7 格差の錘 【7-1】

7 格差の錘

【7-1】


トラックでも通れるような大きな通り。

そこにある横断歩道を渡ると、コンビニがある。

なにげなくお店に入り、雑誌コーナーの前を通ると、

その横には、無料でもらえる『求人雑誌』が置いてあった。

ただ手に取り、パラパラとめくる。



『高収入』



そこに書かれてあったのは、ようするにホステスさんの募集。

『未経験OK』とか、『誰でも丁寧に教えます』という誘い文句や、

『自分のために使えるお金』という言葉も。

幸いというか、『キタック』での仕事は、ほとんど残業がない。

毎日というのは大変だけれど、ある程度日付を絞っていけば、

私でも出来るかもしれない。

そんなことをボーッと考えていたら、

コンビニに『キタック』のドライバーが姿を見せたので、雑誌を元の位置に戻した。





『スナック ウィズ』


雑誌で見たお店ではないが、以前から帰りの電車内から看板が見えていた。

窓はなく、黄緑色の看板に白い文字で、店名が記されている。

ただ、誌面を見ていても、想像の域から抜けることはないため、

実際にどんなものなのかと思いながら、直接、話を聞くことにした。

普段使う駅ではないので、まぁ、聞き逃げもありだと思うし。

扉を開くと、騒がしい音でもするのかと思ったが、まだ今日は開店前らしく、

店にはママを任されている女性が一人いた。


「お店のチラシ?」

「あ、いえ、駅から看板が見えていまして」


私は、自分の収入に不足があるので、その分を賄える仕事を探しているのだと、

そう説明した。親がどうの、借金がどうのと、まだ話せる状態ではない。

ママだと思える女性は、ソファーに座ってくださいと言ってくれる。

私は手触りのよさそうなふっくらしたソファーに腰を下ろす。


「お名前は」

「はい、石本風音と申します」

「年齢は?」

「……今年、24になります」

「24か……だとすると、こういう場所での仕事経験はあるの?」

「いえ、全く」

「あ、そう」


名前から経験まで、立て続けに質問された。

ママだと思える女性は、今どき、女子大生もホステスを結構やるのよと、

マニキュアが綺麗に塗られた爪で、自分の目元に触れる。


「すみません、履歴書を持っているわけでもないのに、こんなふうにおじゃまして」

「ううん、いいの」


仕事の内容を説明してくれる雰囲気があったので、

私は『お聞きしたいことが』と先に話しかける。


「何?」

「あの……」





混雑の時間を過ぎたスーパー。

見切り品の中から、適当に食べたいものを選ぶ。



『それは無理ね』



私が質問したことの答え、それは『無理』というものだった。

私は、質問として、自分がお酒を飲めないのだと話した。

ママだと思える人は、『お酒が弱いのか』と聞いてきたので、

『ビールでなんとか1杯』と、正直に伝えて。



それ以上、飲めた経験がない……



「768円でございます」


レジの女性に言われ、私は千円札を出す。

袋は結構ですと断ると、ポイントが1つレシートに着いた。





買ったものを持ち、部屋までの道を歩く。

この道にはガードレールはなくて、歩道と車道の色が違うことで、

別だと言うことを示している。

緑色になっているのは、歩道。



『ホステスはね……』



ホステスの仕事というのは、飲みに来たお客様を楽しませること。私はそう説明された。

そのためにお酒を勧め、一緒に飲み、時間を共有し、

お客様とわかり合うことも当然重要だ。

『私は飲みませんが、あなたはお好きにどうぞ』では、一体感がなく、

確かにしらけるというもの。

会社の飲み会なら、『体が受け付けません』と謝罪すれば、不満そうな目をされても、

そうなのかと言われ、テンションだけ合わせれば済むが、

お金の絡む仕事では、相手を怒らせる可能性もある。

私には、水商売に一番必要な、『お酒が美味しいと思う才能』が思い切り欠けていた。



「はぁ……」


単純だっただろうか。収入を増やしたいから、ホステスという発想は。

でも、他に、仕事を終えてから夜に出来る仕事が思いつかない。

家に戻り食事を終えてから携帯を開き、『深夜バイト』と打ち込むと、

予想外に色々な職種が現れた。

ホステスはもちろんあったが、工事現場の警備員、さらに病院の守衛、

そして介護施設の見回りに、都心のビルの清掃作業。

結構色々とあるなと見ていくが、勤務場所が少し離れている。

今の職場と家とを考えると、あまり離れたところに出かけることになったら、

その行き帰りで相当疲れてしまうし、時間の無駄だ。

かといって、このあたりで何が出来るのかと思うと、やはり『水商売』しか浮かばなくて。


「あぁ、もう!」


携帯を手に握りしめ、体をベッドの上に落とす。

こんな時、離婚していても父親と連絡を取れていたら、私が借金するということで、

多少の援助もしてもらえたかもしれない。

でも、母は私が小学生になった頃に離婚していて、正直、それから父には会えていない。

風の噂で再婚しているという話も出ていたし、子供も生まれているという話も、

祖母から聞いた。となると、新しい家庭を守る方がどう考えても優先で、

かわいい時もあまり覚えていないような娘の訴えを、聞くことは難しいだろう。


『借金』


母は、こういうミスを犯すこともあるけれど、基本は一生懸命に私を育ててきてくれた。

そんな母のいいところを理解して……



……黒い車。



蒼のお母さんが、そういえば、『ふくたろう』に黒い車で迎えに来てもらっていたこと、

なぜか今、思い出す。

再婚相手は、『MAKINO』のグループ会社で、副社長をしている人だと聞いた。

そんな人がそばにいてくれたら、65や70……いや、130万円の返済だって、

軽く頷いてくれたかもしれない。



いや、そもそも、お金もうけをしたいなんて思わないから、

そんな借金自体、作らなかっただろうけれど。



『女の運命』か。

私は、両足を少しあげて、体操らしき動きをしながら、

何かいい方法はないかと、ひたすら考えた。


【7-2】



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