7 格差の錘 【7-5】

【7-5】


「何している」

「何って、いらない」


どうして私が蒼からお金を借りないとならないのだろう。

『100万円入りの封筒』

簡単に出してきたというその態度が、本当に腹立たしい。


「別に非難されるような金じゃない。俺が自分で出しているんだ。
生活が大変で、変なところから借りて、高い利息を払う方が馬鹿馬鹿しいだろう」


俺が……


思わず視線が封筒に向かう。

だって100万円だよ、それを簡単にポンと出せるわけ?

目の前にいる人は……


「利息を払うことが馬鹿馬鹿しいかどうかは、私が決めるの。
俺が自分で? へぇ……すごいね、さすがエリートだ」


なんだろう、自分と蒼の関係が、同級生という懐かしい思い出が、

全て崩れてしまう気がして、そんな言い方をしてしまう。


「風音……」

「仕事の中で同級生だと言うなとか、そぶりを見せるなと言ったのは蒼だよね。
それなのに何よ、いきなりタメ口だし。これも頼んでいませんから」

「だったらどうするんだ」

「今言ったしょう。だからバイトの面接に行った。仕事を見つけた、これから働くの」

「荷下ろしの仕事をなめたらだめだ。体を使うんだぞ、
大きな機械があったり、トラックが走り回る中だ。精神的にもきついところもある。
仕事をする人間も、気が荒いところがあって。わからなくてウロウロしていたら、
怒鳴られるかもしれない。それに、本当の仕事があるだろ、お前には」


蒼は意地を張らずに、とにかく借金を返してこいとお金を押し出してくる。


「人が来るかもしれない。すぐにしまえ」


命令口調、当然だという言い方。

気に入らないと言ったら、気に入らない。


「……いらないと、言っています」


私は、煮えたぎっている心をぐっと押さえ込み、

ゆっくり、それでも自分の思いは言葉に乗せる。


「蒼……」


名前を言った。これほどまで悔しそうに言う理由を、わかって欲しい。


「申し訳ないけれど、ここはそう呼ばせてもらうから」


古川さんなんて言い方では、気持ちが前に出ない。


「『キタック』がさ……『MAKINO』と力を合わせると決めてから、
私たちの前で、何人もが悔しい涙を流しているんだよ。
『キタック』が好きで、自分なりに貢献してきた人が、別れを言いにくるの……」


思いのままに話そうとしたからなのか、ポイントがどこかズレている気もしたが、

蒼のしていることを見ていたら、立石さんや星さんが呼び出された姿が、

よみがえってきた。

言いたいことが伝わればそれでいい。私は思いのままを言葉に乗せる。


「仕事がなかったり、うまくいかなかったりしたら、誰だって苦しいの。
片方で、何人も蒼にダメだしされている人を見てきて、
条件が、待遇がって、Cランクをつけられた人を見ていて……。
それでも助けることもできなくて、黙っているしかなくて。
それなのに、こっち側で大変だろうって、こんなふうにお金をポンと出されて、
私だけが、『はいどうも』って、借りたり出来ないよ」


都合がいい感情だけを、受け入れられない。


「風音、お前何を言っているんだ。ポイントがずれている。これは……」

「ズレていようがどうでもいい。世の中に困っている人はたくさんいるの。
でも……」


何を言われても、意地っ張りなのだ、私は。

同級生の、蒼の出したお金を、つかめるものか。


「早朝の仕事なんて続かないぞ。辛くなって倒れるか、
こっちの仕事で大きなミスをするかどちらかだ。それでも借金の返済は待ってくれない、
むしろ、膨らむ」

「まだやってもいないでしょう。
やってみて無理だと思えば、そうしたら他の仕事をします」

「他?」

「そう……」

「ホステスか」


やはりそこに来た。


「それは最初に考えたけれど、お酒が飲めないから無理だった」

「は? お前、やろうとしたのか」


蒼の驚いた顔。

私は黙って頷く。


「はぁ……」


蒼はソファーから立ち上がり、一度時計を見ると私の前に来る。

腰を下ろし、斜め横からこちらを見た。


「突然で驚くのもわかるし、押しつけているように見えているのなら悪いけれど、
とにかく、これは素直に借りてくれ。あれこれ言いたいことがあるのなら、
それは気持ちとして受け止めておく、ウソじゃない、そろそろ人が来る。
100万くらいで面倒なことを言うな」



100万くらい……



「くらい?」


また、引っかかった。『くらい』って何よ。


「だから……」

「くらいって言えるほど、お金もらっているんだ、蒼は」

「おい、風音……」

「気持ちだけでいい。そう、わかりました。私も同じです。
人が来るのなら、仕事だけしてさっさと帰ります」

「お前、そんなこと言って、強がるのもいい加減にしろ」

「蒼に命令されたくない。そういう口調はイライラする」


声が互いに大きくなる。

初日からずっとこんなふうに、上司でもないのに、命令されるようで……


「それなら、本当に自分でどうにかするというのか」

「言います。実際にするから……」

「そうか……」

「そうです」


こうなると意地だけの言い合い。


「あぁ、そうか、わかった。ホステスが出来ないのなら、そうだな、
それなら風俗にでも入って、とことん稼いでこい」

「は?」

「風俗なら、酒を飲む必要もないだろう。そうだよな、女はいいな、
最終手段があって……」


どうしてもお金を受け取らない私に対して、なんという台詞。


「あぁ、そうですね。こんな身勝手な蒼にお金を借りるくらいなら、
風俗のお店で割り切る方が……。うん、そう、そう思う」


私の腕を、蒼がつかむ。

痛いくらい、その力が伝わってきて……


「風音……お前……」




そんな顔……




「ウソ……行くわけないでしょ」


借金でどうしようもないからって、でも、流れようとは思わない。

あまりにも蒼の目が寂しそうで、喧嘩口調も続かなくなる。


「離してよ……蒼」



痛いから……



違う。

あまりにも、距離が近いから……

私の鼓動が速くなるのを、目の前のあなたに、聞かれてしまう気がするから。

だから、その手を離して欲しい……



【ももんたの小ネタ交差点 7】

創作の中に出てくる『MAKINO』は、配送業者です。その中に引っ越し業務も……。
こういった業者、実際にもありますが、この仕事はとにかく24時間、365日休みがない。
その慌ただしさの中でも、日本は荷物を丁寧に扱っていると思いますよ。
以前中国の配送動画を見ましたが、人も多いから荷物も多いのでしょう。
蹴って、投げて、踏んでました。そりゃ、壊れるよね。



【8-1】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント