8 無言の指 【8-2】

【8-2】


「あ、風音、こっち!」

「うん」


『女子会』には、みずなももちろん誘ったが、

なんと北海道に出張中だと言うことがわかったらしい。


「北海道」

「そうなのよ。みずな、今頃はトラクターの営業活動よ」

「するわけないでしょ、『SANGA』にトラクターはないんだから」

「あら、そうでしたかしら」


藍子は彼氏と順調らしく、一緒に行ってきた『ディズニーランド』のお土産をくれた。

ミッキーとミニーが並んでいるキーホルダー。


「ありがとう、かわいい」

「でしょ。前にさ、風音の部屋の鍵見たとき、何もついていなかったから」

「あぁ……確かに」


そういえば、家の鍵、不動産屋から受け取った状態のままで何もつけていない。

学生時代、よく通学バッグにみんな色々なものを目印としてぶらさげていたが、

私は何もなくて。

それが自分の目印だと、笑った記憶もある。


「こういうのつけた方がいいよ。つけていると、落としたときに音がするから」

「うん、ありがとう」


いただきものなら、拒絶する必要もない。

私はさっそく鍵を出すと、かわいらしいお土産を活用することにした。





「はぁ……」


楽しく食事をして、またねと別れて戻ってきたら10時を過ぎていた。

すぐにお風呂に入って、それから眠らないと。

明日まで両方頑張れば、その後の2日間は『キタック』だけになる。

私は浴槽にお湯を溜めることを辞めて、

すぐに済ませることが出来るシャワーを選択した。





「お願いします」


大型トラックが数台並び、それぞれが別の場所に動くため、荷物を中に押し込んでいく。

機械を使って運ぶ人は慣れているのか、操作も圧倒されるくらいだが、

その分、気持ちも荒いため、ウロウロしていると怒鳴られる。


「ほら、危ないだろうが、ひかれるぞ!」

「すみません」


外国に運ぶものなどは、さらに船の時間も決まっている。

この人達も、毎日、時間と戦っているのだ。

その後、宅配の荷物をそれぞれのカゴにわけていく仕事。

この宛先が書かれた地域に運ぶ人は、今から出勤してくるのだろう。

見えているのはあと3箱。そこまでで終わる。

重たい足と、少し痛みを伴う頭を必死に動かしながら、私は仕事を終わらせた。

着替えを済ませ、駅までの道を走りながら、何度もぶりかえしてくる頭痛と、

必死に戦って。



でも頭……痛い。



通勤電車でつり革につかまりながら、

学生時代、柄にもなく必死に勉強したこと思い出す。

そう、今の状態は、あの時と一緒、つまりは詰め込みすぎ。

それはわかっている。



コンビニに向かい、ブラックのコーヒーを買って、『キタック』に入る。

これを飲んだらきっと、頭がシャキンとするだろう。

大通りを渡る前に、さらに背伸びをする。

気持ちを切り替えるには有効だろうということは、思いつくまま、あれこれやってみた。





『今日の議題』



朝礼が始まり、社長が手作りの資料を出してくれた。

新聞に出ていた運送業についての記事。

これからはどういう方角を向くのか、どうやって企業が生き残るのか、

なんだろう、プリントを追わないとならないからなのか、目が……



まぶたが、重たい。



それから数分後、私は自分の頭がデスクに思い切り当たる『ガン』と言う音で、

現実に気づく。


「すみません」

「大丈夫か、石本さん」

「はい」


隣に座る中村さんの心配そうな台詞。

私は思わず、気になる場所に視線を向けてしまう。

蒼は、私を見ないまま、プリントを見ていて……


今の状態、気づかないわけ、ないけれど。


「それにしても……」


前に座っている松田さんが、漫画じゃないのだからと、

思い切り頭を打った私に対して、笑いを返してくる。


「あはは……すみません、ちょっと昨日は遅くまで映画を見ていたら、寝不足で……」

「映画? 全く、まだ頭が学生だな」

「はい、まだまだ若いので」


そう言って、ごまかすことしか出来なくて。

私は気持ちだけは必死に目覚めようと、目を大きく見開いた。





そんな生活も1ヶ月。

普段の生活もとにかく切り詰め、最初の返済日を迎える。

機械の扉が開き、そこに苦労して残したお金を入れる。

これで、借りた数万円が減った。

機械はあっという間に私の努力を飲み込み、ガシャンガシャンと音をさせた後、

ペラペラの紙を出してくる。

返済金額、残りの金額、それに伴う利子。

この後、何度この行為を繰り返したら、終わりになるのだろう。

考えると、頭がグルグルし始めた。

それでも『やるしかないのだ』。

私はそう自分に言い聞かせ、その日も早く、寝ることにした。





新しい体制の『キタック』が、『MAKINO』とのタッグでスタートを切った。

引っ越し業務は春休みで忙しいときを迎えているため、

慣れているスタッフがメインになり、『MAKINO』からのスタッフが、

そのフォローに回る。

3月から4月という月は、一般のお客様も引っ越しが多いけれど、役所関係や、

企業も異動などそれなりに仕事がある。

どちらも特徴を受け入れ、互いに意見を交換しながら、

新しい会社にしていこうと、現場は声がよく出るようになった。


「となると、法人関係に力を入れると」

「はい。収納場所として企業ボックスを作る話も動いていますし、
そのあたりで、『キタック』が続けてきた『荷泊』のノウハウも生きるかと」


蒼は神戸の本社が力を入れている仕事として、企業に直接受け入れてもらうやり方を、

提案し始める。『キタック』は今まで、個人の客と取引をする形が多かったので、

社長たちにも怖さはあるようだった。


「新しいものを取り入れるのなら、今ですよ、社長」


中村さんは、蒼の提案に賛成の意見を出す。

松田さんや中西さんも、『MAKINO』ががっちり着いている今こそ、

先へ向かうべきだろうと、意見を合わせた。

3人は別業界だったとはいえ、大手に所属し、それなりの経験がある人たちなので、

飲み込みも早い。


「『MAKINO』と現在付き合いのある企業まわりを、
少ししてもらいたいと思いますので、『キタック』の従業員として、
石本さんをお借りしてもよろしいですか」


蒼の提案に私の名前が入っていたことがわかり、出そうになるあくびを強引に抑える。

妙な口元になったので、咳をするふりをしながら、書類で顔を隠した。


【8-3】



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コメント

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見てられないね〜

こんにちは

風音ちゃん、危なっかしいね。
彼女がいつ倒れるか、蒼と一緒に見守ることにします(私は外野席)

毎日暑いね。
夏休み、ママもお疲れさま!

意地ですね

なでしこちゃん、こんばんは!

>風音ちゃん、危なっかしいね。

最初はね、気合いが入っているから、いいんだけど。
意地だけで乗り越えるのも、大変だと……
まぁ、見守ってやって。

夏休みになりましたが、お兄ちゃんはただいま、
友人達と東北の旅に出ています。
意外に、お気楽な母ですよ。