7 格差の錘 【7-2】

【7-2】


『人員整理』2日目。寒い……でも、きれいな空。

今日も、昨日と同じように、やると決められたことが、淡々と進んでいく。


「石本さん」

「あ……立石さん」


『立石さん』

私がアルバイトをしている頃から、ずっと『フォロー要員』として働いていた人。

そうか、やはりCランクだった。


「久しぶりだね」

「はい」


立石さんは、『辛いけれど仕方が無いな』と自分の性格を恨むよと苦笑する。

そう、立石さんは真面目な人だけれど、人付き合いが下手で、

今までいくつかの仕事を辞めてきた。

うちは引っ越し業者で、荷物を運ぶだけだと思い応募したが、

意外に依頼人と話をしたり、家具の配置から相談まで頼られることもある。

そのため、いつもメインにはならず、荷物だけを運び、

外で待機をするという勤務態勢を取ってきた。


「今までありがとね」

「いえ、こちらこそ」


私は立ち上がり、立石さんにきちんと頭を下げた。

入ったばかりで、まだ何も仕事がわからなくて失敗をした時、

『俺の最初に比べたら……』と何度か笑ってもらった。

そんな小さな優しさや気遣いが、無限大に嬉しいときがあって……。



『キタック』には、こうした少しだけ基本からズレてしまった人が大勢働いていた。

北村社長が、出来ないところを責めるより、

出来るところを活用しようという考えだったため、受け入れられてきたけれど、

『MAKINO』の審査には通らなかった。

そう、この前、蒼にこの部分の本音を聞き出したかったのだ。

『規格外』とレッテルをつけられてしまう人たちに対しての、

フォローを考える余裕が、『MAKINO』にはないのかと……。


立石さんがパーテーションの向こうに入り、それからあまり声もないまま、

5分後くらいに顔を出す。

手には1枚の紙が握られていた。


「石本さん」

「はい……」

「社長がさ、『MAKINO』にかけあってくれたんだ」

「エ……」


立石さんの顔、入るときよりもなんだか明るい。


「ほら、これ見て」



『MAKINO各営業所 荷下ろし要員』



『荷下ろし……』。昨日、そういえば、数回耳にした言葉だ。


「これ」

「うん……俺の勤務態度を見てくれていただろ、社長。
だから、新しい仕事を紹介してもらった」

「仕事?」

「うん……『MAKINO』の各営業所で、
増え続けている荷物を、配送地ごとに仕分けする仕事らしい」


『MAKINO』は全国に広がる配送会社だ。

営業所は、確かにうちの比ではないくらい、たくさんある。

内容も、引っ越しだけではなく、いや、そもそも配送がメインだった。


「配達荷物を場所別に分けていくだけだからさ、俺の苦手な人付き合いもないし、
ほら、時間も、選べるんだ」


立石さんが見せてくれたちらしは、

『MAKINO』の各営業所に申し込めるようになっているものだった。

裏には簡単な履歴書らしきものがある。


「さすが社長だよ、『MAKINO』のいいなりになるしかないのかと、
ちょっと思っていたのに、こうして交渉してくれていたんだ」


立石さんは、辞めることになるメンバーに、それぞれ配ったみたいだと嬉しそうに語る。


「このちらしの裏、履歴書のようになっているだろう。ここに記入して持って行ったら、
うちで頑張っていた社員と言うことで、面接とかも簡単にして、仕事につけるらしい」


立石さんは大事そうにちらしを見る。

私の目も、そのちらしを見た。

『勤務時間』。24時間、配送業務を担っている『MAKINO』らしく、

朝から晩まで、いや、深夜まで、色々な時間が確かに揃っている。



『4時から7時』



朝の4時に営業所に行き、7時まで仕分けや荷下ろしの作業。

時給は『1300円』


「1300……」


これ、私……


「なんだと、この若造が!」


立石さんとちらしを見ていると、次に入った男性が、急に大きな声を出した。

思わず体が固まる気がしてしまう。


「お前、『MAKINO』だかなんだか知らないが、こっちはな、必死に色々と考えて、
今まで『キタック』に尽くしてきたんだよ。社長も副社長もな、色々とわかって……」


パーテーションしかないので、話し声は少し大きいと全て聞こえてくる。


「それはわかっています。勤務態度が悪いとか、
そういうことを話しているわけではありません。
しかし、『MAKINO』と一緒にさらなる高みを目指すと決めた以上、この条件を……」

「お前が俺を最低ランクにしたから、こうなるんだろう」

「星、落ち着いてくれ」

「社長……落ち着けるわけがないじゃないですか。こんな子供みたいなやつに、
俺は人生の基本を打ち切られるんですよ。言ったじゃないですか、
『MAKINO』と組むことは、プラスになるって。話が違うよ。
冗談じゃないぞ、お前、どうやって責任取るんだよ」


蒼にたいしての言葉……


「何をどう叫ばれても、変わることはありません。人数で割っているわけではなく、
条件を取り入れられるのか、出来ないのか、そこが判断基準です」


蒼の声。


「24や5のお前に、何がわかるんだ!」


蒼……


『MAKINO』の仕事。『人員整理』。

だからこそ、どうしようもないことはわかっている。

でも、私は手を握りしめる。

そして、もう収まって欲しいと、身勝手に思ってしまう。

悪いのはどちらなのかとか、そういうことを冷静に考えられなくて。

ただ、『許して欲しい』と願った。


【7-3】



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