い寄ってくる人』がいることを知らず、

突然入り込まれてあの事件になった。

そして今回……

母は、あれこれ言っているが、どう考えても先がない。

こうなったら、半値だろうがなんだろうが、商品は全て引き取ってもらい、

とにかく現金を揃え、なるべくおばちゃんに返金すること。

それから、もう一度病院に行き、先生と相談し、手術ならその計画を立てること。

お金のことは私が考えるので、祖父母にはあれこれ言わないことと、

母に何度も言い続ける。


『うん……わかった』


母はそういうと、とってつけたように私に体の具合はどうなのかと、聞いてくる。

私は大丈夫だからと答えると、とにかくきちんとして欲しいと、さらに念押しした。





私は、大学を出たとはいえ、まだ就職したばかりだ。

ボーナスもあるにはあったが、こんなことになるとは思わず、

一度見て気に入ったコートを買ってしまった。

一人暮らしをすれば色々とあるから、貯金通帳になにもないとは言わないけれど、

それでもおばちゃんが返して欲しいと言っている金額を、

ポンと出せるような余裕はもちろんなくて。

『お孫さんの入学金』に使いたいと言うのだから、この1ヶ月以内くらいに、

返金出来なければ意味が無い。

となると……


「石本さん」

「……は?」


名前を呼ばれて前を向く。

そこには心配そうな社長の顔。


「あ……」


いけない、仕事中だった。

しかも、今日から契約解除のメンバーが来ると言うのに。


「すみません」

「理解、した?」

「えっと……」


何の理解だろう。

そう思うこと自体が、理解していないと言うことだけど。


「理解はしていない顔ですね。誤解を受けると困るところですので、
もう一度、説明します」


蒼の顔、怖い。


「すみません」


今日から始まることは、もう何日も前から決まっている。

4月から新しい『キタック』になるための、最終コーナー。

それでも、『MAKINO』からは、蒼以外、誰も来ないのだろうか。


「今日から3名、作業に加わります。
そのうち2名は、『MAKINO』の人事担当をする者ですので、
細かい部分に関しては、任せていただきたいと思います」


3名の参加。

そうなんだ、やっぱり誰かが来るんだ。

蒼だけが矢面に立つのでは無いとわかり、少しだけほっとする。

社長を含め、今日はこの3階を使ってそれぞれと面談などがあるらしく、

中村さん達はすぐに外へ出て行ってしまう。

私は、日々の仕事があるため、いつもの場所に残るしかなく。

一緒に事務仕事をしてくれる奥村さんが、電卓を出した。

私は、配達された朝刊数紙の広告だけを抜き取り、納めている場所に置く。

抜き出した広告。

そこに1枚、求人のちらしを見つける。

『スーパーのレジうち』や『社員食堂の調理手伝い』。

時給と勤務日を確認するが、やはり平日の昼間。

もちろん、そんな仕事は出来るはずもなく。

私はちらしを半分に折ると、デスクの端に置く。

社長や副社長の話し合いの声を聞きながら、いつものように仕事を始めることにした。





『MAKINO』から来た3名は、2人が蒼と同じようにスーツを着た人で、

残りの1名は、『MAKINO』と書かれた作業服姿だった。

うちの社長と副社長も含め、5人が入ったパーテーションが作られ、

そこに呼び出された人が入り、順番に話を聞いていく。


『今までのような契約方法は取れないこと』

『引っ越し業務に携わるドライバーの契約方法は、2つだということ』

『引っ越し業務以外の、ドライバー業務にも関わらないとならないこと』


つまり、この全てを満たすことが出来ないため、今回新たな契約が取れなくなったのだと、

『MAKINO』から来た2名の男性は、流れるように言葉を送りだしていく。


「ちょっと待ってください」


寝耳に水というほど、急に進んでいる話ではないが、

みなさん、心のどこかでどうにかなると思っていた様子が見えてくる。

大手と一緒に仕事をすることイコール、

もっと自分たちの待遇が上がると、単純に考えていた結果といえばそうなのだろう。

全国に流通経路を持ち、荷物を海外にも動かしている『MAKINO』からすれば、

ドライバーと名のつく人たちだけで、相当な人数がいるはずだった。

もちろん、地域ごとに割り振られていて、全国全てを1箇所で束ねることはないだろうが。

最初こそ、不満そうな声が漏れてきたし、確かに、不満を並べ文句を言う人はいたが、

聞くのはここまでとラインを引くのがうまいため、

ある程度のところでスパッと言葉を収められてしまう。

『これ以上は無理だ』という諦めや、『今までが特別だったのか』という気づきなど、

私が思っていたよりも、話し合いは予定通りの時間を使うだけで流れていった。



『荷下ろし作業』



時々聞こえてくるこの言葉が気になったが、それはそのまま流すしかなく、

私は昼食を買いに行くため、話し合いの続いている3階を出た。


【ももんたの小ネタ交差点 6】

さて、風音にとっては『世界一の笑顔』を持つ、蒼と再会しました。
初恋の人との再会ってよくありますが、ライフネット生命さんの調べでは、
『初恋同士の結婚』は、なんと1%だそうです。(99はダメなのね)
まぁ、そうだよなと思いつつ、私の創作では結構……と過去作を考えたりして(笑)
読み手のみなさんの中に、いらっしゃいます? 初恋同士って。



【7-1】



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